マナーうんちく話535≪五風十雨≫
「礼節の国」と呼ばれた日本では、戦後になって学校でマナー教育を行わなくなりました。
また公立の学校では宗教教育もありませんね。
ちなみに戦前の義務教育が教えた「国民礼法」では、小学4年で「神社の参拝」「焼香と玉ぐし」などの作法を教えています。
また「家のしきたりと先祖の祭」にもふれています。
さらに6年生になると「祝意」や「弔意」などの表現の仕方などについても学んでいたようです。
親戚や地域の慶弔行事について、つつがなくふるまえるということでしょう。
時代が違うといえばそれまでですが、人間味の感じられる内容だと思います。
むしろ「人生百歳時代」をよりよく生きるためには、今こそマナー教育や宗教教育は必要不可欠と思うのですが、如何でしょうか?
ところで世界には多くの宗教が存在し、様々な死生観の概念がありますが、日本はどうでしょうか?
いろいろな調査結果があるようですが結果はそれぞれです。
日本で実施された最近のある調査です。
10歳から90歳までの男女百人を対象に「死後の世界」、つまり「あの世」の存在を信ずるか?の問いに対し、7割近い人が信じると答えたそうです。
一方世界の価値観についての調査では、あの世の存在を信じる国は、イスラム系の国は9割を超えるようですが、日本は32%になっていました。
調査方法による違いもあると思いますが、恐らく日本の場合は「信じる」「わからない」「信じない」と別れるのではないかと思います。
詳しい調査結果を知りたいものです。
最近は何もかも多様化していますが、いずれにせよ「死んだらすべてが終わり」と捉えるか、「死んでもさらにあの世がある」と信じるかでは、今後の生き方にも大きな違いがあるのではないでしょうか?
宗教教育が行われていないので、宗教観や死生観はなかなか育まれないと思います。
日本で結婚式に続き、葬儀が最近多様化してきたのが何となく理解できる気がします。コロナの影響もあるでしょう。
そもそも日本人は昔から、ご先祖様と大変深い関りがあったようです。
日本全国に存在する神社の数は8万社を超え、お寺は7万5千寺を超えています。
コンビニよりはるかに多い数です。
また「仏壇」や「神棚」がある家も多く存在します。
数の多さでは世界屈指といわれる日本の年中行事の中でも、「盆」と「正月」は特別な存在です。
一年に二回、つまり盆と正月にご先祖様をお迎えし、おもてなしをして、またお見送りをするわけです。
7月13日はお盆で「迎え火」を焚いて仏様をおむかえします。
そして7月16日には「送り火」を焚いてお見送りをします。
8月13日は「月遅れのお盆」で迎え火を焚き、仏様をお迎えし、8月16日は送り火を焚いて仏様をお見送りします。
お盆を7月にするか、8月にするかということです。
ではなぜ「月遅れの盆」があるのでしょうか?
月遅れの盆ができたのは明治の初めです。
明治5年12月3日に、それまで全国津々浦々で使用されていた太陰太陽暦がグレゴリオ暦になるわけですが、月遅れの制度ができたのは新暦になってからです。
突然暦が変わって社会は大混乱しますが、グレゴリオ暦は「新暦」と呼ばれ、それまでの太陰太陽暦は「旧暦」と呼ばれます。
ただし新暦と旧暦では一月以上の違いがあります。
従って盆や正月や節供などの大切な年中行事を、新暦で行うか旧暦で行うかでは生活に大きな違いが出ます。
場合によっては農作業などの支障が出たりします。
でも旧暦の時代の季節から、大きくずれないようにしたい思いはあります。
そこで、年中行事を本来の月日から、ちょうど一月遅らせる「月遅れ」という方法が考案され、主に地方などで開催されています。
私が住んでいる地域でも月遅れの盆や雛飾りなどを行います。
今は一般サラリーマンの夏休みや盆休みも、8月が定着しているので、盆といえば8月というイメージが強いですね。
旧暦の「和風月名」も季節にマッチしないことがあり本当にややこしいですね。
旧暦や新暦や月後れの行事となると、さらにややこしくなります。
例えば7月の盆を「新盆」といいますが、新盆には忌明け後の初めての盆の意味もあります。いわゆる「初盆」のことです。
一方8月の盆は「旧盆」、もしくは「月遅れの盆」といいますが、旧盆は旧暦の盆を示す場合もあります。旧暦の盆は毎年日にちが異なりますが、8月中旬から9月初旬になります。
ちなみに令和5年の旧暦の盆は、8月28日から8月30日になっていますが、あまり行われることはないと思います。
新盆、旧盆、月遅れ盆などなど、本当にややこしいと思いますが、地域性や仕事や季節感を大事にしながら、なんとかして浄土から生前に過ごした土地や家に帰ってこられる、先祖の霊魂を供養する気持ちがつよかったのではないでしょうか。
先祖を大切にする気持ちは本当に素晴らしいと思います。