マナーうんちく話521≪お心肥し≫
立ち姿は英国紳士が美しいといわれますが、座った姿の美しさは何といっても日本人ではないでしょうか。
とくに江戸時代の武士の振る舞いは凛とした美しさを漂わせていますね。
今はライフスタイルの変化で、畳とも縁が薄れてきましたが、それに伴い日本の美的意識が薄れてきた気がしてなりません。
もったいない限りですね。
日本には昔から「座礼」という大変美しい挨拶があります。
堅苦しいとか、窮屈とか、誤った認識をされている人が多いようですが、大変合理的につくられており「思いやりの気持ち」を表現した挨拶です。
ちなみに江戸時代までは、床に座る際の正式な座り方は「あぐら」でしたが、江戸時代になって、戦が無くなったおかげで、主人に敵意がなく、敬意や服従心を表す座り方として「正座」が生まれました。
そして畳の普及につれ正座が普及してきたわけです。
さらに明治になり、学校教育の「礼法」で、正座が正式な座り方として奨励され、すっかり定着したようです。
私も幼い頃から、正座をしっかり教えられました。
今は畳とは縁が薄れましたが、正座はとても美しい姿には変わりないでしょう。
特に着物姿の女性が、畳の上で凛として正座している姿は格別です。
今はコロナで開催できませんが、数年前までは「和の礼儀作法講座」「和食のマナー講座」などで、着物で参加してくださった方に協力いただき、美しい正座を実践していただいたものです。
ただ長時間正座していると足がしびれます。
そんなときの一時しのぎの方法として「跪座(きざ)」という姿勢があります。
日本の礼法はとても合理的で、起立している状態から急に正座することなく、その間に取るべき形があります。
つま先を折りたてた状態ですが、これが「跪座」です。
「直立⇒跪座⇒正座」または「正座⇒跪座⇒直立」ですね。
正座してしびれが切れた時、履き物を揃える時など、低い位置での動作する時の姿勢にもちいればいいでしょう。
ちなみに「しびれが切れた時」の対応は、座布団から下がり「跪座」になるか、状況が許せば相手に断って少し足を横に崩してもいいでしょう。
【座礼の種類】
立礼にもいろいろなスタイルがありますが、座礼もしかりです。
茶道、華道、舞踊などでは流派により異なるのでそれに合わせばいいでしょう。
また礼法ではより細かく定めていますが、私は立礼と同じように「簡単なお辞儀」「改まったお辞儀」そして「神前や仏前での儀式用のお辞儀」をお話しします。
●会釈と同等の簡単な挨拶
〇指を揃えて伸ばし膝のわきにおろします。
指先は畳に触れる程度で、会釈感覚のお辞儀です。
〇また両手はそれぞれの膝のわきにおろし、手のひら全体を畳に付け、会釈より、もう少し頭を下げればより丁寧なお辞儀になります。
他家を訪問した時の挨拶にも適しています。
●改まった挨拶
両手を畳の上に8の字になるよう置きます。
膝頭と手首が並ぶよう注意してください。
状態をどれくらい下げるかは、挨拶の目的や相手により臨機応変にして下さい。
●神様・仏様への挨拶
改まった挨拶よりさらに前かがみして、両肘が畳につくまでの深いお辞儀です。
神前・仏前儀式でのお辞儀ですからあまり経験することはないでしょう。
ポイントは頭を畳から何センチくらいのところまで下げるか?頭を下げる時間をどれくらいにするか?は立礼と同じです。
静かに下げ、静かにおこすよう心掛けて下さいね。
次回は改まって「扇子を使用した座礼」や、簡単な「三つ指での座礼」について触れてみます。