2つの結婚披露宴―悪いことしちゃったなあ・・・遠い昔のほろ苦き思ひで―Ⅱ(おしまい)
臨機応変な対応力
北海道の酪農家での様々な仕事を経験した私。自然を相手の作業の途中ではいろいろな予測不能のハプニングが起こります。そんなとき、彼らはその場で知恵を絞り、身体全身を使って何とか解決しようと苦心するのです。
さて、牧場主との野外での作業の際に、そんな彼らの生活上の知恵に遭遇した私でしたが、それはそのとき1回だけではありませんでした。多くの場面で臨機応変に工夫し、何とかして解決までもっていく粘りのようなものを、彼らの行動の中に見出したのです。
耕運機がぬかるみに
そんな一つの出来事として、あるとき、牧場から他の牧場へと移動していた際に、乗っていた耕運機が道路のぬかるみにはまって動けなくなる、といったことがありました。耕運機が抜け出せなくなるというのは、よほどのことです。
というのは、耕運機の場合、普通の車よりも深く刻まれた溝の大口径のタイヤを装着していますし、馬力もかなり大きく作られています。その耕運機がはまったのですから、容易には抜け出せないことは明らかでした。
懸命に押したり引いたりしてみましたが、全く埒があきません。どう考えても『こりゃ無理だ。』と、私は半ばあきらめ気味でした。
何としてでも脱出を
しかし、牧場主はあきらめません。その辺にあった木の枝を集めて泥にはまった車輪の下に敷いて動かそうとします。それでも初めのうちはびくともしませんでした。さらに私たちは、荷台に積んであった板切れや、まだ葉っぱの沢山ついた木の枝などを泥の上に重ねて車輪にかませてもみました。すると、そうやって四苦八苦しているうちに少しずつ車輪が動き始めたのです。
そこで私も、懇親の力を込めて車体を押しました。そうして、ようやくぬかるみから抜け出ることができたのです。このときも、現場で考え得る最大の知恵を絞りに絞ってトライアルを繰り返して何とか解決に至る、といった「農業従事者の粘り腰」というものを改めて目の当たりにしたのでした。
現場力の有無は死活問題
同じようなことは、2トントラックでもありました。この車も、やはり牧場内で柔らかいぬかるみにはまってしまい、にっちもさっちもいかなくなったのです。このときは車が大きかったので、さすがにほかの牧場仲間に応援をもらって何とか脱出することができました。
この土地では、車が泥にはまる、というのはよくあることらしく、私が働いた牧場主に限らず、ほかの酪農家の人たちもいくつものパターンの脱出方法を知っているようでした。このときは、春先のことだったのでまだよかったのですが、これが真冬ともなると動けなくなるのは死活問題でしょうから、きっとそういった知恵といったものも重要なのだろうと納得したのでした。
残念ながらこんな景色には遭遇しませんでしたが・・
つづく