現任者講習#2
「いくつになっても、意欲さえあれば新しいことは学べる」。この言葉は、人生の節目を迎えた多くの大人たちにとって、勇気を与えてくれるものです。近年、少子化により、大学は生き残り競争時代に入りました。この先10年安泰の大学は、少なくとも私立にはないと言えます。
生き残りを真剣に考えている大学の戦略的方向性はいくつかありますが、大雑把に言えば肥大化か縮小化になります。
肥大化は、学部を増やして、大学を大きくして、弱小大学を潰しにかかるのと同時に、潰れた大学の教員の受け皿になるというやり方です。
肥大化の方向でもパイの少ない18歳人口の獲得と、同時に大学院重点化と社会人の獲得のすべてを同時に行うという巨大戦略を潤沢な資金を背景に実施します。
メリットは、ライバルを倒していき、勝ち組になれることです。デメリットは、肥大化しすぎて、身動きが取れなくなることです。
一方、縮小化は文字通り、大学を小さくして、地域に密着し、地元の人に来てもらい、教育をして、地元に就職してもらう、地産地消型です。メリットは身軽であること、デメリットは、資金力をはじめとして、出力が小さくなることです。
いずれにしても、18歳人口だけでは、成立しなくなることは明白ですので、社会人を学部、大学院ともに獲得していく必要がありますが、これから第3勢力になるのが、通信やオンラインの大学でしょう。社会人が、仕事をしながら学べることが大きな魅力として支持されるようになるでしょう。
「学び」に関しては年齢の壁はありません。むしろ人生経験を重ねたからこそ、学びの深みが増し、実り豊かなものになることさえあります。
その象徴とも言えるのが、臨床心理士や公認心理師といった心理専門職への道です。近年、こうした資格をセカンドキャリアとして志す大人が増えています。人の心に寄り添い、支援する力を磨くことは、人生の後半戦においても社会的意義が高く、やりがいも大きい分野です。
セカンドキャリアとしての心理職の魅力
人生100年時代、40代や50代は「折り返し」ではなく、もう一つのキャリアを築ける十分な時期と捉えられるようになってきました。定年を意識しはじめる年齢になっても、知的好奇心や社会貢献の意欲は衰えません。むしろ、「これからの人生で何ができるか」「社会にどのように関わりたいか」を真剣に考え始めるのがこの時期なのかもしれません。
臨床心理士や公認心理師の資格は、こうした問いに応える一つの道です。カウンセリングや心理的支援、教育現場、医療機関、福祉の場など、心理職の活躍の場は非常に多岐にわたります。また、人間の心を扱うという点で、人生経験がそのまま専門性の一部になるという特性もあります。若年層にはない強みが、大人の学び直しにはあります。
学び直しを決意する人々の背景
京都コムニタスには、臨床心理士指定大学院や公認心理師養成課程を目指す社会人が多く訪れます。彼らの背景はさまざまです。ある人は長年続けてきた仕事を一区切りとし、「人の役に立つ仕事をしたい」という思いで心理職を目指します。またある人は、今の仕事に心理支援のスキルが必要で、現場の要請に応えるために専門知識を求めています。
学び直しを志す人々の中には、かつて納得のいく進路を歩めなかったという悔しさを抱えている人も少なくありません。特に、団塊ジュニア世代にあたる40代後半の方々は、就職氷河期を経験し、当時希望する職に就けなかったことを悔いているケースが多く見られます。その悔しさをバネに、今こそ自分の本当にやりたかったことに挑戦しようとする姿勢は、非常に前向きで力強いものです。
フルタイムか、兼業か――二つの道
学び直しの方法は人によって異なります。大きく分けて、仕事を辞めて学びに専念する人と、仕事を続けながら学ぶ人の二通りが存在します。前者は、生活の安定を手放すリスクを取りながらも、強い決意を持って勉強に打ち込む道です。後者は、家庭や仕事との両立を図りながら、時間をやりくりして勉学に励むという道です。
いずれも簡単な選択ではありません。仕事を辞めるという決断には大きな勇気がいりますし、働きながら学ぶには体力と時間、そしてモチベーションの維持が不可欠です。ですが、多くの社会人がその困難を乗り越えて、目標に向かって進んでいるのが現実です。
「勉強しておけばよかった」の後悔を、行動に変える
多くの調査で明らかになっているように、人生の後半で最も後悔していることの上位には「勉強」が挙げられます。「もっと勉強しておけばよかった」「若いころに気づいていれば…」という言葉は、大人たちの共通の思いです。しかし、その思いを後悔で終わらせるのではなく、行動に変えようとする人が今、増えているのです。
京都コムニタスでも、「昔は勉強しなかったけれど、今だからこそ学ぶことの意味が分かる」「現場で求められる知識をきちんと学び直したい」といった声を多く聞きます。こうした方々に共通しているのは、「学ぶことそのものが喜びである」と感じている点です。
40代、50代の学び直しには、単なる資格取得を超えた価値があります。それは、教養の再構築です。情報があふれる現代において、何を信じ、どう判断し、どのように人と関わるかを考える力は不可欠です。育児や介護、地域活動、職場での人間関係など、人生のさまざまな場面で、教養は大きな支えとなります。
たとえば、今の世界情勢をどう読み解くか、心理的なストレスにどう対応するか、子どもの発達にどう関わるかなど、日常の中に学びの課題はあふれています。心理学の知識や学問的視点は、そうした課題に光を当て、より良い選択を導くための武器になります。
「今からでは遅い」は幻想である
40代から勉強を始めても遅くはありません。実際、50代で大学院に合格し、臨床心理士資格を取得した方も多数います。昨年度は70代の方の合格もありました。プロスポーツ選手が引退後に大学院で学び直し、新たな道を切り拓くように、誰しもが自分の「第二の人生」に挑戦することができます。
重要なのは、「やりたい」と思った気持ちを大切にし、それを行動につなげることです。「学ぶのが久しぶりで不安」「学力に自信がない」と感じる方も多いかもしれません。しかし、学ぶことに年齢は関係ありませんし、始めるのに遅すぎるということもありません。
大人が勉強できる社会をつくるために
京都コムニタスは、開塾当初から「大人が学べる塾」であることを理念に掲げてきました。年齢や経歴に関係なく、知的好奇心にあふれた人々が集い、互いに学び合い、成長できる場を提供しています。「この年になって勉強できてうれしい」と言われる瞬間こそ、私たちにとっての最大の喜びです。
これからも、学び直しを志すすべての人を支援し、「セカンドキャリアを本物にする」お手伝いができればと願っています。臨床心理士や公認心理師という道を通じて、人と深く関わる力を身につけたい方は、ぜひその一歩を踏み出してください。私たちは、その歩みを全力で応援いたします。



