マナーうんちく話503≪「割箸」はなぜ割れているの?≫
ユネスコの無形文化遺産に登録されている和食には、日本の文化に基づいた日本独特の作法が多くあります。
四季の豊かさ、年中行事、生活様式などの影響もありますが、神道や稲作の影響が非常に大きいと思います。
もともと日本の住居は板張りの部屋だったわけですが、板の上は固くて、冬は冷たく、お世辞にも快適とは言えません。
そこで稲わらを編んだ畳が考案されるわけですが、千利休が茶の湯文化を広めたのに伴って普及し、江戸時代になると庶民でも畳暮らしができるようになります。
ただ日本の住居は大変狭く、畳の部屋で布団を敷いて寝たり、ご飯を食べたりしなければなりません。
大事な生活空間ですから、常に清潔な状態を保つ必要があるわけです。
だから他者の家を訪問し和室に通されたら、裸足は無作法になります。
また当時の日本には、テーブルと椅子の文化はありません。
卓で食事をする習慣もしかりです。
畳や板の上に正座して、低いお膳で食事をしていたようです。
ちなみにテーブルを畳の上に置かなかったのは、畳が傷つくからで、お膳が使用されたのは一度に持ち運びができるからだと思います。
日本の和食の作法はこのような状況の中で生まれたわけです。
従って、この状況で食事をするシーンを思い浮かべて頂ければある程度、和食の作法が「なぜそうなるのか」楽に理解できると思います。
●奥が深い!器を持って食べる理由
和食のマナーの特徴に器を持って食べることがありますが、これには物理的な理由と心理的な理由があります。
さらに和食は、手触り、口触り、見た目なども食事を堪能する大事な要素になります。
テレビ番組で品物を鑑定する番組がありますが、茶器などにも家一軒が購入できるくらいの値が付くことがありますね。
〇物理的な理由
座敷、もしくは板の間で、正座したり胡坐をかいた状態で、低いお膳に乗ったご飯や汁をいただく際、食べ物と人の口の距離が離れすぎていて食べにくいので、器をもって食べるようになったわけです。
加えてみそ汁のようなものは木でできた「お椀」を使用しているので、熱伝導率が低く持ちやすいのと、直接口につけやすくなっています。
また吸い物やみそ汁は器を直接もって口をつけた方が、香りも嗅ぎやすいわけです。
〇精神的な理由
以前「マナーうんちく話」でお話ししましたが、日本にはご飯を戴く場合に米に敬意を払う風習がありました。
ご飯茶碗に盛られたご飯を食べる時に、米は神様が宿る大変神聖な食べ物ですから、両手で丁寧に以って、少し上げてご飯に謝意を表すわけです。
また米がメインの親子丼やてんぷら丼のような丼物も持って食べます。
「瑞穂の国」という美称を持つ日本ならではの美しい作法です。
●何でも、かんでも持てばいいわけではない
器を持って食べる作法は世界で大変ユニークですが、何でもかんでも持てばいいわけではありません。
基準は自分の手の平の大きさです。
従って小鉢のようなものは持って食べますが、刺身の盛皿のようなものは持ちません。
食べにくい時には小皿に移して食べます。
●洋食が手に持って食べない理由
和食と異なり、洋食、つまりフォークやナイフで食べる時には、器は一切持ちません。
欧米は椅子にテーブル形式の食卓で、おまけに肉食ですから、料理を皿に置いた状態で、切ったり刺したりしていただきます。
そのため洋食の器は重たくて、大きめなサイズで出来ています。
だから皿は移動させません。
またグラス類は飲んだら元の位置に置きます。
世界でも大変ユニークな「器を手に持って食べる」という文化は、食べ方のみならず、感謝の心や実用性が融合した行為であり、食べ方以上の奥深い意味が込められているということです。



