警察から「警告」を受けた|前科はつくのか、次に何が起きるのか
介護をしている最中の行為について、ご家族や職場、市町村の職員から「それは虐待ではないか」と言われることがあります。手が出てしまった心当たりがある方もいれば、まったく身に覚えがないという方もいます。いずれの場合も、そこから先に何が起きるのかが見えないまま、日にちだけが過ぎていくことが少なくありません。
このとき動き始めるのは、一つの手続ではありません。高齢者虐待防止法にもとづく市町村の手続、刑法にもとづく刑事手続、勤め先や資格に関わる手続は、それぞれ別の場所で別の基準で進み、片方の結論がもう片方をそのまま決めるわけでもありません。この記事では、その先に何がどう進むのかを、条文と国の調査結果に沿って整理します。
「虐待と言われた」が指しているものは一つではない
「虐待と言われた」という言葉は、実際には次のような、かなり違う場面をまとめて指しています。
・同居していない親族から「そのやり方は虐待だ」と言われた
・ケアマネジャーや訪問介護の職員から市町村に通報された
・市町村の職員や地域包括支援センターの職員が自宅を訪ねてきた
・勤め先の施設で聞き取りが行われ、市町村への通報がなされたと告げられた
・警察から連絡があり、事情を聴きたいと言われた
このうち一つ目は、まだ手続が始まっていない段階です。二つ目から四つ目は行政の手続の入口であって、刑事手続とは別のものです。刑事手続に属するのは、最後の一つだけです。同じ「虐待と言われた」でも、どの段階のどの手続なのかによって次に起きることは変わるため、まずは自分がどこにいるのかを見きわめるところから始まります。
高齢者虐待防止法が「虐待」と呼んでいる行為
高齢者虐待防止法(高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律)は、高齢者を六十五歳以上の者と定めたうえで(二条一項)、虐待を二つの立場に分けて定義しています。一つは家族などの養護者によるもの、もう一つは介護施設や介護サービス事業所の職員(養介護施設従事者等)によるものです。
養護者による虐待は、二条四項が次の行為を挙げています。
・高齢者の身体に外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること
・著しい減食や長時間の放置など、養護を著しく怠ること
・著しい暴言や著しく拒絶的な対応など、著しい心理的外傷を与える言動を行うこと
・わいせつな行為をすること、又はわいせつな行為をさせること
・養護者又は高齢者の親族が、その財産を不当に処分するなどして不当に財産上の利益を得ること
条文の言い回しで注意しておきたいのは、身体的虐待の定義が「外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行」となっている点です。実際にけがをしていなくても、定義には入り得る書き方になっています。また、財産に関する類型だけは、主体が「養護者又は高齢者の親族」とされています。日常の介護をしていない親族が財産を管理している場合も、この類型の対象になり得ます。
施設や事業所の職員による虐待も、二条五項がほぼ同じ五つの類型を定めています。こちらは職務上の義務を著しく怠ること、という言い方に変わっています。なお、二条六項により、六十五歳未満の障害のある方が施設を利用している場合も、職員による虐待に関する規定の適用上は高齢者とみなされます。
この法律には、虐待行為そのものを罰する規定がない
「介護 虐待 逮捕」という言葉から、高齢者虐待防止法違反という罪名で逮捕されるのだろうか、と考える方がいます。しかし、この法律の罰則は五章の二か条しかありません。
一つは二十九条で、市町村から事務の委託を受けた者が、その事務に関して知り得た秘密を正当な理由なく漏らした場合を、一年以下の拘禁刑又は百万円以下の罰金としています。もう一つは三十条で、正当な理由なく立入調査を拒み、妨げ、若しくは忌避した場合や、質問に答弁せず若しくは虚偽の答弁をした場合などを、三十万円以下の罰金としています。
つまり、虐待という行為そのものを処罰する規定は、この法律には置かれていません。刑事責任が問われるとすれば、それは刑法など別の法律にもとづくことになります。逆にいえば、市町村が虐待と判断したことと、刑事事件として立件されることは、同じ出来事の別々の評価であって、一方から他方が自動的に導かれるものではありません。
三つの手続は、判断する人も基準も時間の流れも別
介護中の一つの出来事は、次のように三方向に分かれて進むことがあります。それぞれの列を見比べると、なぜ同じ話について別々の連絡が来るのかが見えてきます。
