常識破りの功罪Ⅰ
パソコン会計導入黎明期
私はかつて、企業(主に中小企業)にパソコン会計の導入を進めていたことがあります。今となっては「そんなの当たり前だろう!」と思われるかも知れませんが、つい20年位昔(21世紀になる直前くらいまで)までは、まだ手書きの帳簿も多く、中小企業の会計事情は、お世辞にも近代的とは言えない状況でした。そんな中小企業の経理部門にパソコンの導入は不可欠と考え、顧問企業を担当する会計事務所として強力に推進したのです。
販売管理や製造管理など、他の複雑なコンピュータソフトの導入はなかなか難しくても、まずは会計ソフトから始めれば、企業のOA化(オフィス・オートメーションの略、人的処理作業などを、コンピュータを使って電子化していくこと)はスムーズに進むと考えたからにほかなりません。世の中にパソコンやインターネットが次第に浸透しつつあり、時代背景としてはまさにぴったりで、この程度のシステムの導入は問題なく進むだろう、と思っていました。
意外な抵抗勢力、やらない理由
ところが、この試みに対しては、思いのほか激しい抵抗を受けたのです。みなさん「そんなことはしたくない!」とおっしゃるのです。経理を手作業で行なっていることの方が不思議だった私にとって、これはかなり意外な出来事でした。
反対の理由は様々でしたが、主に次のようなことを言われました。
・操作が難しくてよくわからない。
・費用がかかりすぎるのでは。
・誤魔化しが効かなくなる。
・今までの方が慣れていてやり易い。
・それでどれほどの効果があるのか。
そのほかにも、やりたくない理由については山ほど言われました。
私にとって「たかが経理へのコンピュータ導入」と思ったのが、やりたくない人にとってはいかなる理由を並べてでもやりたくない、ということだったのです。
とはいえ、時代の流れには逆らえるものではありません。あのとき、あれほど反対された経営者さんたちも、今では当然のようにコンピュータ会計を導入されています。
費用対効果を知ろうとする愚
ところで、先に列挙した反対理由の中の最後に「効果がどれほどあるのか」というものがあります。これは、私がコンサルタントとして何かご提案するときも必ず聞かれるセリフです。
もちろんそういったご質問に対しては丁寧にお答えするようにしているのですが、その効果を完璧に数字で説明することはできません。新しい機械の導入とかであれば、「生産効率が何%アップします。」といった証明ができるのかも知れませんが、販売促進部門の様々な提案に対してはかなりアバウトな説明しかできないのです。
先のコンピュータ会計導入の話に戻しますと、ここで「効果がどれほどあるのか」と聞かれても、これはいわば企業インフラの整備と言ったレベルのお話です。すぐに何百万円、何千万円、得しますよとか、儲かりますよと言った返事などできるわけがないのです。逆に「じゃあ導入なさらないんですか?ずっと手書きの帳簿で行くおつもりですか?」と聞き返すことになります。
黙ってとっととやれば!
経営者は、常に理詰めでものを考える必要性があります。これはもちろん経営者として重要な資質といえます。ただ、アナログの世界からデジタルの世界へ、といった、いわばインフラ改革に近いような大きな外部環境の革新に際しては、細かい理屈を言う前に、やるかやらないかを早期に決断すべきです。
といっても、周りのビジネス環境が変化してくれば、自社だけ取り残されるわけにはいきませんので、この場合「やらない!」という決断はあり得ません。「やるんだ!」とさっさと決めるしか選択肢はないのです。
元々、後戻りはできない世界なのですから、できるだけ早めに決断するしかありません。昔と違って「よその様子を見てから・・」などと言っていたのでは、ビジネス世界の近代戦において決定的な後れを取ることになります。
一億総情報発信時代!?
私は同様のことを「企業の情報発信」についても言いたいのです。企業のとりわけ企業経営者が直接情報を発信していくという流れは、おそらく皆さんが考えておられる以上に重要かつ大きな時流となっていきます。
というのは、今や「一億総情報発信の時代」になりつつあるからです。ツイッター、フェイスブック、インスタグラム、ラインなどSNSを通じて、あらゆる層の人が様々な情報を日々発信しています。個人レベルにおいてもこんな時代なのです。
そんな中、企業の場合、ややその上を行って、自らを「メディア化」するくらいの勢いが必要でしょう。何故ならば、企業組織では一個人より発信すべき情報の量が圧倒的に多く、かつそれが効果的だからです。そうやって発信された様々な情報が交錯することで、ビジネスをよりダイナミックに押し上げていく基点が作られていくのです。情報交換はもはや双方向に留まらずマルチ方向性の時代と言ってもいいかも知れません。
多層的多重的情報社会を生き抜く
さて、この情報の受発信における多方向性は、システムなどインフラ整備も進み、今や普通の状況になりつつあります。ということは、その環境に慣れるために、一日でも早く参加し、適合しておく必要があるのです。この状況は、先のコンピュータ導入のときとよく似ていると言っていいかも知れません。
とはいえ、この環境を自覚し、明確な意思を持って参画している企業も企業経営者も、中小企業ではまだまだ少数派です。「情報発信(アウトプット)」が当たり前の時代になってきたとはいえ、企業の場合、個人間で行なっている軽い情報交換の世界とは一線を画さなければなりません。
この多層的多重的情報社会の中で、有意義な存在として受け入れられる企業の「情報発信(アウトプット)」には一工夫も二工夫も必要なのです。そのコツを掴むためにも、私が積み重ねてきた「情報発信(アウトプット)」のコンテンツ作りやノウハウをぜひ活用していただきたいと思っています。
カフェから情報発信(アウトプット)