心理職の力量とは

井上博文

井上博文

テーマ:公認心理師になるには

ここのところ、大学の先生方にインタビューをしていますが、私たちとして、当然聞かねばならない質問は、心理職の就職についてです。『季刊 公認心理師』でも臨床心理士や公認心理師が食べていけるという観点から書きましたし、当塾関係者で現場で活躍する人の声はとても良い反響をいただいています。私個人としては、臨床心理士と公認心理師はとても良い資格だと思っています。通常、資格だけでは食べていけないものです。例えば医師や弁護士は業務独占の範囲があって、要するに医師や弁護士でないとできない仕事があるということです。公認心理師は名称独占ですので、言ってみれば、名前だけ独占で(それも微妙)、公認心理師にしかできない業務は設定されていません(作ればいいのにと少し思っています)。そのわりには、という言い方はあまり良くはありませんが、かなり有効な資格で、就職も資格を取ってから、というケースが多くなっています。臨床心理士は大学院を修了してから半年が過ぎた10月くらいに試験がありますので、資格がないままの状態で社会に出ることに対する批判は常にあります。一方、公認心理師は、コロナ禍で昨年延期になった分、しばらくかかるかもしれませんが、遠からず2月に試験が設定されることになると考えられます。看護師や助産師もそうですが、4月から新年度が始まることが前提で、その時には有資格者として、新しい環境に臨めるというものです。その意味では、いずれ、公認心理師の就職ももっと安定したものになると予想されます。
しかし、インタビューの中で、就職ができるか否か、あるいは良い就職を取れるかどうは、結局個人の力量だという声がほとんどでした。それは当然のことなのですが、あらためて、力量とは何ですか?と問うと、二つの大きな問題に集約されていくことが見えてきました。この話はいずれします。

この力量に関係するものとして、第4回公認心理師試験の最新のブループリントの新出ワードとして「心理職のコンピテンシー」が加わりました。こちら
現任者講習テキストにありました。コンピテンシーとは
「特定の専門家が適切で効果的に業務を行う資格を持ち、その専門職の倫理観や価値観に沿った方法で、適切な判断、批判的思考、そして意思決定できることを意味する」

とのことです。心理職としての適切な判断や批判的思考、意思決定というところが大切名のだと思われます。おそらくはアセスメントの力はかなり重要になると思われます。しかし、これだけにとどまるわけではありません。

心理職のコンピテンシーについてはそのモデルがあり、
「基盤コンピテンシー(7つ)」・「機能コンピテンシー(7つ)」「職業的発達」という3次元の立体的モデル(立方体モデル=Cube model)があります。

以下現任者講習会教材に沿います。
基盤コンピテンシー
①専門家としての姿勢
心理職の価値観と倫理観に基づく言動
②反省的実践
自己の言動を振り返り、他者に対する自己の影響の認識や、自身の評価をする
③科学的知識と方法
科学的な研究から得られた知識を尊重し、効果的に応用する
④治療関係
個人やグループ、共同体と効果的に意味のあるやり方で関係を作る
⑤倫理・法的基準と政策
倫理的概念や法に関する知識を個人や集団に対して適用できる
⑥文化的ダイバーシティ
様々な価値、文化的な背景などをもつ個人、集団に対する敏感さと配慮
⑦多職種協働
他の専門家と効果的に共同作業ができる

機能コンピテンシー:

①心理的アセスメント
客観的な心理的アセスメントと解釈、手法の理解と活用
②介入
クライエントの特徴にあった介入計画、知識とスキル、成果の評価
③コンサルテーション
リファー元に対する専門家としての助言や支援
④研究と評価
研究とその方法方法への理解。知見の効果的な活用
⑤スーパービジョン・教育
専門的知識やスキルの教授
⑥管理・運営
メンタルヘルスサービス・事業の管理と組織運営への関わり
⑦アドボカシー
権利、利益を擁護し、代弁。社会、政治、経済、文化的に影響を与え、個人、集団、システムの変化を促進

職業的発達
立体的モデルでは、「博士課程教育」、「博士課程の研修」、「博士課程後のスーパーヴィジョン」、「就職後の研修」、「継続的なコンピテンシー」が記されています。

このコンピテンシーを高める中核になるのが反省的実践(refletive practice)とされます。
反省的実践とは、常に自身の能力と技能を見定め、必要に応じてその活動を修正していくことです。そして、反省的実践は、1人で行うだけでなく、他者からフィードバックを得る活動を通して起こるとされています。
反省的実践の方法としては、「スーパービジョン」、「教育分析」、「キャリアポートフォリオの作成(自分自身の俯瞰)」などが挙げられます。

この中でもスーパービジョンは、かなり問題として狙われやすいと思います。我々の教材でもそれなりに指摘があります。経験豊かな心理士の「スーパーバイザー」が、経験の浅い心理士である「スーパーバイジー」に対して行う専門的指導のことです。
 スーパービジョンは、スーパーバイザーとの対話によって、助言や知識だけを得るだけでなく、関係性のモデリング・体験学習の要素もあります。
 
スーパービジョンと教育分析は分けて考えるものです。 
心理職自身が個人療法を受けることを精神分析では教育分析と呼びます。自身の問題や心理的特徴について理解することができます。当塾出身の心理士は教育分析を受けている人はたくさんいます。このあたりも狙われやすいと思います。

と、ここまでは文字通り教科書通りなのですが、心理職の力量はもう少し奥が深いようです。この点については、稿をあらためます。


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井上博文(塾講師)

株式会社コムニタス

塾長以下、スタッフが、全ての生徒の状態を正確に把握している。生徒をよく観察し、成長度合、どのような不安や悩みを抱えているか、をしっかりと観察し、スタッフ間で情報共有をしている。

井上博文プロは京都新聞が厳正なる審査をした登録専門家です

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