| 手続 | 判断するのは誰か | 何を見ているか | 結論が意味すること |
|---|---|---|---|
| 高齢者虐待防止法にもとづく手続 | 市町村(施設の事案では都道府県も関与) | 高齢者の安全が確保されているか、支援が必要か | 虐待に当たるかどうかの判断と、その後の支援や措置の要否 |
| 刑事手続 | 警察・検察官・裁判所 | 特定の日時の特定の行為が犯罪の要件を満たすか | 立件・処分の要否と、有罪となる場合の刑 |
| 勤め先・資格に関する手続 | 事業者、指定権者である自治体、資格を所管する行政庁 | 就業規則違反の有無、事業所の運営基準の遵守、資格の要件 | 懲戒処分、事業所への行政上の対応、資格の登録に関する判断 |
この三つは、対象としている事実がある程度重なっていても目的が違います。市町村の手続は高齢者の安全と生活の立て直しを、刑事手続は行為が犯罪の要件に当てはまるかを、勤め先の手続は雇用契約と事業運営のルールを見ています。市町村が虐待と判断しても刑事事件にならないことがありますし、その逆の順序で話が動くこともあります。
通報は「虐待を受けたと思われる」段階で行われる
高齢者虐待防止法七条は、養護者による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した者について、生命又は身体に重大な危険が生じている場合は速やかに市町村へ通報しなければならない、それ以外の場合は通報するよう努めなければならない、と定めています。同条三項は、秘密漏示罪その他の守秘義務に関する規定は通報を妨げるものと解釈してはならない、としています。
施設や事業所の職員については、二十一条一項がさらに踏み込んでいます。自分が働いている施設・事業所で、職員による虐待を受けたと思われる高齢者を発見した場合は、速やかに市町村に通報しなければならない、という書き方で、「重大な危険」という限定が付いていません。
ここで押さえておきたいのは、条文がいずれも「受けたと思われる」という段階を通報の起点にしていることです。通報する人に、虐待があったと確かめる義務は課されていません。したがって、確証のない段階の通報や、後から見れば誤解だった通報も、制度の想定の内側にあります。通報されたこと自体は、虐待があったと認定されたことを意味しません。
誰が通報したのかは、原則として知らされない
八条と二十三条は、通報を受けた市町村や都道府県の職員に対し、職務上知り得た事項のうち通報者を特定させるものを漏らしてはならない、と定めています。また二十一条七項は、施設・事業所の職員が通報をしたことを理由として、解雇その他不利益な取扱いを受けないと定めています。
この仕組みがある以上、「誰が通報したのか」を市町村に尋ねても答えは返ってきません。事実確認の場でこの点にこだわると、話が本題から離れてしまいます。
通報のあと、市町村が最初に行うこと
九条一項は、通報や届出を受けた市町村は、速やかに高齢者の安全の確認その他の事実確認のための措置を講じ、あわせて地域包括支援センターなどの高齢者虐待対応協力者と対応を協議する、と定めています。訪問、電話、関係者からの聞き取りといった方法が、事案に応じて選ばれます。
どのくらいの速さで動くのかは、厚生労働省が毎年度公表している調査結果に数字が出ています。令和六年度の調査によると、養護者による虐待の相談・通報では、受理から事実確認の開始までの期間の中央値は〇日、つまり即日でした。受理から虐待かどうかの判断までの中央値は四日です。一方、施設・事業所の職員による虐待の相談・通報では、事実確認の開始までが中央値五日、判断までが中央値四十三・五日となっています。
家庭の事案では翌日には連絡が来るのに、施設の事案では一か月以上何も決まらない、という差はここから生じています。家庭の事案は高齢者の安全確認が急がれる一方、施設の事案は市町村から都道府県への報告(二十二条)を含む関係機関の確認を経るため、時間の流れ方が違います。
通報された件数と、虐待と判断された件数は同じではない
同じ令和六年度の調査で、市町村が受けた相談・通報の件数と、実際に虐待と判断された件数は次のようになっています。
・養護者によるもの 相談・通報四一、八一四件に対し、虐待判断一七、一三三件
・養介護施設従事者等によるもの 相談・通報三、六三三件に対し、虐待判断一、二二〇件
割合にすると、養護者による事案で約四一パーセント、施設・事業所の事案で約三四パーセントです。数字の上では、通報された事案の多くが、事実確認を経て虐待とは判断されていないことになります。
