マナーうんちく話499≪習慣は第二の天性なり≫
以前このコラムで「餞別」の語源は馬の鼻という記事を《マナーうんちく話912》において書きましたが、室町時代の武士たちは馬や武具などを頂いたり、差し上げたりする機会が多々あったようです。
そしてそれらの物を渡す際のマナーも細かに纏められています。
今でもビジネスマナーなどで応用されていますが、例えば刃物やハサミ等を相手に渡すときには、刃先は相手に向けず、握る部分を相手が取りやすくして渡します。
さらに学生時代に経験されていると思いますが、卒業証書を受け取る際に、掌を上にして手の甲が下になるようにしてうけとります。
一方校長が生徒に渡すときには、手の甲が上になり掌が下に向いています。
今セクハラ、パワハラなどと騒がれていますが、上に対する礼をわきまえることも大切で、この事はやはり先輩や上司が職場できちんと教えてあげることが大切だと思います。
ここで日本ならではの伝統的な優雅な渡し方の作法に触れておきます。
私も自分が主催する「和の礼儀作法講座」では極力実践していますが、扇子を使用した祝儀袋などの渡し方です。
物の売買がキャッシュレス時代になろうとしている中、恐らく実用的ではないかと思うのですが、次世代に伝えたい美しい文化です。
何が美しいかといえば心と形です。
武士はお金を渡すときには手から手に渡すのを嫌がっていました。
従って基本的には盆にのせて渡しますが、盆がない時には「扇子」を開いてその上にのせて渡します。
これがとても優雅なわけです。
もちろん作法を心得ていないと、渡された方も、どのように対応していいのか分かりませんので、相手によりけりだと思います。
ただし扇子には要がありますので、これは武器にもなりかねません。
だから直接要が相手に向かないよう、少し斜めにして渡すようにしてください。
さらに筆記具、傷つきやすいもの、長いもの。重いものなど、いろいろそれに応じた渡し方があるわけですが、四季の国ならではの「花の渡し方」にも細かなマナーが存在します。
桜梅桃李のような木がしっかりしているものは花を上に立てます。
一方草花のように弱弱しい花の場合は花を下に向けます。
加えて物を「誰に渡すか?」で、渡す位置(高さ)が異なります。
最高の渡し方は神や仏、貴人に捧げものをするときです。
この時には「目通り」と言って眼の高さに掲げ恭しく渡します。
品物に息がかからないようにするためで、最高の敬意を表現します。
次に肩の高さで渡す「肩通り」がありますが、これは特に貴重な物や儀式などでの作法です。
そして胸の高さでの「乳通り」、腰の高さでの「帯通り」があり一般的なやりとりの作法です。
昔の武士は美しく、とにかく格好いいとおもいます。
そして今の日本人に不足している美点を見事に兼ね備えている気がします。
装いや立ち居振る舞いからもそれが伺えるようです。
令和になった今こそ、武士の人生観や処世術を真似るのもいいのではと思うわけです。現代人のあるべき姿を適切に示唆してくれるかもしれませんね。
ちなみに日本は明治維新になって英国のマナーを見習いましたが、イギリスの紳士が世界から尊敬されるのは、ひとえに騎士道以来の伝統を受け継ぎ、素晴らしいマナーを体現しているからでしょう。
日本でも同じではないでしょうか
礼節の国、和の国の精神を、令和という新しい時代を迎えた今こそ、自分自身の生き方に合わしてこそ豊かになれるのではないかと考えます。