マナーうんちくばなし2250《半年間蓄積した邪気を払い、夏のエネルギーを吸収したい6月・水無月の歳時》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:歳時記のマナー

5月下旬から我が家の畑に蝶々が多く飛び始めました。
「夢見鳥」の異名を持つ、白や黄色の可愛らしい蝶々が、ひらひら飛んでいる姿は、のどかで平和な光景なのですが、喜んでばかりいられません。

蝶々の幼虫は、野菜の葉っぱを食べる「青虫」だからです。

つまり高温多湿になり多くの青虫が発生しているということで、野菜作りにとって何かと注意が必要な時です。

ところで旧暦では6月は「水無月」と呼ばれますが、田植えをするために田んぼに水を張る月という意味です。

いよいよ本格的に田植えが始まるわけですが、今年は出来上がった米の行き先が、早くも決まってしまっているところも結構多いようです。

また世界屈指の美食の国になった日本で、国が不測の事態に備えて保管している「備蓄米」に大きな関心が寄せられていますね。

「瑞穂の国」という美称を持つ国で、なぜこのような現象がおきたのでしょうか。

飽食の時代という言葉がある今、日本人は米のみならず食への謝意や敬意を忘れてしまった気がしてなりません。


【連作可能な米作りから「しきたり」が生まれた!?】
夏野菜のトマト、キュウリ、ナスビ、ピーマンなどは、昨年と同じ場所に植えると「連作障害」を起こし、生育が悪くなったり枯れたりします。

しかし同じ田んぼで米を毎年作っても連作障害は起こりません。
なぜだかご存じでしょうか?

田んぼに水を張るからです。
田んぼに水を張り、田植えをすることで、少ない面積で、多くの収穫が期待でき、しかも連作を可能にした先人の知恵は本当に素晴らしいと思います。

ただ、水を張るには水路が必要ですが、それとともに水路を清潔に保つ努力も必要不可欠です。

だからみんなで共同作業するようになったわけで、ここから助け合いや支え合いの精神が育まれ、数々の「しきたり」が誕生するわけです。

日本人は世界一清潔な国民といわれますが、神道の「清める」という概念や、温泉国ということに加え、田んぼの水路を清潔にするための作業が関連しているのでしょう。


【四季が明確に分かれている日本独特の風習「衣替え」】
6月には国民の祝日はありませんが、行事としては「マナーうんちく話」でも度々触れています「衣替え」があります。

平安貴族から派生したしきたりですが、明治になって制服が着用されるようになって6月と10月になりました。

ちなみに平安貴族の時代は着物ですが、位の高い女性が着る十二単(じゅうにひとえ)の一番下の「小袖」が、今の着物の始まりといわれています。

四季に合わせて、材質や柄や仕立て方が変わる着物は、日本ならではの伝統的な文化で、衣服を変えることで、季節の折り目を正したのでしょう。

「立てば芍薬 座れば牡丹 あるく姿は百合の花」や「いずれ菖蒲か杜若」という慣用句は、すべて着物を着た美しい女性の褒め言葉です。

そして鎌倉時代になると、衣服のみならず調度品まで取り換えるようになってきます。


【田植えが始まる「芒種」】
二十四節気の一つで穀物の種をまくという意味の「芒種」の頃は、しだいに蒸し暑くなり梅の実も色づいてきます。

間もなく梅雨入りですが、この時期の言葉に「五風十雨」があります。
5日に一度風が吹き、10日に一度雨が降るという意味で、農作業には好都合ということですが、転じて世の中が安泰という意味でも使用されます。

暦の上での梅雨入りを意味する「入梅」は6月11日です。
梅雨は梅が熟す頃に降る雨ですが、黴が生えやすくなるので「黴雨」とも呼ばれます。

「五月晴れ」は、梅雨と梅雨の合間の晴れの日を言います。

また梅雨といえば傘が必需品ですが、昔の傘は「和傘」です。
もともと中国からの伝来で、当時の傘は開閉できず、開いたままで、日よけや魔除けに使用されたようです。

最初は特権階級の人だったものが、江戸時代になり様々な改良が施され、庶民でも手にすることができるようになりました。

元禄時代の「蛇の目傘」は有名ですが、明治になり「洋傘」が輸入され、次第に和傘は影を潜めましたね。


【「田植え」と「田の神様」】
この時期は多くの地域で「田植え祭り」が開催され、豊作祈願が行われます。

今まで何度も触れましたが、民俗学では「田んぼの神様」は「サ」と呼ばれていたようで、田植え祭りには「早苗」や「早乙女」のように、「サ」のつくものが多く存在します。

昔は、田植えは女性がするもので、男性はあぜ道の上で笛を吹いたり太鼓をたたいたりしてムードを盛り上げるわけですが、早乙女は多くの男性の視線を集めていたのではないでしょうか。

