基礎から指南!接客・接遇マナー4≪「マニュアル型対応」と「臨機応変型対応」の華麗なる融合≫
ホテルの料飲食部門での勤務が長かったせいで、洋食と和食のテーブルマナーに30年以上関わっていますが、テーブルマナー講座でいつもお話しすることがあります。
日本の飲食店のすばらしさです。
海外の飲食店と比較すればよく分かると思いますが、日本では飲食店に入ればまず笑顔で、元気よく「いらっしゃいませ」と温かく出迎えてくれます。
この「いらっしゃいませ」には、数多くある店舗の中から私たちの店を選んでいただきありがとうの意味と、儲けさせていただきありがとうの、二つの感謝の意味が込められています。
入店と同時に気分が良くなりますね・・・。
さらに席に着くと「美味しい水」が出ます。
店により異なりますが、氷まで入れている水もあります。
さらに食事中に水が無くなれば、テーブルまで来て水を補給してくれます。
水を注ぐ際には「失礼いたします」などの声掛けもあります。
食堂では既製品ではなく、その店で作った「日本茶」を出してくれます。
それに「おしぼり」も用意してくれます。
紙製もあれば布製もあります。
さらに寒い冬は熱いおしぼりを、暑い夏は冷やしたおしぼりに笑顔を添えてサービスしてくれます。
それらの水もおしぼりも料金がかかりません。
そしてこれらの真心を込めたもてなしは、チップを求めてのサービスではありません。
日本の飲食店が、いかにお客様に対して心配りをしているかということです。
私はマナー講師ですから「もてなしの仕方・受け方」のマナーにも多く携わっていますが、日本の飲食店のもてなしは本当に素晴らしいと思います。
ちなみに日本のもてなしの起源は、出雲大社の神在月や正月行事等にみられる来訪神へのもてなしだといわれていますが、庶民階級への接客を通じたもてなしの起源も古く、すでに江戸時代には確立されていたようです。
日本では昔から自己本位ではなく、常に他者を思いやる精神が育まれていたからだと思います。
感謝・尊敬・思いやりの気持ちを具体的に表現することが「作法」ですが、他者を思いやる気持ちは、和食の作法にもいたるところで見受けられます。
お客様を大切にし、顧客満足や喜びを与えることに努力し、それを誇りにしてきた日本人のもてなしの精神は、江戸時代に入り飲食店でさらに充実します。
加えて和食はユネスコの無形文化遺産に登録されていますが、和食も江戸時代に入り発達しています。
豊かな江戸前の海に加え、近郊の豊富な土壌のお陰で、海の幸、山の幸に恵まれるとともに、百万人の人口を抱える江戸に、仕事を求めてやってきた独身男性が多く住み着いたおかげで、食文化が急速に発達したわけですね。
また江戸時代には地方都市がいたるところで発達したせいでしょうか、共感を作る方法が生まれたようです。
多くの人が集まる都市部では娯楽施設、宿泊施設をはじめ、多種多様な飲食設備が整備され、見ず知らずの人に対する関わり方がいろいろ研究されるようになったのではないかと考えます。
特に芝居小屋、遊郭、旅籠、小料理屋、茶屋、飲み屋などにおいて・・・。
ところで3大発酵食品といえば「味噌」「酢」「醤油」ですが、江戸時代になると濃い口醤油やみりんが登場し、天ぷら屋、おでん屋、蕎麦屋、寿司屋、ウナギのかば焼き屋などが登場してきます。
こうなると自然に競争の原理も生まれ、店の主はいかにして来店してくれたお客様に満足を与えることができるかを念頭に置くようになります。
いわゆる今の顧客満足です。
そして飲食業で富を蓄えた商人はお客様に感謝し、より人付き合いを大切にしたわけです。
「江戸しぐさ」がそれを物語っています。
こうして日本独特のサービス精神が飲食店から根付き、時代と共に接客技術がますます洗練されてきたということです。
日本の飲食店が、世界に誇れる「もてなし文化」を築いた大きな要因はまだあります。
それは主たるお客様が一般庶民だったことです。
庶民が庶民をもてなす文化が発達したということだと思います。
もちろん大名や豪商のように大金持ちもいたのでしょうが、一部の特権階級の人が楽しんだ宮廷的な楽しみ方も存在していたことは確かです。
しかし日本の武士は今の高級官僚の違法接待、過剰接待にみられるようなものではなく、質実剛健が説かれていたので殆ど豪遊することはなかったようです。
しかも厳しく管理されていたので、私利私欲のため1食7万円も8万円もするような贅沢な振る舞いを受けるようなことはなかったのではないかと思います。
最後に《マナーうんちく話》でも何度も触れましたが、日本には昔から「神人共食文化」が根付き、神様や先祖を敬う気持ちを酒やご馳走で表現してきました。
さらに四季を愛でる文化が、飲食店を通じて、日本独特の客をもてなす感性に磨きをかけたことも、おおきな特徴といえるのではないでしょうか。
現在多くの飲食店は、コロナ禍で苦境に立たされていますが、誇りをもっていただくとともに、ぜひ頑張っていただきたいと思います。