涼しい顔して「OK」と言えるか―「もったい」をつけないのが男の力量―Ⅱ(おしまい)
そんな私だが1回だけ本当に焦ったことがありました。
何年か前、大学のOB会総会のときのことです。
会がとりあえず始まって、壇上では諸先輩の挨拶が続いていました。
私は一般席の隅っこに座って
「早くビール飲みてぇーっ。挨拶はいいからとっとと乾杯の音頭に入ってくれよなあー」
と心の中でつぶやいていました。(それは真夏の総会でした)
すると司会進行役の後輩が近づいてきて
「それでは海江田先輩、開会宣言をお願いします。」
と耳打ちするではありませんか!
「えっ!何のことそれっ。」
私は何も聞かされていなかったのです。
今度は後輩があせります。
「あれっ! 言ってませんでしたっけ、開会宣言やってもらうの・・・」
正真正銘の「聞いてないヨー」でした。
テーブル席でそんなとんでもないやりとりをしているうちに壇上の挨拶が終わりました。
「とっとにかく舞台に上がってください。」
進行役の後輩に促されて壇上に上がります。
上がったものの、何をしゃべっていいのかさっぱり分からないので
「えー、本日はお暑い中、諸先輩方をはじめ多数お集まりいただきありがとうござ・・・」
と言いかけると舞台の下から進行役の後輩が「違う、違う」と手を振っています。
「あれっ、違うのかな?」と私。
仕方がないので会場のみなさんに「ちょっとすみません。」と断わり、マイクに音が入らないよう手で押さえて「ど、どうすんの?」と後輩に聞きます。
そうすると、進行役の後輩が舞台下から
後輩:「開会宣言だけやってもらえばいいんですよ。」
私 :「え、それって何やればいいんだよ。」
後輩:「後ろの横断幕を読み上げて『開会します』と言えばいいんです。」
私 :「あ、そうなんだ。分かった。」
ことは実に簡単でした。
とはいえ、初めての経験だったのですが。
後ろの横断幕をふり返りふり返り読み上げます。
「えー、それではこれより『中央大学学員会鹿児島支部第○回総会』を開催いたしますっ。」
言われたとおりに開会宣言を済ませた私は
「こ、これでいいんだよな?」
最後は小声で進行役の後輩に聞きました。
すると彼もホッとした様子で「それでOKです。」とサインを出します。
ようやく舞台から降りることができました。
会場から失笑がもれる中、もたもたした開会宣言は終わったのです。
これほど完全な「聞いてないヨー」は初めてでありました。
後輩も後で「先輩、すいませんでした。完全に伝達ミスでした。」と謝りに来ました。
ま、ここまでひどくなければ何とか対応します。
もうちょい時間をもらえれば挨拶だってかまいません。
限度はあるが、「聞いてないヨー」には基本的に何とか対応するのです、私は。
つづく