マナーうんちく話494≪和顔愛語≫
日本酒はその製造方法もさることながら、飲み方に有史以前から語り継がれた独特の精神文化が存在し、現在でも、神事や「ハレの日」の飲み物として、脈々と伝わっています。
日本酒に関する先人の思いを理解し、その奥深さを知れば、美味しさもさらに引き立つし、儀式の意義が見えてきます。
そこで今回は、「お神酒(おみき)」についてのお話しです。
前回《日本人と酒》で触れましたように、昔から日本人は、神事などを行う時には、神様の大好きなお酒をお供えしてきましたが、これを「お神酒」といいます。
なぜお供えするのかと言えば、神様と仲良くなる事、つまり神様との良好なコミュニケーションを図るためです。
そして、神事が終われば、お供えしたお酒を下げて頂くわけですが、神様と同じ物を飲んだり食べたりすることで、神様の霊力を頂くとともに、神様の教えを真摯に受け止めることになります。
今でも、日本には世界でも大変ユニークな「贈答思想」が有りますが、その起源はどうやら、このへんに有るようですね。
ちなみに、「贈答のマナー」でも触れましたが、贈答の際には「熨斗(のし)」をつける場合が多々ありますが、その「熨斗」は、酒と一緒にお供えした「鮑(あわび)」です。
なぜ鮑かと言えば、鮑は、長寿で美味で保存がきくからです。
最初は、生の鮑だったのが、鮑を薄くスライスして、干して、延ばしたものをお供えするようになりました。
やがて、「結納の熨斗」のように、素晴らしい文化を築くわけですが、そこには日本ならではの「思いやりの心」が凝縮されています。
このように、日本では古くから、神様と共飲共食する考えが有り、酒が、人と神様、人と人を結びつけているわけです。
その考え方は今でも根強く残っています。
時節柄、新年ご礼会等を行う所も多いと思いますが、神様にお供えした酒を下げて、皆でその酒を飲み食わすことで、互いの絆をより深めることになります。
さらに、「神前結婚式」を経験された方はおわかりだと思いますが、神前式では「三三九度の盃」と「親族固めの盃」があります。
これらの儀式はまさに、お供えした酒を、新郎・新婦や、親族が飲み交わすことにより、末長い絆を築くことに他なりません。
「無縁社会」が深刻な社会問題になって久しいですが、無縁社会を「有縁社会」や「良縁社会」にするには、私は「結納の儀式」や「神前結婚式」は最高の特効薬だと信じてやみません。
日本は、新年の初詣には、日本人のほとんどが神様に祈願する国です。
だったら、冠婚葬祭の中でも、唯一当事者が主体的に行える結婚式も、このような思想をキチンと理解して頂けたら、神前式でされるカップルが急増すると思います。
次回は、「お神酒」の正しい飲み方のマナーに触れてみます。
是非お付き合いください。