今は機械化されていますが、昔の田植えは一年で最も大事な大仕事であり、単なる農作業ではなく、田んぼの神様をおもてなしする神聖な儀式でもあったわけです。

さらに多くの手間・暇がかかるので、「百姓の汗の結晶」ともいわれていました。
食前の「頂きます」という言葉は、まさにその汗の結晶に感謝する言葉だと思います。

令和の米騒動で、米に対する不安が高まりましたが、稲の語源は「命の根」であり、「一粒の米にも7人の神様が存在する」大変神聖なものだけに、生産者も、消費者も、社会全体が潤えるようになってほしいものですね。

消費者は米が高くて買えない、生産者は米を作っても儲からないという罰当たりな世の中になってはいけないと思います。
「瑞穂の国」という、美しい名に恥じないふるまいをしなければいけないということです。


【時の記念日と儚さの象徴「蛍」】
人間と時の関りは非常に古く、大昔は太陽の位置で大まかな時刻を把握していたといわれます。

私もたまに百姓仕事をしているときに、太陽の位置で大まかな時刻を推定することがありますが、以外に当たっています。

6月10日は「時の記念日」です。
時計の歴史も長く、紀元前3000年頃の、古代エジプトの日時計にさかのぼるといわれます。

日本では、天智天皇が水時計をつくり、太鼓をたたいて時を知らせたのが6月10日だったので、この日が時の記念日になったようです。

一日を12等分して12支を当てて時刻を表していた時代もありましたが、時計は大変貴重品で、いつも正確な時間を把握することはできません。
ただ日常性格も非常にスローですから、それはそれでよかったのでしょうね。

6月も半ばになると「蛍」が飛び交うようになります。
我が家の近所の小川でも見られますが、この光景はいつまでも続いてほしいものです。

和歌にも夏の風物詩として詠まれていますが、蝉とともに命の儚さのシンボルとして捉えられており「蛍二十日蝉三日」ともいわれます。

6月21日は、昼が一年で最も長くなる二十四節気の一つ「夏至」です。
本格的な暑さは夏至の一月後にやってくるといわれますが、もうこの時点で、真夏日続出で、これ以上暑くなったら困りますね。


【半年分の邪気を払う夏越の祓い】
6月の月末は「夏越の祓い」があります。
半年間にたまった罪や穢れを払う行事で、各地の神社で月末から7月中旬にかけて「茅の輪くぐり」が行われます。

茅で作った大きな輪をくぐって、穢れを払い、残りの半年間を元気で過ごせるよう祈願します。

茅の輪くぐり後は「水無月」と言われる和菓子をいただく風習があります。

白い「ういろう」の上に、邪気払いの効果がある小豆を散らします。
三角形に切るのは、暑気払いの氷にみたてているからです。

私が開催している「生涯現役百歳大楽校」6月講座は、「和菓子作り教室&お抹茶カフェ」で、「水無月」の和菓子を作り、その後抹茶を楽しんでいただきます。

「和文化クイズ」も行いますが、問題のテーマに、水無月や6月の歳時記、お茶と縁が深い千利休の「おもてなし」の仕方・受け方等も取り入れたいと考えています。

既に13年以上続いているので、復習の意味も込められていますが、レベルの徐々に高くなってきています。
次回のコラムで取り上げる予定ですので、ぜひ挑戦してみて下さい。


日本の伝統的なしきたりを理解し、それを実践することで、自分自身の中に存在している生命力や免疫力を高めることができるのではないでしょうか。

また邪気払いに加え、真夏になる前に、夏野菜をしっかり口にして、体力を蓄えておくのもいいですね。

この時期の野菜は大地と太陽の恵みをしっかり受け、すくすくと育っているので生命力が強く、栄養価も高いのでしっかり頂きたいものです。

雨にも負けず、夏の暑さにも負けず、身も心も元気でご活躍下さい。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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