マナーうんちく話569≪泥より出でて、泥に染まらず≫
花を愛でる文化は世界中にありますが、花を見ながらご馳走を食べたり酒を飲んだりする文化は恐らく日本だけではないでしょうか。
そして今年も桜便りにつられて、花見を予定している人も多いと思います。
花見のマナーに関しては様々な本やコラムでも取り上げられているので、今回は米を主食にしている人にはぜひ知っていただきたい、「桜の下で催す酒宴と米づくり」との意外な関係に触れておきます。
前回のコラムと同様、花見の宴でのうんちくにしていただければ嬉しいです。
このコラムでも何度も触れましたが、神道や「和食と年中行事との関係」、さらに「神人共食文化」を思い浮かべて下さい。
日本は四季が豊かで、自然と共生しながら、稲作を中心とした農耕文化で栄えた国ですが、冬が過ぎて桜の花が咲く時期になると、村人は山の神様をお迎えして、田の神様になっていただき、これから始まる田植えの豊作を祈願します。
山の神様が山を下る時に鎮座されるのが実は桜の木なのです。
だから桜が咲き始めると、村人はご馳走や神様が大好きな酒を持参して、桜の木の下で宴会を開きます。
つまり桜の木の下で山の神様をご馳走や酒でおもてなしをするわけです。
そして今年の豊作を祈願するということです。
早い話「花見」の起源は、山の神をおもてなしして田植えの無事を祈る行事だったようですね。
神様と人が共に食事をするのでまさに「神人共食文化」です。
正月におせち料理を食べるのもその文化で、その際両方がとがった「神人共食箸」を使用します。
また当時は、桜の散り具合で稲の出来・不出来を占ったようで、桜が早く散れば稲の花も早く散ってしまい、豊作にならないと考えられていました。
だから花見をしながら、桜が一日でも長く咲き続けることを祈ったのでしょう。
飽食の時代には考えられない切ない願いです。
ちなみに現在では桜といえばソメイヨシノですが、これは明治になり広まった品種で、それ以前は桜といえば八重桜や山桜だったようです。
ところで稲作儀礼において「早乙女(さおとめ)」を見かけますが、田植えの際、稲を水田に植え付ける女性を早乙女と言います。
早乙女の「サ」は田の神を意味しますが、桜の「サ」も稲に関係する言葉です。
さらに、さくらとは「さ」の「くら」ということですが、早い話、田の神の「座」で、稲と桜は連動しているということです。
このような物語を知れば、花見の姿勢も少し変わって、真摯な気持ちで桜を愛でるようになりそうですね・・・。
出雲地方で行われる神在月の伝統行事も、正月も、花見も、神様をおもてなしする行事と心得れば、日本が世界に誇る「おもてなし文化」も、より心がこもる気がします。
日本の文化は本当に奥が深いようですね・・・。