どこでやるのか、は大事?―考えてみよう、立地というブランド―Ⅰ
PDCAに馴染めなかった
日本が何故「決められない」国になってしまったのか・・・その点について、この記事の筆者は次のように分析しています。
―どうやら、日本企業は「決められない病」にかかっている、と世界からはみなされているようだ。その原因は何か。筆者の独断と偏見も入るが、「PDCAサイクル」へのこだわり過ぎにあるように思えてならない。 よく知られている通り、PDCAとは、P(プラン=計画)、D(ドゥ=実行)、C(チェック=確認)、A(アクション=再実行)のことだ。Aの後にS(スタンダイゼーション=標準化)が来る。P→D→C→A→Sのサイクルを繰り返すことで、標準作業の水準を高められる。日本のビジネス書でもこのPDCAに関する書籍が多く出版されており、ビジネスマンの教科書的な位置づけのものもある。 PDCAは、製造や品質管理の現場のマネジメント手法としては重要だ。「解」が分かっている仕事を着実にこなして、仕事のレベルを高めていくという意味においてだ。追いつき追い越せの時代に、高品質な製品を効率的に大量生産する時代には有効な経営テクニックだったということだろう。―
私も自分の事務所について「もっとこれ(PDCA)をしっかり回していかなきゃいかんなあ・・・」と思っていました。ただ一方で、どうもこの手法に完全に馴染め切れない自分がいたことも確かです。
その違和感は、ここに書かれているような理由から来ていたのかも知れません。「製造や品質管理の現場のマネジメント手法としては重要」とすれば、サービス業である私の事務所では、意識としてややズレが出てきても不思議ではないことになります。
試行(スピード)が重要な時代に
そんなことを考えていたら、昔セミナーの講師を引受けた際に使ったレジュメのことを思い出しました。そのとき私は次のようなレジュメを作っていたのです。
― マーケティングビジネスの幾つかのキーワード ・トライ&エラーが肝要 かつては、計画→実行→反省(過去にウェイト、動きが遅い) 現在では、仮説→試行→検証(未来にウェイト、動きが早い) つまり、試行(スピード)が重要な時代になってきた。―久しぶりに私はこれを見て驚きました。もう20年近く昔に書いたレジュメにもかかわらず、現在の主張とほぼ同様のことが書かれていたからです。
このレジュメは、何かお手本のようなものがあって作成したものではありません。「トライ&エラー」など、自分で考えてキーワードにしたのです。
これは、今も当時と企業の状況があまり変わっていない、ということであり、この記事の筆者が主張するように憂慮すべき事態なのかも知れません。
上記の、計画→実行→反省というのは、PDCAに極めて似た考え方です。これに対して私は「過去にウェイト、動きが遅い」と言っています。これは、今回参照している記事の筆者の分析に、かなり近いといえましょう。
「やってみはなれ精神」の欠如
私が、仮説→試行→検証(未来にウェイト、動きが早い)と述べた、より現代的なパターンについて、この記事の筆者は次のように述べています。
―PDCAサイクルへのこだわり過ぎは、新たなビジネス創出の阻害要因になりかねない。 では、日本人は、こうした新しいビジネスを創出することが苦手なのだろうか。筆者は決してそうではないと思う。 「やってみなはれ」。サントリーを創業した鳥井信治郎氏も、松下電器産業を興した松下幸之助も、この言葉をよく発していたという。やってみないと分からない、という意味が込められている。まさしく「D」から入っていこう、というメッセージだ。 日本からイノベーションが創発されづらくなっている要因の一つに、「やってみはなれ精神」の欠如があることも、中国や米国での取材を通じて感じた。―
これは、「D」即ち「実行」から入ってみれば、という主張です。
ボクシングのヒット&ウェイに似て
この「やってみなはれ」というのは、ニュアンス的には「実行」というよりも「試行」に近い感じがします。やってみる=試してみる、といった言葉の近さがあるからにほかなりません。
「試行」するためには、まず「仮説」が必要です。「仮説」は「計画」と違って、あれこれそれを作成するための面倒な時間を要しません。アイデア、閃き、思いつき、といった言葉を彷彿させます。
そういった「仮説」を立てたならば、「実行」というよりは、即「試行」ということになります。ここで時間を空けてはいけません。何よりもスピードが大事だからです。
「試行」の後にはこれまた即「検証」が来ます。「試行」から「検証」の間もそんなに空けてはいけません。ここでもスピードが大事です。
そうやって「仮説」と「試行」と「検証」を繰り返していくことで、物事を前に進めて行くのです。トライアル&エラーはボクシングのヒット&ウェイに似ているかも知れません。まるでボクシングのジャブを繰り出すかのように、手数とスピードが求められるからです。
これは、スピード優先の現代のビジネスの進め方に対して、極めて理にかなった考え方と言えるでしょう。当時からビジネス現場において、実はこういった必要性はあったということになります。問題なのは、それが必要だったにもかかわらず、日本経済の中で、そういったビジネス感覚がほとんど進歩しなかった、ということです。
ベテランが若手の成長を見守る心を大切に
そんな日本経済に復活のきっかけを与えるとすれば、具体的にはどんなことを実行すればいいのでしょうか。その点についてこの記事の筆者は、次のように結んでいました。
―日本企業に「やってみなはれ精神」を呼び戻すためには、「ベテランが若手の成長を見守る心」を大切にすることではないかと思う。これは深圳での取材で感じたことだ。 今やドローンで世界的企業に成長したDJIの20代の元社員にインタビューした際に、その人は「DJIが成長した理由は、若い人に多くの経験をさせて、前向きな失敗なら許すことだ」と語っていた。(中略) 「すべての仕事は若い人に任せて、一切口を出さない。常々、私に相談せず、自分で判断しなさいと言っている。私が会社で仕事をするのは、顧客とトラブルがあって謝りに行く時だけと決めている」―
これは私も自分のクライアントさんを長い間ウォッチングしてきて感じることです。時代が大きく変わってしまったときには、年配の先代経営者が感覚的について行けなくなったとしても、それは致し方のないことです。
そのときは、前述のように潔く「現場のことには、一切口は出さない。すべて若い人材に任せる。」といったくらいの度量が必要なのではないでしょうか。そんな体質の企業が増えていけば、日本経済はまた大きく飛躍するかも知れません。
日本経済の夜明けは近いのか