マナーうんちく話673《「立春」と「慶事用熨斗袋」≫
1945年に日本は敗戦国になり、悲惨な戦争に終止符を打ったわけですが、敗戦後の混乱期は想像を絶する事が多々あった事でしょう。
物質的な貧しさは勿論の事、平均寿命も恐らく先進国では最低レベルだったと思います。
しかし、本来勤勉だった日本人は手をこまねいていたわけではありません。
復興を目指して、それこそ、なりふり構わず働き、経済を立て直し、物質的豊かさを手に入れると共に、豊かな食生活まで実現しました。
その結果「経済大国」「飽食の国」、さらに「長寿国」になり、世界各国から驚きの目で見られるようになりました。
加えて、大学の数も急激に増え、高等教育を受ける機会が大幅に増え、民主主義が発達し、結婚や職業等における選択肢も増え、戦時中とは比較にならないほど何もかも豊かになってきました。
「衣食足りて礼節を知る」と言う言葉があります。
自分自身が肉体的にも精神的にも恵まれて来ると、「他者に対する思いやりの心」が芽生えてきます。
今まで、復興を目標に、がむしゃらに頑張ってきたわけですが、ある程度物質的にも精神的にも豊かになってくると、改めてマナーに対する認識が高まってきます。
西洋諸国に追いつけ、追い越せと、一心不乱に頑張ってきて、それなりの成果を出し、改めて振り返って見ると、日本には、西洋諸国に勝るとも劣らない、多様な文化や礼儀作法が存在した事に気が付くわけですね。
世界屈指の長い歴史を誇る日本は、稲作を中心に栄えましたが、稲作を作る過程で、自然と共生することの大切さや和の心を確立させました。
また、縄文時代や弥生時代には殆ど争いが見られないそうです。
加えて、平安時代や江戸時代のように、政権が200年から400年以上続いた国は日本以外に前例がありません。
そんな平和な社会背景から生まれた日本の礼儀作法の最大の特徴は、思いやりの心が基本です。
戦争に明け暮れた歴史の中から生まれた西洋のマナーには、危機管理的要素が多々ありますが、思いやりの心を中心とした日本の礼儀作法の基本理念は、地球の環境保全や世界平和に、大きく貢献できると信じて疑いません。
そして、これらの思いやりの心をベースにした「しきたり」は、今でも人生の最も大きな儀礼である「冠婚葬祭」の中に脈々と生き続けています。
さらに、マナーには不易流行的な側面があります。
長い間、風雪に耐え受け継がれてきた「しきたり」の他に、明治維新以降に欧米諸国から入って来た新しいマナーや、最近急速に発展した国際化や情報化時代に対応する最新のマナーも誕生しました。
人は一人で生きていくことはできません。
家庭・地域・学校・職場・社会と常に生活の場が繰り広げられていますが、その中で展開されるライフスタイルには様々な事がまつわりついています。
従って、老いも若きも、イザと言う時に言う時に、どのように振る舞えばよいか、不安や心配を抱えている人は多々います。
子育てや指導的立場にある人が、子どもや部下にどのように教えたらよいのか迷っている人も多いと思います。古くから伝わる良きしきたり、新たに生まれたしきたり等を、TPOに応じて上手に取り入れることが大切になってきます。
ちなみに古くから伝わる「しきたり」は早い話し、先人が思いやりの心を態度・言葉・文章で具体的に表現するために残してくれた、よりよく生活するための知恵です。
だから、それらを理解しているのと、そうでないのでは雲泥の差があります。
「恥をかかないために」というより、「いかに他者に思いやりが発揮できるか」、そこに価値を置いて、冠婚葬祭を捉えて頂ければ嬉しいです。
次回に続きます。