通報されたという一事で結論が決まるわけではなく、その後の事実確認の中で何がいつ起きたのかが確かめられていきます。逆にいえば、事実確認の段階でどのような説明をするかが判断に関わる、ということでもあります。
立入調査が行われる場面は限られている
十一条一項は、市町村長が、養護者による虐待により高齢者の生命又は身体に重大な危険が生じているおそれがあると認めるときに、地域包括支援センターの職員などに住所又は居所へ立ち入らせ、必要な調査や質問をさせることができる、と定めています。正当な理由なくこれを拒んだ場合の罰則が、先に触れた三十条です。
もっとも、この手段が用いられる場面は限られています。令和六年度の調査では、市町村が事実確認を行った四〇、一三二件のうち、訪問調査が五九・七パーセント、関係者からの情報収集が三三・三パーセントであったのに対し、立入調査は一四一件、割合にして〇・三パーセントでした。多くの事案は、通常の訪問や聞き取りの中で確認が進んでいます。
この調査は犯罪捜査ではない
十一条三項は、立入調査や質問を行う権限について、犯罪捜査のために認められたものと解釈してはならない、と明記しています。市町村の職員が来ることと、警察の捜査が始まることは、制度上、別のことです。
ただし、十二条は、市町村長が立入調査の職務執行に際して必要があると認めるときに警察署長へ援助を求めることができ、高齢者の安全確保に万全を期する観点から、必要に応じ適切に援助を求めなければならない、とも定めています。行政の手続と警察の関与が接する場面は残っています。また、令和六年度の調査では、養護者による虐待の相談・通報者のうち三五・六パーセントが警察でした。警察が先に関わり、そこから市町村へ話が伝わる流れも、実務では珍しくありません。
事実確認で尋ねられること
市町村の事実確認で問われるのは、行為の善悪よりも、その日の状況と現在の生活の見通しであることが多いです。おおむね次のような点が尋ねられます。
・いつ、どこで、どのような場面だったのか
・そのとき本人はどういう状態だったのか(体調、認知症の症状、興奮の有無など)
・ほかに取り得る対応を試したか、どのくらい試したか
・現在、本人にけがや体調の変化があるか
・誰が、どのくらいの時間、介護を担っているか
・利用している介護保険サービスの内容と頻度
・今後、負担を減らすためにできそうなことがあるか
最後の三つは、責任追及ではなく支援の設計に関する質問です。十四条一項は、市町村が養護者の負担軽減のために相談、指導、助言その他必要な措置を講じるものとし、二項は緊急の必要がある場合に高齢者が短期間養護を受けるための居室を確保する措置を定めています。負担の実情を正確に伝えることには、意味があります。
刑事の側で問題になり得る罪名
刑事責任が問われる場合、罪名は行為の内容によって分かれます。主なものだけを挙げると、次のとおりです。
・身体に対する有形力の行使 暴行罪(刑法二〇八条)。けがが生じた場合は傷害罪(同二〇四条)
・必要な世話をしないこと 保護責任者遺棄罪(同二一八条)。それによって死傷の結果が生じた場合は遺棄等致死傷罪(同二一九条)
・部屋から出られない状態にすること 逮捕・監禁罪(同二二〇条)
・人格を否定する言葉 侮辱罪(同二三一条)に当たり得る場合があります
・財産の処分 窃盗罪(同二三五条)、横領罪(同二五二条)、業務上横領罪(同二五三条)など
・性的な行為 不同意わいせつ罪(同一七六条)、不同意性交等罪(同一七七条)
家族間であれば罪にならないのではないか、という質問をいただくことがあります。刑法二四四条には親族間の特例が置かれていますが、これは窃盗などの財産に関する罪についての規定であり、暴行罪や傷害罪には及びません。財産に関する類型と、身体に関する類型とで、扱いが違う点には注意が必要です。
家族が介護している場合に起きること
家族が介護している事案では、市町村が虐待と判断した後の対応の中心は、処罰ではなく分離の要否と支援の組み立てです。令和六年度の調査では、虐待と判断された事案のうち、虐待をした養護者から高齢者を分離した事例は四、六四四人分、割合にして一九・〇パーセントでした。裏を返せば、八割程度の事案では分離は行われていません。
分離が行われた場合の内訳は、契約による介護保険サービスの利用が三五・四パーセント、医療機関への一時入院が一七・三パーセント、老人福祉法にもとづくやむを得ない事由等による措置が一六・二パーセントなどとなっています。分離を行わなかった事案では、養護者に対する助言・指導が五九・六パーセント、ケアプランの見直しが二七・六パーセントでした。
