マナーうんちく話535≪五風十雨≫
二十四節気の一つ処暑の頃になると、ある程度猛暑も和らぐのが普通ですが、いまだに猛暑が続いております。
しかし季節は正直で、一生懸命秋になろうと頑張っている気がします。
この時期にお目見えする、胴がくすんだ黄色のトンボ、つまり「薄羽黄トンボ」が気持ち良さそうに飛び始め、夏の終わりを告げています。
加えて夜になると、鈴虫やコオロギなどの秋の虫が、涼しげな音を奏でてくれます。
心が安らぐ思いですが、実はこの美しい虫の音を「声」として聴けるのは、日本人とポリネシア人だけだといわれています。
食べ物も、気候風土も、文化も、宗教も異なるので別に不思議なことではないと思いますが。また能の捉え方の違いもあるでしょう。
しかし昔から自然と共生してきた、日本人独特の自然観によるものも大きいのではないでしょうか・・・。
大切にして次世代にも是非伝えたい文化だと思います。
ところでこの時期に相応しい唱歌で「虫の声」があります。
《あれ松虫が鳴いている・・・》で始まる、誰しも一度や二度は耳にしたり、口ずさんだ経験がある歌だと思いますが、この曲の中に登場する5匹の虫の名前がすべてお判りでしょうか。
先日私が主催している「バラ色未来創造大学」の講座が、たまたま《家族と地域の絆を深める年中行事の知識と相応しいマナー》だったので、その講座の中の座談会のテーマの一つに加えました。
参加者は50代から80代の男女約40人で、6つのグループに分かれて答えを出していただきました。
元幼稚園や小学校の教師、地域の世話役、農業、お花の先生など様々な顔ぶれの人たちで、比較的ものごとに精通している方たちでしたが、残念ながら正解はありませんでした。
年中行事や日常生活のマナーは、わかっているようで実はわかっていないことが多いものです。
答えは松虫、鈴虫、コオロギ、ウマオイ、くつわ虫です。
そして秋の鈴虫とよく似ている音を人工的に作り出したのが、夏の風物詩ともいえる「風鈴」ですね。
既に縄文時代には「土鈴」が存在していたとか・・・。
最も当時は風情を楽しむというより、農作物にたかる野獣を追い払ったり、邪気を払う目的のようでしたが、暮らしが豊かになるにつれ、涼しげな音を聞いて風情を味わう文化が発達してきたのでしょう。
日本独特の文化で江戸後期には「風鈴そば」も登場してきたようです。
今では風鈴の資材もガラス、木炭、陶器、鉄、木炭など多彩になり、大幅に範囲が増えましたが、この夏は風鈴の風情がマッチしないくらいの猛暑でしたね。
科学が発達したおかげで、クーラーが登場し、快適な夏の暮らしを可能にした文明の機器が、逆に温暖化を進行させ、厳しい暑さを招くとは皮肉な話です。
虫の声を再度楽しむゆとりを持ちたいものですね。
そして先人の生活の知恵も学びたいと痛感しています。
虫が鳴くのは子孫繁栄のための交尾を目的としているそうですが、今年は特に「この世に生まれたうれしさ」や「気候が落ち着き過ごしやすくなって嬉しい」という思いが込められているとも取れますね。
生きているありがたさを表現しているかもしれません。
今年は猛暑で虫も少なくなっているそうですが、いずれにせよそのような声を真摯に聞く耳を持ちたいものです。
感性とはそのようなものかもしれませんね。