マナーうんちく話2142《秋に雛飾り?コロナ禍に復活させたい「重陽の節句」と「大人の雛飾り」》

平松幹夫

平松幹夫

テーマ:歳時記のマナー

令和4年9月8日は二十四節気のひとつ「白露」です。
なじみの薄い言葉であり、これだけ残暑が厳しかったらピンときませんが、大気が冷えてきて露を結ぶ頃という意味です。

草に降りた露が寒さで白く見えるので「白露」という名がついたのでしょう。
本格的な秋の訪れを実感する美しい言葉ですね。

そして9月9日は五節句の一つ「重陽の節句」です。

ちなみに五節句とは、中国から伝来した季節の変わり目に行われる、祝いの伝統行事です。

1月7日の「人日」、3月3日の「上巳」、5月5日の「端午」、7月7日の「七夕」、9月9日の「重陽」で、縁起の良い吉祥の日として、幕府から公的な祝日として認められていました。

人日の節句は「七草の節句」、上巳の節句は「桃の節句」、端午の節句は「菖蒲の節句」、七夕は「笹の節句」としてなじみが深く、年中行事の中でも実施率は高いのですが、「菊の節句」とも呼ばれる重陽の節句は、ほとんど話題に上らず、実際祝う人も非常に少ないのが現状でしょう。


ところで日本では昔から奇数が縁起の良い数字として扱われ、慶事には3や5や7の奇数がよく用いられます。

結婚祝いをするときには祝儀袋に1万円、3万円、5万円を包みますが、4万円包む人は少ないと思います。

ではなぜ奇数が縁起のいい数字なのでしょう。

明治維新後の日本は欧米文化を多く吸収しましたが、それ以前は中国の影響を多大に受けています。

奇数・偶数の捉え方もそうです。

陰陽と五行の二つの思想を組み合わせた陰陽五行説では奇数を「陽の数」、偶数を「陰の数」として、陽の数である奇数をめでたい数と捉えていました。

マナーの世界というよりむしろ民俗学の範疇だと思います。

日本は聖徳太子が「和を以て貴しとなす」と説いて以来、和を大変大事にする国です。

また少数点という概念のなかった時代ですから、奇数は割り切ることができません。
偶数は2で割れるので別れに通じるけど、奇数は割り切れないので「良い」としたのでしょう。

何百年も続いているしきたりですが、その由来は、単に縁起を担いだだけの様ですね。何分にも昔のことですから・・・。

そして五節句は1月7日を除いて、3月3日、5月5日のように、すべて陽の数字である奇数が重なっています。

しかし奇数が重なり合うと「陽の気」が強くなりすぎ、結局不吉になるわけです。

だから五節句には、旬の植物のパワーを借りて邪気払いをしたということです。
春の七草、桃、菖蒲、笹、菊にはすべて邪気を払う力があります。

ところで奇数の「9」は陽の数の極みです。
この9の数字が9月9日と二つ重なるので「重陽の節句」と名付けられ、五節句の中では格式が最も高い節句とされています。

また旧暦ではちょうど菊の花が咲く時期なので「菊の節句」とも呼ばれ、菊でお祝いします。

さらに栗の収穫期であり、収穫に感謝する意味も込めて「栗の節句」とも呼ばれ、栗ご飯などで祝います。

ちなみに菊は中国では仙人の住むところに咲くので、長寿のシンボルとされています。
一方日本では、菊は他の花に比べ花期が長く、冬に向けて花が少なく頃に、高貴な香りとともに、凛と咲くので大変縁起の良い花で、日本を象徴する花になっています。

だから重陽の節句は菊が大活躍するときでもあります。

例えば杯に酒を注ぎ、菊の花びらをちりばめた「菊酒」はとても手軽でお勧めです。
菊酒で命を尊ぶとともに、長寿を祈願してください。

菊の花びらを布袋に入れ、それを湯船に浮かべる「菊風呂」も格別です。
さらに菊の花びらを布で包み、枕の下に敷いて「菊枕」もお楽しみください。

その昔女性が愛しい男性に菊の花びらを布で包んだものを贈り、夜寝る時に枕の下に敷いて、菊の香りとともに私のことを思ってくださいとお願いしたとか・・・。
バレンタインデーの日本版でしょうか。

加えて菊を布で包み一晩夜露にあてて、菊の香りを沁み込ませ、その布で身体を拭けば、長寿になると伝えられている「菊のきせ綿」も有名です。


一方これはあまり知られてないと思いますが、「桃の節句」から半年後の「菊の節句」に、虫干しを兼ねて「ひな人形」を飾り、長寿を祈願する風習もあります。
大人の雛祭りで「後の雛」や「秋の雛」ともいわれます。

十五夜の後の十三夜は「後の月」と呼ばれていますが、楽しいことは一年に一回限りにせず、2度楽しもうということかもしれませんね。
だから「後の○○」としたのでしょうね。

先人の思いや風情が感じられる素晴らしい行事だと思います。

私もただいま地域で開催している「生涯現役百歳大楽校」で実施する予定です。

加えて9月9日に「茄」を食べれば痛風にならないという言い伝えもあります。

出来れば皆で栗ご飯などと楽しく食したいところですが、今年は大事を取り雛飾りだけになりそうです。


平安貴族は宮中行事として観菊会を催し、江戸の武士は登城して主君から菊酒を振舞われたそうですが、今では普通の人が菊酒や菊風呂や菊枕、そしてナスの煮びたし、栗ご飯などで気軽に重陽の節句を楽しむことができます。

今、日本は世界屈指の長寿国です。
65歳以上の高齢者が3600万人以上いる国です。

また9月は「敬老月間」でもあります。

不老長寿と繁栄を祈念し、是非味わっていただきたい節供です。

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平松幹夫
専門家

平松幹夫(マナー講師)

人づくり・まちづくり・未来づくりプロジェクト ハッピーライフ創造塾

「マルチマナー講師」と「生きがいづくりのプロ」という二本柱の講演で大活躍。「心の豊かさ」を理念に、実践に即応した講演・講座・コラムを通じ、感動・感激・喜びを提供。豊かでハッピーな人生に好転させます。

平松幹夫プロは山陽新聞社が厳正なる審査をした登録専門家です

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