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井上博文

大学院・大学編入受験のプロ

井上博文(いのうえひろふみ) / 塾講師

株式会社コムニタス

コラム

「こういった文章を書いてはいけない」の典型

2015年10月16日

テーマ:小論文対策

コラムカテゴリ:出産・子育て・教育

国立大学に文系の学部はいらないという記事を読みました。はっきり言いますが、とんでもない記事です。普段、ネット上の記事を見るときには、あまり作者を気にしないのですが、さすがに、一体誰が書いたのかと思って見てみると、池田信夫氏です。あまりこのコラムで個人名を出したくないのですが、この方、いつもネガティブな意味で目についてしまいます。別にこの方の記事を追いかけているわけではありません。
以前私がこの方に触れたのは屁理屈は論文では書いてはいけません極論、暴論はやめましょう です。個人攻撃のようで申し訳ないのですが、今回も取り上げさせていただきます。
池田氏の持論は、「大学教育では遅すぎて幼児教育に力を注ぐべきだ」という主張であることは、以前からのものですので、よくわかります。これは意見ですから、それぞれの考え方で問題ないと思います。しかし、彼のいう「総合的な学習能力のピークは8歳」という考えに基づいて、理屈をたてることは危険ですし、それでもって、「大学教育に意味がない」「国公立大学に文系がいらない」などと言うのは暴論と言わざるを得ません。当たり前のことですが、8歳で能力が決まり、それで生涯賃金が決まるという事実はありえません。前回も触れましたが、相関関係と因果関係は異なるものなのです。これをわかりながら結びつけるのは、悪意のある屁理屈と言わざるを得ません。ましてや8歳までにどうすればその能力とやらが高まるのか、具体的なことも言わずに、イギリスの事例を出して、5歳入学を主張しても、8歳までに能力を高めて、それが生涯賃金を上げる証明になるはずもありません。それにも関わらず「単に子供を預かっているだけの保育所は補助金の浪費であり、幼稚園に一元化して教育すべきだ」と主張されますが、幼稚園に通わせるだけの経済力が世帯にないから、夫婦共働きで、収入を得るという家庭もたくさんあります。子どもを預かってもらって、親が働くのが、今の社会では珍しい話ではないのです。だとすると、その主張が誰に届くのでしょうか。あまりにも現実とかけ離れた主張です。彼の言葉を逆手に取って、うがった見方でその主張をまとめると、「8歳までで人間の生涯が決まるのだから、それ以降の教育は無意味である。故に大学は意味がない。故に大学、特に文系に提供する金銭は無駄であるから、幼児教育にまわすべきである」と言えるでしょう。極論に極論で返すとすると、こういった主張をするならば、8歳までに能力が完成する教育プログラムの成功事例を出すべきです。それによって、生涯賃金が上がって、犯罪率が下がった国のモデルと、この国で教育を受けた方が、生涯賃金が低く、犯罪率が高いという数字の比較による証明をすべきです。
8歳までで人生が決まるなどということは断じてあり得ません。幼児教育で人生が決まるなどということもあり得ません。私は、30を超えてからでも、40を超えてからでも人生を変えてきた人をたくさん見てきました。遅咲きと言われた人もたくさん知っています。一方で、幼児教育から受けて、受験アスリートになり、最難関の医学部の合格を取りながら、でも医師や医療に興味がなかったという人もたくさん(本当にたくさん)見てきました。大学受験アスリートが、素晴らしい人生を歩んでいるのかといわれると、その確率は高くないと思います。私が昔一緒に仕事をしていた弁護士は、今、30代前半にして、誰もが名を知る投資銀行の法務ディレクターですが、彼は、小学校から高校まですべて近くの公立高校です。高校時代、陸上競技で全国に行っています。塾や予備校にも行かず、現役で京大法学部に入り、生まれて初めての挫折が、旧司法試験を一度落ちたことです。彼はもちろん幼児教育など受けていません。私はこれを必ずしも特殊事例とは考えていません。彼も自分が特殊だとは考えていません。彼も40代から50代で、人生をリセットしてみたいという気持ちを持っています。人生を決めるのは、個人の見方や考え方で、それは生きてきたプロセスによるところが大きく、要するにある程度の年齢にならないと開花しないこともたくさんあるのです。これまで生きてきたプロセスで集めた点が線でつながる時をじっと待つことも重要です。8歳で人生をあきらめてしまうような人を輩出することを推奨する文言を吐く人が、この国の行く末を語るのはあまりにも残念です。



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