マナーうんちく話220≪就職祝いと親先輩の役割≫
四季が豊かで、長寿の国日本には実に多くの祝い事が存在します。
世界でもこんなに沢山の祝い事があるのも珍しいのではないでしょうか。
例えば人の一生に関する祝い事としては「妊娠」「帯祝い」「誕生」「お七夜」「お食い始め」「初節句」「七五三」「入学・卒業」「十三参り」「成人」に加え「長寿の祝い」があります。
さらに長寿の祝いには「還暦」「古希」「喜寿」「傘寿」「米寿」「卒寿」「白寿」「百寿」があり、今や百歳を祝う百寿の祝いの該当者は全国で8万人を超えました。
加えて結納や婚礼、五節句に正月などなどですが、おめでたい席で供される食事を「祝い膳」といい、非常に長い歴史や先人の様々な思いが込められています。
中でも親が子に込めた思いを表現した「お喰い始め」の御膳は格別です。
明治維新前後に日本を訪れた欧米諸国の高官たちは、背負ったり、手を繋いだりして、日本の親が貧しくとも、大変子をかわいがっている姿を見て感動したといわれています・
「喰い初め」の祝い膳には、親が子を思う気持ちが凝縮されています。
その場にいる一番年長者が子を抱いて、祝い膳の食べ物を食べさせるマネをする役目を担うわけですが、子どもが生まれて今まで無事に生きられたことに対する感謝と、これからの長い人生で「食べ物に困らないように」と祈念します。
まさに「生きることは食べること」ですね。また生まれて初めて箸を使用するので「箸はじめ」とか「箸揃え」ともいわれます。
正式には漆器の高足の御膳にしつらえ、男児は内側も外側も赤色、女児は外側が黒色で内側が赤色の漆器の椀を使用しますが、地方によりそれぞれ異なった伝わり方をしているようです。
ちなみに科学が発達していなかった昔は特に縁起を担ぎました。
御膳には「鯛」や「赤飯」がつきもので、鯛は百魚の王である鯛の「めでたい」の語呂合わせに、色や形が立派な点が、赤飯は小豆の赤色が邪気を払う効果があると信じられていたためです。
ところでマナーには不易流行的側面がありますが、初誕生と誕生祝のマナーも時代とともに大きく異なりました。
昔の日本の歳の数え方は「数え年」で、みんな一斉に正月に年を取るので、個々人の誕生祝に関する習慣はありませんでした。
それが昭和25年の「年齢の唱え方に関する法律」で、数え年から満年齢になったので、誕生祝の習慣やマナーが誕生し、今のようにバースデーケーキやロウソクが使用されるようになったわけです。
また祝い膳でウエイトが高いのが「お節料理」ですが、もとは季節の節目に神様にお供えする「御節句」といわれる料理です。それがやがて最も大切な年の初めの正月料理をお節料理というようになりました。
昔の正月は立春で、誰もが1歳年をとるときでもあるので、年の初めに「健康で、幸多かれ」と願う気持ちを込め、海の幸、山の幸の中から縁起の良い語呂合わせや、健康効果などを加味して作られたわけですね。
それと今はあまり知られていませんが、正月のお祝いとして、開運招福を願って「福茶」を飲んで大吉になるよう縁起を担ぎます。
私が主催する講座では、一年の最初に開催する講座の時に、松竹梅をあしらったテーブル生花と共に、個々の参加者に、お茶に梅干しと昆布を入れた「福茶」をもてなします。ただ今年は残念ながら無理のようです。
そして日本の祝い膳の大きな特徴として、神様とともに食事をする「神人共食」文化があります。神道に由来するので外国人にはなじまないかもしれませんね。
最後に祝い膳を食す際、「割りばし」は「割れる」に通じるので縁起が悪いと捉える人は、今は少なくなった気がしますが、おめでたい席での食事の際は出来る限り「祝い箸」を使用して頂きたいと思います。
次回は祝い箸に触れる予定です。