老人福祉法の措置により入所した場合には、十三条により、市町村長又は施設の長が養護者の面会を制限することがあります。また、財産に関する問題がある事案では、成年後見制度が用いられることがあります。令和六年度に成年後見の利用を開始した、または手続中であった一、四九八人のうち、七〇・四パーセントが市町村長による申立てでした。
なお、同じ調査で発生要因として最も多く挙げられたのは被虐待者の認知症の症状(五八・一パーセント)、次いで介護疲れ・介護ストレス(五七・二パーセント)でした。介護の負担が背景にあること自体は、行政の側でも把握されています。
施設・事業所の職員の場合に起きること
職員の場合は、動く手続の数が増えます。市町村への通報(二十一条)を受けて市町村が事実確認を行い、市町村から都道府県への報告(二十二条)がなされ、二十四条により市町村長又は都道府県知事が老人福祉法又は介護保険法にもとづく権限を行使します。事業所に対する指導や改善計画の提出、場合によっては指定の効力の停止などが、この流れの先にあります。
あわせて二十五条は、都道府県知事が毎年度、職員による虐待の状況やとった措置などを公表するものとしています。個々の事案でどこまでの内容が公表されるかは、自治体によって異なります。
勤め先との関係では、就業規則にもとづく調査と処分が市町村の手続と並行して進むのが通常です。事業所の側にも改善を求める対応が及ぶため、聞き取りが短期間で集中的に行われることがあります。
資格に与える影響
介護福祉士や社会福祉士の資格については、社会福祉士及び介護福祉士法三条が欠格事由を定めています。二号は、拘禁刑以上の刑に処せられ、その執行を終わり、又は執行を受けることがなくなった日から二年を経過しない者です。三号は、この法律その他の社会福祉又は保健医療に関する法律のうち政令で定めるものにより罰金の刑に処せられた場合を挙げています。
条文の作りからすると、刑法の暴行罪などで罰金となった場合は、三号が挙げる法律には含まれません。もっとも、これは資格の登録という一点に関する話で、雇用契約上の評価は別に行われます。介護職員初任者研修や実務者研修の修了者、資格を持たずに介護に従事している方には、そもそも資格の欠格制度自体がありません。資格の話と雇用の話は、分けて考えておくと見通しが立てやすくなります。
身体拘束が問題になる場面
介護中の行為が虐待と言われる場面で、しばしば争点になるのが身体拘束です。令和六年度の調査では、職員による虐待の被虐待高齢者二、二四八人のうち、身体拘束があったとされたのは四九五人、二二・〇パーセントでした。
介護保険の運営基準を定める省令は、入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他行動を制限する行為を行ってはならない、と定めています。そして、身体的拘束等を行う場合には、その態様及び時間、その際の入所者の心身の状況並びに緊急やむを得ない理由を記録しなければならない、とされています。
この「緊急やむを得ない場合」の考え方として広く用いられているのが、いわゆる三要件です。生命又は身体が危険にさらされる可能性が著しく高いこと(切迫性)、ほかに代替する介護方法がないこと(非代替性)、一時的なものであること(一時性)の三つを、いずれも満たすことが求められます。判断は担当者個人ではなく施設全体で行い、本人や家族への説明を経ることが望ましいとされています。
この当てはめが実際に問題となった事例として、最高裁判所平成二十二年一月二十六日判決(民集六十四巻一号二一九頁)があります。入院中の八十歳の患者がせん妄の状態となり、深夜に頻繁にナースコールを繰り返し、興奮してベッドから起き上がろうとする行動を繰り返したため、当直の看護師らがミトンを用いて両上肢をベッドに拘束したという事案です。
最高裁は、患者に四か月前と十日ほど前の転倒歴があったこと、看護師らが約四時間にわたり、汚れていなくてもおむつを交換しお茶を飲ませるなどして落ち着かせようと努めたものの興奮状態が収まらず、深夜の勤務態勢からして付きっきりの対応が困難であったこと、入眠を確認して速やかにミトンを外し拘束時間が約二時間であったことなどの事情のもとで、転倒・転落により重大な傷害を負う危険を避けるため緊急やむを得ず行われた行為であり、診療契約上の義務に違反せず、不法行為法上も違法とはいえないとしました。
病院の事案ではありますが、何をどこまで試したか、どのくらいの時間で解除したかという具体的な事実が判断を左右したという意味で、介護の現場でも参照される判断です。こうした事実が記録として残っていなければ、後から示すことは難しくなります。
