マナーうんちく話527≪結婚記念日≫
明けましておめでとうございます
昨年はマナーうんちく話にお付き合いいただき心よりお礼申し上げます
今年もよろしくお願いいたします
さて日本では、正月になると誰もが当たり前のように「明けましておめでとうございます」の挨拶をかわします。
これは元旦に各家庭に里帰りされる年神様を歓迎する挨拶で、これには健康、子孫繁栄、五穀豊穣を願う意味が込められています。
「黒豆」「数の子」「田づくり」がお節料理の定番に成っているのもそのためかもしれませんね。
さらに明けましておめでとうの挨拶には、寒い中、みんな揃って誕生日を迎えたことを喜び合う意味も含まれています。
ちなみに昔は旧暦で「数え年」ですから、正月になると全員一斉に1歳加算されたわけです。
日本で一番古い行事であり、一番おめでたい行事でもある日本の正月の挨拶言葉は実に奥深い意味がありますね。
このような由来を持つ言葉ですから、令和7年になって初めて会う人には、しっかり「明けましておめでとう」の挨拶を交わしていただければと思います。
ところでお正月、箸はじめ、七五三、長寿の祝い、結婚式などなど、日本の伝統的な慶事は多岐にわたりますが、そのおめでたい行事で戴く食事を「祝い膳」といいま。
そして祝い膳に使用する箸を「祝い箸」といい、祝い箸にはいろいろな呼び名や特徴、さらに祝い箸ならではの作法があります。
令和7年が皆様にとって「祝い箸」を使用する機会が多く訪れることを願って、祝い箸の基礎知識や作法に触れてみます。
●最上の格式を有する祝い箸
世界3大食法の一つである「箸食」は日本を始め中国、朝鮮半島、東南アジア等で見られます。
その多くの国で箸はスプンなどを併用して使用されますが、箸だけで食し、箸にも厳格な作法を布いているのは日本だけです。また箸にも3つの格式を設けており、祝い箸はその中で最も高い格式を有します。
●様々な呼び名がある祝い箸
祝い箸には異なる呼び名が多くあり、その一つ一つには込められた意味があるとともに、祝い膳で祝い箸を使用する理由が良く理解できます。
〇柳箸
祝い箸は柳の白木で作られているので「柳箸」とも呼ばれます。
柳は、しなやかで強く、さらに春になれば真っ先に芽吹くので大変縁起が良い木と考えられています。柳は日本では大変清浄で神聖な木といわれているわけで、祝い箸が最上格を有するのもこのためです。
また「柳・やなぎ」に縁起の良い漢字を当て「家内喜(やなぎ)箸」とも表現します。
〇俵箸
祝い箸は中央が丸くなっていますが、これは「米俵」にみたてています。
歳神様は米の神様でもあるので、五穀豊穣を祈ってそのように作られたのでしょう。
また子孫繁栄を表す「はらみ箸」とも呼ばれています。
〇神人共食箸
今、日本では「孤食」が大きな問題になっていますが、日本にはもともと神様と共に食事をする文化があります。
その際、箸も神様と同じ箸を使用しますが、箸の上の部分は神様が使用され、下の部分は人が使用するわけです。
祝い箸の両口(先)が細くなっているのは、このためであり「両口箸」とも呼ばれています。
●祝い箸の作法
祝い箸の次に高い格式を有す割り箸には「割り箸」ならではの作法があるように、祝い箸には「祝い箸」に定められた作法があります。
恐らくここまで作法が細かく定められている食文化は他に例を見ないと思います。本当に先人の知恵は素晴らしいですね。
それだけ「食べる」ということを真摯に捉えていたのでしょう。
改めて祝い箸の作法に触れてみます。
正月にお節料理を頂く際には、祝い箸の袋にそれを使用する人の名前を書いて、できれば大晦日に神棚にお供えします。
名前を書く際、家の主は「主人」と書き、家族の箸には「一郎」「二郎」「春子」「花子」などと書きます。
箸袋の、白い空欄に書けばいいでしょう。
またお客様用は「上」と記入します。
神棚がないお家では「鏡餅」の横でもいいと思います。
また、お節料理を取り分ける取り箸も祝い箸を使用しますが、これには「海山」と記します。
海の里と山の幸に恵まれますようにとの願いが込められています。
お節料理が重箱に詰められるようになると「組重(くみじゅう)」の表示も見られるようになりました。
加えてお節料理を頂くときの祝い箸は、一回使用するたびに箸先を洗って、また袋に戻し、3が日は使用するといわれています。
地域によっては、使用した祝い箸を洗うと幸運が流れるので洗わないという言い伝えもあるようですが、衛生面を考えれば、その都度洗った方がいいでしょう。
ちなみに戦前の国民学校で教えた「国民礼法」では小学校5年で、食後はお茶で使用した箸をすすいで、箸箱に戻すことを教えています。
また、割箸や塗箸は上の部分を持ちますが、祝い箸は上の部分は神様の領域ですから真ん中を持ちます。
ただこの理由をご存じない人が見れば、おかしな持ち方に見えるかもしれません。
ではどうするか?
