マナーうんちく話544≪薔薇で攻めるか、それとも恋文か?≫
「和する心」を尊び、相手を思いやる日本人のもてなしの心は、先祖から受け継いできた大変貴重な財産です。
日本にはチップという制度はありませんが、見返りを求めず、誠心誠意おもてなしをする心が培われてきたのは、おもてなしの相手が神様や仏様だからだと思います。
歳神様をお迎えする正月、仏様をお迎えする盆の行事には、おもてなしの原点ともいえる素晴らしい感性がちりばめられています。
また茶の湯を大成させた千利休は「マナーうんちく話」でも触れていますが、「利休七則」というもてなしの心を説いています。
これらは少しレベルが高く、なじみにくいかもしれませんが、日本の「飲食店のもてなし」は殆どの人が経験していることでしょう。
店に入るとほとんど例外なく、笑顔で「いらっしゃいませ」と温かく迎えてくれます。
席に着くと夏なら氷を入れた冷たい水に、冷たいおしぼりを出してくれます。
冬のお絞りは温めてくれています。
これらはすべて無料です。
水にせよ、お絞りにせよ、それなりの経費と手間暇がかかっているわけですが、それらが無料ということは、いかに店側が「おもてなしの気持ち」を発揮しているかということです。
だから客の立場としては「ありがとうございます」で答えるのが筋でしょう。
私は和食や洋食を問わず、テーブルマナーの講義をするときにはいつもこの話をします。
日本人にとっては水やお絞りが出るのはごく当たり前になっているのですが、改めて考えてみれば本当にこのサービスは素晴らしいと思います。
四季が豊かな日本には、世界屈指といわれるくらい多くの年中行事がありますが、和食はその行事と非常に深い関りがあります。
「節供」のように、旬の食材のエネルギーで、邪気払いをするものも多くありますが、「正月」や「盆」のように、神様や仏様や先祖を、酒や食事でもてなしてきたものも多々あります。
だからこそ、見返りを求めず、表裏なく、誠心誠意のおもてなしをチップがなくてもしてきたわけです。
最後に「思いやり」や「おもてなし」の様な素晴らしい日本の文化の本来の意味が、異なって伝えられたり、影をひそめてしまっているものも少なくありません。
戦後日本の学校教育から「礼儀作法」の授業がなくなってしまったからでしょう。
残念なことです。
では改めて「思いやりの心」を身に着けるにはどうすればいいでしょうか。
私はマナーに精通することが何より大事だと思います。
社会人になる前に、にわかにビジネスマナーに触れるのではなく、幼い頃より親が家庭でしつけを施すことが何よりだと考えます。
そうして身に着けた思いやりの様々なところで発揮していただければと思うわけですが、ポイントは自分も、相手にも負担にならないようにすることです。