記録と説明が意味を持つ場面
事実確認でも刑事手続でも、後から効いてくるのは断片的な記憶ではなく、その時点で残されていた記録です。次のようなものが手がかりになります。
・介護記録、業務日誌、申し送り、ヒヤリハット報告
・身体拘束を行った場合の態様・時間・理由の記録と、検討の経過がわかる資料
・本人の受診記録、服薬の内容、直近の心身の状態に関する記載
・ケアプランやサービス担当者会議の資料
・家庭であれば、通院の付き添いや服薬管理の記録、家計の出入りがわかる資料
・防犯カメラの映像(保存期間が限られていることが多いため、早めの確認が必要になります)
財産に関する疑いが向けられている場合は、生活費の立替えなのか本人のための支出なのかを領収書や口座の記録で説明できるかどうかが分かれ目になります。記憶に頼った説明よりも、書類の裏づけがある説明のほうが受け止められやすくなります。
説明するときに気をつけたいこと
市町村の職員や警察に対して説明する場面では、次のような点が後の展開に影響します。
・「つい手が出た」のような一語でまとめず、直前に何があったかを順序どおりに話す
・記憶が曖昧な部分は、曖昧なまま曖昧だと伝える
・その日に試した対応を、思い出せる範囲で具体的に挙げる
・自分に不利な事実を隠した説明は、後で覆すことがかえって難しくなる
・調書を作成された場合は、内容を読み、事実と違う部分は訂正を申し立てる(刑事訴訟法一九八条四項)
・調査を拒む対応は、十一条の立入調査に関する三十条の問題を生じさせることがあるほか、事案の見立てにも影響し得る
市町村の職員が来た段階と、警察から連絡があった段階とでは、注意すべき点が変わります。前者は支援の設計を含む話し合いの場である一方、後者は刑事手続の入口です。どちらの段階にいるのかがはっきりしないときは、早めに弁護士に相談し、状況を整理しておくことが考えられます。
よくある質問
虐待と判断されたら、そのまま刑事事件になるのですか
市町村の判断と刑事手続は別の枠組みです。市町村が虐待と判断しても、刑事事件として立件されない事案は多くあります。逆に、市町村が虐待とは判断しなかった事案について、警察が別途捜査を進めることもあり得ます。二つの手続の結論が一致するとは限りません。
けがをさせていなくても、虐待になるのですか
高齢者虐待防止法の身体的虐待の定義は、「外傷が生じ、又は生じるおそれのある暴行を加えること」となっており、けがの有無だけで区切られてはいません。他方、刑事の側では、けがの有無によって暴行罪と傷害罪が分かれます。同じ行為でも、行政上の評価と刑事上の評価がずれることがあるのは、このためです。
身に覚えがない場合、どう対応すればよいですか
まず、いつ、どの場面についての指摘なのかを確認することが出発点になります。そのうえで、その時間帯の記録や、同じ場面にいた人の存在を確かめておくと、事実確認の場で説明しやすくなります。調査そのものを拒む対応は避けたほうがよく、事実関係を整理しながら応じるほうが、結果として早く落ち着くことが多いといえます。
まとめ
介護中の行為が虐待と言われた場面について、要点を整理します。
・「虐待と言われた」には、市町村の手続、刑事手続、勤め先や資格の手続という三つの流れが含まれており、判断する人も基準も別である
・高齢者虐待防止法には虐待行為そのものを処罰する規定はなく、罰則は委託先の秘密漏示(二十九条)と立入調査の拒否等(三十条)の二つに限られる
・通報は「虐待を受けたと思われる」段階で行われる制度であり、通報されたことが虐待の認定を意味するわけではない
・令和六年度の調査で、相談・通報のうち虐待と判断されたのは養護者の事案で約四一パーセント、施設の事案で約三四パーセントだった
・事実確認の速さは家庭と施設で大きく異なり、立入調査が用いられる事案は〇・三パーセントにとどまる。その権限は犯罪捜査のために認められたものではないと条文に明記されている
・家庭の事案で分離が行われるのは二割弱で、多くは助言・指導やケアプランの見直しといった支援の組み立てに向かう
・職員の事案では、市町村と都道府県の手続、事業所への行政上の対応、雇用と資格の問題が並行して進む
・身体拘束は三要件と記録の有無が判断を左右し、説明の場ではその日の経過と試した対応を具体的に示せるかどうかが手がかりになる
介護を続けながら、行政の調査と刑事手続の両方に向き合うのは負担の大きいことです。どの手続のどの段階にいるのか、何をいつまでに整理しておく必要があるのかがはっきりすれば、対応の見通しは立てやすくなります。判断に迷う段階でも、早めに相談していただくことで取り得る選択肢は広がります。


