マナーうんちく話453≪冬来りなば春遠からじ≫
何十年も見慣れた光景ですが、青々とした稲が田んぼでキラキラ輝き、農家が田植えの忙しさから解放される頃になりました。
稲作を中心とした農耕文化で栄えた日本の「和風月名」では、春から初夏にかけて稲作に関連した名前が多くあります。
例えば5月は早苗の時期ですから「早苗月」と呼ばれます。
田植えへの前に、稲の種をまいて稲を育てる田を苗代(なえしろ・なわしろ)といいますが、苗代から田んぼへ植え替える頃の若い稲の苗を早苗といいます。
そして6月は「水無月」と呼ばれますが、田植えをするために田んぼへ水を引く月ということです。
4月から5月にかけて、土をかき混ぜ肥料を施し、地力を向上させることは「田おこし」ですが、その後田に水を入れ、土を丁寧にかき混ぜ平らにしたら、いよいよ田植えの準備が完了です。
今はトラクターがあるので楽ですが、昔は牛の力を借りていたようで重労働です。
これらの行程を経て、日本各地で田植えが始まるわけですが、7月のこの時期には田植えを終えているところが殆どでしょう。
暦の上では一応の田植えを終える目安があります。
夏至から数えて11日目ごろが「半夏生」といって、田植えを終わらせる目安になる頃です。
農作業の参考になる「雑節」ですが、2024年は7月1日です。
田植えには多くのプロセスがあり、農家にとっては大変な作業ですが、半夏生の日は、田植えも無事済ませたところで一息つく日とされています。
また「半夏半作」という言葉がありますが、この時期までに田植えを終えないと稲の収穫が半減するといわれていました。
半夏生は「半夏」と呼ばれるカラスビシャクが生える頃ですから、名付けられたともいわれています。
さらに、この時期に降る雨は「半夏雨」と呼ばれ、大雨になることが多いので、様々な災いに注意しなければなりません。
梅雨の語源は「黴雨」と考えられているように、このころは一年でも最も湿気が多く、「天からは毒が降り、地からは毒の草が生える」最悪の頃と考えられているので、半夏生の日には、畑に入らない、野菜の収穫を控える、井戸に蓋をするなどの地域もあるとか。
タコを食べる風習がある地域もあります。
8本足の蛸にちなみ、田植えをしたばかりの稲がしっかり根付くことを願ったのでしょう。
まだあります。
半夏雨の降り方で、向こう一年の収穫を占ったともいわれています。
桜の木には、春先になって山から下りてこられた田の神様が宿るので、桜の咲き方で収穫を占う地域もありますが、雨の降り方で収穫を占う方法も何となく理にかなっている気がします。
さらにこの雨により「田の神」が再び天に帰る日ともいわれています。
村人たちは桜の花が咲いたら、桜を囲んで山の神と共食して、縁をより深め、村までお連れします。
そこで山の神様は「田の神様」になり、これから始まる田植えが無地終えるように見守って下さるわけですが、その田植えが終わったので、大役を果たし再び天にお帰えりになるのでしょう。感謝、感謝です。
そのほか、昔は二毛作が多く、田植えへの前には麦を収穫するので、半夏生の日にうどんを振る舞ったりする習慣のある地域もあるようです。
ちなみに七夕の日に素麺をお供えするのは、麦の収穫を神様に感謝する意味が込められています。
半夏生は「雑節」の一つと述べましたが、一年を七十二に分類した「七十二候」では、7月1日頃から6日頃までは「半夏生ず」となっています。
田植えを終え、休息をする大きな節目のころですが、重労働から離れ身体を休めることも、タコや素麺などをいただく食文化も、大雨に警戒することも、食中毒に注意し体調管理することも、すべて日常生活を快適にするための先人の知恵です。
令和の今でも参考になることばかりですね。
6月下旬から7月にかけて、大晦日の「大祓い」に対応して、全国各地の神社で「夏越の祓い」がとりおこなわれます。
一年の半分を無地終えたことへの感謝とともに、半年間にたまった様々な穢れを払って、体調管理や危機管理を心がけ、清々しい気持ちで残り半分をお過ごしください。