緊張を取り除くためにする2つのこと
私はこれまで多くの方の「暮らしを整えたい」という思いに向き合ってきました。その中で、繰り返し出会うテーマがあります。
「毎日忙しくて、自分のことが後回しになってしまうんです」。
コーチングの場で、こう打ち明けてくださる方は少なくありません。お話をうかがうと、たしかに一日は予定でぎっしり。メールの返信、急な頼まれごと、鳴り続ける通知、こまごました家事。どれも無視できないものばかり。
けれど、その大半は「急ぎではあるけれど、本当に大切とは限らないこと」で埋まっています。本来やりたかったこと、向き合いたかったことが、いつも最後に回され、結局手つかずのまま——。そんなパターンが、少しずつ見えてきます。
ご本人も、それに薄々気づいていることが多いのです。気づいていながら、目の前の小さな用事を片づけることで一日が過ぎ、夜になって「今日も自分のことは何もできなかった」と感じる。その繰り返しが、じわじわと自信や元気を削っていきます。そういうとき、私がよくお伝えするのが「壺と石」のたとえ。
大きな壺に、まず大きな石を入れる。次に小石、砂、水と入れていけば、すき間はどんどん埋まっていきます。けれど順番が逆だったら——小石や砂を先に詰めてしまったら、大きな石はもう入りません。ここで大切なのは「工夫すればもっと入る」ということではなく、「大きな石は、後からでは入らない」という一点だと、私は考えています。
だからコーチングでも、まず一緒に問いを置きます。「あなたにとっての大きな石は、何ですか」と。仕事でも、家族でも、健康でも、自分の機嫌を整える時間でもかまいません。すぐには答えが出ないこともあります。それでも、言葉にして取り出してみる。そして、その石を先に予定へ入れてしまう。小石や砂のような用事は、そのすき間に流し込めばいい。順番を入れ替えるだけで、不思議と一日の重心が変わっていきます。
面白いのは、大きな石を一度言葉にできた方は、小石への向き合い方まで変わっていく、という点です。「これは今日でなくてもいい」「これは人にお願いしてもいい」。そんなふうに、手放したり、後ろに回したりする判断が、自然とできるようになっていきます。大きな石が決まると、残りのものの大きさが、相対的に見えてくるからだと思っています。
こうして変わっていく方々には、共通点があります。一日の中のほんの数分——朝の十五分でも、夜の十分でもいい——を、「自分の大きな石」のための時間として先に決めてしまう。最初は、たったそれだけです。それでも、一番大切にしたいことに先に手をつけた、という感覚が、一日全体を落ち着かせていく。午後に予定が崩れても、「先にやれた」という土台があるだけで、気持ちの揺れ方が変わってくる。「追われている感じが、ずいぶん減りました」——同じような言葉を、私はこれまで何度もうかがってきました。
忙しさそのものは、悪者ではありません。問題は、目先の小石に追われて、大きな石を見失ってしまうこと。方向の定まらない船が、ただ流されていくのと同じです。逆に、自分の大きな石がはっきりしていれば、小石や砂をどう扱うかも、自然と決まっていきます。
もし今、やることに追われて大切なことが後回しになっていると感じるなら、まずは紙に一行、「自分にとっての大きな石」を書き出してみてください。そして、その一つを、明日の予定に先に入れてみる。順番を変える。たったそれだけの一歩が、あなたの毎日の重心を、少しずつ取り戻してくれるはずです。


