マナーうんちく話673《「立春」と「慶事用熨斗袋」≫
5月5日は「甍(いらか)の波と雲の波、重なる波の中空を、橘香る朝風に 高く泳ぐや鯉のぼり」とうたわれる、男の子のお祭り「端午の節句」です。
また男女を問わず、子どもの健やかな成長と幸せを願う「こどもの日」です。
古代中国では5月は「物忌みの月」でしたが、中でも5と5が重なる5月5日は特別な日で、邪気を払う色々な行事が執りおこなわれました。
そしてこの風習が日本にもたらされ、5月5日に強烈な臭いのする「菖蒲」で邪気払いするようになったいきさつがあります。
やがて武士が台頭する鎌倉時代に入ると、菖蒲を尚武にかけあわせ、武事を尊ぶ「尚武」の行事となり、男子の立身出世を祈る行事になりました。鯉のぼりを空に泳がせるのは江戸時代に入って、「鯉が滝を登って竜になる」という中国の故事を参考に、男の子の逞しい成長を願って出来た風習です。
さて冒頭の童謡「鯉のぼり」ですが、「甍の波」とは何かご存じでしょうか?
甍(いらか)とは「瓦葺き」の屋根の頂上という意味です。瓦の重なりと、雲の重なりを波に見立て、瓦と雲の間の大空を鯉が泳いでいるわけですね。
また「橘」は雛飾りにも登場しますが、柑橘類の常緑樹で、数ある柑橘類の中で唯一日本が原産の柑橘類です。高貴な香りと、万年緑を絶えさないので縁起が良いとされていますが、ちょうど今頃白い花を咲かせます。
ではその大空をなぜコイが泳いでいるかといえば、前述のように鯉が急流を登って竜になるという言い伝えが一般的ですが、さらに時代をさかのぼれば意外な原因が隠されています。実は鯉よりもそれを支えている《支柱》に意味があります。
この時期は霜も降りなくなり、米作りが忙しくなるわけですが、山の神様に麓に降りて頂き、「田の神様」になっていただきます。
その際、山の神様が下りられる時の「依り代」になるのがこの支柱であり、支柱に鯉がやってきてくっついたという説があります。
日本の神事は米作りに関することが非常に多いのが特徴ですが、田植えを担当する早乙女は田の神様のお嫁さんになるそうです。
田の神様のお嫁さんになるわけですから、田植え前に家に閉じこもって身を清めなければなりません。そのことを告知するために、「この家には只今身を清めている娘がいます」と家の前に柱を立てて目印にしたとか・・・。
ところで3月3日の「ひな祭り(上巳の節句)」や「端午の節句」など、子どもの成長に伴う祝い事は日本には沢山ありますが、これは「冠婚葬祭」の「冠」に該当します。
そして沢山ある「冠に関する祝いのお返し」は、基本的には出産祝い以外不要だとされています。子どもに直接「ありがとう」のお礼を言わせてもいいですね。
江戸末期から明治にかけて日本に来た外国の要人は、日本人の礼節ある態度と、子どもを背負ったり、抱いたり、手をつないだりして、大変可愛がっている光景に感動したといわれています。
今でも日本は、世界屈指の子どもが優遇されている国かもしれませんね・・・。
それを物語るように、日本には子どもの成長を祝う行事が非常に多く存在します。
しかし本当に子どもが可愛いのなら、猫かわいがりではなく、節目・節目に親が子に「教えるべきこと」を、きちんと教えることだと思うのですが・・・。
雛祭りも、子どもの日も、端午の節句もまさにその時ではないでしょうか。
ちなみに冠婚葬祭の「冠」とは、元服に冠をかぶる「加冠の儀」を意味していましたが、今では成人式をはじめ、長い人生の誕生から長寿の祝いなどを含んだ通過儀礼一般を指すようになりました。
現在ではビジネスに結びつかないものは形骸化したり、忘れ去られたものもありますが、冠婚葬祭の根底にあるものは、命の大切さや自然や人に対する感謝と畏敬の念です。だからこそ通過儀礼の本質を正しく理解したうえで命の大切さ、感謝、思いやりの心を育んでいきたいものです。
伝統的なしきたりは知れば知るほど、素晴らしい意味が込められているものです。