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ソロバンに悪戦苦闘―我が新入社員時代のほろ苦き思い出―後編

海江田博士

海江田博士

テーマ:人生を考える

逆だよ逆!!

私が新卒で就職したあの頃、当時の会計事務所では、ソロバンができること、というのが働く条件の一つでもありました。それまで全くソロバンなどやったことのなかった私は、まずは初歩の初歩の練習帳を買うはめに。そうやって、小学生レベルの練習帳を購入してパチパチとはじきながら悪戦苦闘をしていたある日、重大な事態が持ち上がったのです。
その日も、私は慣れない手つきで、仕事で任された数字をパチパチとソロバンではじいていました。すると、くだんの先輩が向かいのデスクから私の手つきを見ていたのですが、やがて自分の席を立ち、こちら側に回ってきて私の後ろに立ったのです。何事だろうと私は手を止めました。
彼は、私の手つきを覗き込むようにして凝視していましたが、やがて「海江田君、ちょっともう一回ソロバンをはじいてみて。」といいます。いわれた通り、私がぎこちない手つきでパチパチはじくと、彼はいきなり「おーい、みんなこっちに来てみろよ。」と、そのとき事務所にいた他のメンバー全員を呼ぶではありませんか。
「な、なにごと?!?」とみんな集まってくる。そこで「海江田君、もう一回ソロバンをはじいてごらん。」といわれたので、わけのわからないまま、目の前の数字をパチパチとはじきました。
すると、みんなの中にどよめきが起こったのです。「え、何やってんの?」「それっていったい・・どうしたの?」と聞かれるではありませんか。
「どうしたの?」と聞きたいのはこっちです。わけのわからないまま、アワアワしていたら、「ずっとそうやってはじいていたの?」と聞かれました。
とにかくわけが分からないので、やや憮然とした面持ちで「はあ、そうですが、なにか?」と聞き返すと「逆だよ、逆!」と言われたのです。そういわれても、なにが逆なのかわけがわかりません。
・・・・そこで私は、初めてソロバンの扱い方を教えられたのでした。


トラウマになるぜ

なんと私は、ソロバンを下の桁(つまり右)から入れていたのです。ソロバンは頭、上の桁(つまり左)から入れるということを知らなかったのでした。筆算をするように「下の桁から繰り上がって・・・」とやっていたのです。
これでは、いつまでたっても上達するどころか、正確性もおぼつきません。そこで、散々みんなに笑われて、ようやく私のソロバンはまともになる・・・はずだったのですが、その後もたいしてスキルアップすることはありませんでした。みんなに散々笑われたそんな悔しさをバネに一念発起、ソロバンの達人になるくらい努力をしたのかといえば、全くそんなことにはならなかったのでした。
もともと苦手意識も強かったので、上達する気もさらさらなかったということもあります。結局、10級以上の練習帳を買うこともありませんでした。
そのうち、電卓が一般化してきて(まだPC(パソコン)の時代ではありませんでした。)なんとか、ソロバンの呪縛からは逃れることはできたのですが、初めは軽いトラウマになるくらい苦痛でした。当時の「新人研修」と言ってもそんな程度だったのです。


このままではアカン!

現在、新卒で入社した新入社員のうち、1年以内にその何割かは辞めるといわれています。3年以内だともっと多いと聞きました。おそらく、勤めたのはいいが、自分の思うところと随分違う、といった理由が多いのだろう、と思います。
私の場合、コツコツ数字に向き合うなど、もともと向いているとも思っていなかったのですが、それに輪をかけて、ややこしい勘定科目とかソロバンでの細かい計算とかに向き合うことになり、悪戦苦闘せざるを得なかったのです。(まあ、税理士としては、かなりの問題発言ではありますけれど・・・)
と、そんなこんなでつくづく「この仕事、向いていないかもなあ・・・」と思いながら、しばらく件の事務所に勤めていたのですが、やはりどうも税務会計の仕事の本質が何たるかが掴めませんでした。このままでは仕事も覚えないし、資格試験を目指すのも難しそうだなあ、と自覚したのです。
というわけで、その事務所はきっちり2年勤めたあと退職し、アルバイトをしながら大学院を目指すことにしました。今でいうフリーターの道を選んだことになります。


まるで向いていなかったなあ・・

今思い出してみれば、我ながら自分のことを『全くもって仕事のできる新入社員ではなかったなあ・・・』と断定できます。まあ、人付き合いはいい方だったので、周りの先輩たちとは仲良くさせてもらったものの、仕事の面ではいろいろと迷惑をかけてしまったのではないか、と振り返ってしまいます。
そんな私ですが、ちょっとだけ言い訳させてもらえれば、その後、大学院時代に友人と立ち上げた会社では、結構頑張ってその事業を短期間でかなりの年商までもっていきました。なので、まるで仕事ができない、というわけでもありませんけどね。
まあ、向き不向きが極めてはっきりしている、ということだと思います。そういう意味では、「会計事務所の職員」というポジションは、私にはまるで向いていなかったことになります。
さて、わが事務所の新入社員はどう感じているでしょうか。私みたいに極端に向き不向きで混乱することはないだろうと思います。なんとか頑張って、彼ら彼女らなりのポジションを掴んで欲しいと願うだけです。


ちょうどこの頃でした。
真ん中で身体を傾けているのが私。

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海江田博士
専門家

海江田博士(税理士)

税理士法人アリエス

税務相談はもちろんのこと、従来の税理士としての職務に留まらず経営者自身で革新できることを目指した支援を続けています。日本経済をしっかりと支えられる強い基盤を持った中小企業への第一歩のお手伝いをします。

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