難しいところです・・・。
それくらい、日本の文化や作法が影を潜めているということではないでしょうか。
大変由々しきことだと思いますが、ひとえに今の学校教育や家庭でのしつけに問題があると思っています。
最後に、3が日や松の内を過ぎたら、使用した祝い箸は「どんど焼き」に加えればいいのですが、最近は「どんど焼き」も少なくなりました。
家庭ごみを出す際に、使用した祝箸を塩で清めて、新聞紙等に包んでゴミ袋の中に入れて出してください。
●老若男女同じ箸を使用
日常に使用している塗り箸、マイ箸は大人と子供、男性と女性では箸の長さが異なります。
これは理にかなっています。
ただ「祝い箸」は、大人も子供も男性も女性も同じ長さの箸を使用しますが、縁起を担いで末広がりの八寸(24センチ)の長さで統一されています。
西洋のラッキーナンバーは7ですが、日本は「8」になります。
ちなみに理想的な箸の長さは、親指と人差し指を直角に開いた指先同士の1,5倍とされていますが、一般的には女性用は21,5cmくらい、男性用は23cmから23,5センチくらい、男女兼用は22,5センチくらいですから、祝箸はいずれにせよ長いわけです。
●箸先5分、長くて1寸
箸使いの作法には昔から「箸先5分、長くて1寸」という言葉があります。
1寸は約3センチ、5分はその半分の長さです。
つまり箸先をあまり汚さずに食べましょうということです。
汚しても良い許容範囲が1,5センチから3センチということです。
如何でしょうか。
祝い箸は白い箸袋に「寿」の字が書かれていますが、もともと平安時代に宮中に勤務していた女官が、着物の端布などで、自分の箸を包む袋を作ったのが箸袋の起源とされています。
ちなみに室町時代になって、本膳料理に使用する箸に白い紙で包んだのが始まりといわれています。
本膳料理とは武士が客人をもてなすために作られた、いわば今の和食の原型を成す料理で、料理の並べ方、食し方、服装まで厳格な作法が敷かれています。
幕末にペリー艦隊をもてなした料理も本膳料理です。
世界の食法で最も古いのは「手食」ですが、日本の箸も大変古い歴史を有しており、もとは神様に供物をお供えするための神器で、一本の竹を折り曲げて使用されていたようです。
つまり日本の箸は神様と人の和合を特徴とした「御箸(みはし)」の系譜が、やがてお正月や様々な祝い事の祝い膳に使用される「祝い箸」になり、デジタル全盛の現在でも、日本人の生活に溶け込んでいます。
是非次世代にも伝えたいものです。
最後にお正月は日の初め、月の初め、年の初め、そして春の初めでもありますから思い切りの笑顔で過ごしたいものです。
また祝箸も笑顔がお似合いです。
令和7年が皆様方にとって巳(み)のり多き、笑顔一杯の年になりますように心よりお祈りいたします。