マナーうんちく話516≪袖触れ合うも多生の縁≫
お主も悪よのう・・・。
いえいえお代官様ほどでは・・・。
豪華な飲食と共に、山吹色の小判をやり取りしながら、悪徳商人と悪代官のセリフですが、テレビや映画の時代劇でおなじみですね。
領民を圧制で窮地に追いやったり、数多くの不正を働いて私腹を肥やすのが悪代官のイメージですが、江戸時代の代官は仕事が非常に忙しく、高級レストランで高額な接待を受けるようなゆとりはなかったようです。
また当時の代官はとても厳しく管理されていたようで、下手に不正を働けば切腹の沙汰が下ることもあり、テレビドラマ等でみられるような悪代官はほとんど存在しなかったとか・・・。
古今東西不正行為や悪徳商人・役人は多く存在しますが、一方日本では倹約、勤勉が強く説かれ、正直で真面目な人が多かった事も確かでしょう。
特に、日本の武士は名誉心が強く、名を重んじ、名を汚す行為を何より恐れたようです。だから立ち居振る舞いの作法なども美しいのだと思います。
貧しいことは不名誉な事ではありません。
それより嘘をついたり、利欲に負け不正を働くことのほうが、何よりも名誉をけなすことだったのではないでしょうか・・・。
相変わらず違法接待・過剰接待等が後を絶ちません・・・。
そういえば、平成10年に発覚した、当時の大蔵省を舞台とした汚職事件である「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」も衝撃的でしたね。
そして今回。
官民一体となって新型コロナに立ち向かわなければいけない時に、このような話題が浮上するとはとても残念な気持ちです。
企業のコンプライアンスが厳しく問われる時代になりましたが、違法接待・過剰接待は変わりないようですね・・・。
そればかりか、昔の武士は事が明るみになった時には潔く罪を認め、それなりの責めを負ったようですが、最近は嘘の答弁を繰り返したり、データを改ざんしたりで、姑息な振る舞いが目立ちます。
名奉行とうたわれた遠山の金さんに再登場してもらいたい心境です・・・。
わたしはこれまで「接待の仕方・され方」「もてなしの仕方・受け方」などの講座も数多く開催してきましたが、しきりに「疑念を抱かれるような接待は受けていない」「記憶にない」「接待ではない」などと言い張る人が多い状況下では、接待やもてなしの概念も変わりそうな気がします。
しかもことが発覚するのはいつも週刊誌が取り上げてから・・・。
これも誠に寂しい限りです。
様々な忖度が働いているのでしょうか・・・。
今でも公共のために尽くしている人は多く存在します。
コロナ収束に向け何百時間も残業している官僚が報じられましたが、大半の人は懸命に働いていると思います。
資財をなげうって世に貢献する人も数えきれないくらいいます。
それだけに、一部の人の不正は大きな影響を与えます。
不正接待・過剰接待等が続くたびに年々、個人的にも、社会全体でも、接待をしたり、されたりすることに大変敏感になっている気がします。
中にはお茶の一杯を飲むことをためらう人もいます。
またボランティアで講演依頼をして、その後菓子箱などを持参してお礼に伺いますが、気持ちよく受け取られないケースも多々あります。
世話になればそのお礼がしたいと思うのは正直な気持ちです。
でもそれをすれば相手に迷惑をかける。
こんな社会が幸せといえるのでしょうか・・・。
加えてもてなしの仕方にも変化が現れました。
日本の「もてなしの文化」は、東京オリンピック招致委員会でも話題になった世界に誇る文化です。
《マナーうんちく話》でも詳しく触れていますが、その原点は「来訪神」のおもてなしで、裏表のない、極めて真心がこもったものです。
決して「見返り」を求めないということです。
さらにペットボトルや自動販売機の普及の影響も大きいと思うのですが、茶菓の接待が激減したと感じます。
味気なくなってきたということです。
世界にはお茶や酒の文化が多く存在しますが、ほとんどはその国独特のもので、共通点はいずれも他者をもてなすためや謝意を表現するためです。
そのような素晴らしい文化が、違法接待・過剰接待が浮上するたびに薄れていくということは本当に寂しいことです。
当然経済にも多大な影響を与えるでしょう。
「無理が通れば道理が引っ込む」といわれますが、正義感が強く、正直で、まじめな人が自殺に追い込まれ、「記憶にありません」を連発したり、嘘の答弁を繰り返し、多くの国民を不快にした人が、多額の退職金を手に入れ、ほとぼりが冷めたら天下り先まで確保されるようなことは、いい加減になしにしてほしいですね。
ところで接待文化や祝儀文化は色々な考え方があります。
極力したくないという人も少なくないと思います。
自由だと思います。
一方、もてなしにせよ、祝儀にせよ、究極の目的は相手と良好な人間関係を築き、快適な生活を送る先人の知恵と捉える人も多数存在します。
この先どう展開するのか気になるところですが、個人的には今後とも日本の「もてなし文化」のすばらしさを広めていきたいと思っています。