「仕事なのに朝起きられない」 のは病気?原因は?ビジネスパーソンが抱える睡眠の問題とは
アラームの音で目覚めたはずなのに、また眠ってしまっていた…。誰にもそんな経験はあるはず。決して仕事に不誠実でも不真面目でもなく、大事な会議や業務があるとわかっているのに遅刻を繰り返してしまうとしたら、睡眠障害や他の病気を疑うべきでしょうか。
そもそも日本人は世界的に見ても、睡眠時間が少ないと言われています。コロナ後のある調査では、約半数が「睡眠が変化した」と回答し、さらにその半数からは、生活リズムの変化やストレス、家事・育児の負担増で睡眠時間が減ったという声も出ています。
睡眠に関しては未知の部分が多く、長年本人のなまけ癖と誤解されてきた青少年期の不登校や昼間の居眠りが、一部の人にとって「起立性調節障害」や「ナルコレプシー」といった病気の症状であることも、ようやく認知され始めたばかり。
ビジネスパーソンの中には、「朝、起きられない」だけではなく、「深夜になっても寝つけない不眠状態」「仕事中や会議中の強い眠気」、さらに「それらをコントロールしたくてもできない自分に対する嫌悪感」などに悩まされている人も多いようです。
睡眠不足の解消だけでは解決できないような他の原因があるとしたら…。精神科・心療内科専門医でもある産業医の益子雅笛さんに聞きました。
繰り返す遅刻は、睡眠コントロールの不調から脳の合理的な判断機能が一時的に損なわれている可能性も。自分らしい睡眠の考え方は、アスリートのセルフケアのごとく、目指すパフォーマンスに合わせてイメージするべし
Q:現代人が抱える睡眠についての問題には、どのようなものがありますか?
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ビジネスの現場から寄せられる相談には、「眠っているつもりなのに一日中眠気がとれない」「なかなか寝付けない」「朝スッキリしないことが多い」など、自分でも睡眠の問題と推察できるようなケースだけでなく、「仕事のパフォーマンスが上がらない」「長時間労働が続いている」といった不調においても、睡眠が深く関係していることがあります。
そもそも睡眠については、医学的にも解明されていないことのほうが多く、平均して何時間眠れば良いとか、規則正しい生活をすれば良いなど、よく言われているような情報も、全ての人に「良い眠り」をもたらすというものではありません。
仮に、その人自身の最適な眠りの条件というものがあるとしても、毎日クリアすることは現実的ではありませんし、実行することにこだわっていると、逆にそれがストレスになって、寝つけなくなるということもあります。
Q:ビジネスパーソンにとって、睡眠コントロールの不全から起こる見過ごせない不調の兆候とはどのようなものですか?
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明らかにいつもと違う体の不調などがあれば、多かれ少なかれ、身体的・精神的なトラブルがその人に起きていることがわかります。それが健康面の不調なら医療機関を受診し、診察や必要な検査などの具体的なデータによって、その症状や対処法も明らかになります。
ところが、単に「起きられない」「眠れない」「やる気が出ない」「集中力が続かない」などというだけでは、「睡眠不足のせいかも」と思ったところで、すぐに受診しようということにはならないものです。
人は、「よく眠れた~!」という充実感のあるものから、そこまでスッキリとはいかなくても日中の活動はそこそこ快適に過ごせるものまで、さまざまな眠りを経験していると思います。そして、社会人ともなると、多くの人がこの「そこそこ眠れて、日中の活動に支障がない」というレベルをイメージできると思います。これを及第点である60点としましょう。
ここでのポイントは、ベストな眠りを100点としないことです。そもそも人間の体も環境も常に変化していますので、毎日100点が変わるわけです。100点をとろうとすればするほど、緊張してしまいます。
「少し眠いけれど、がんばれば業務終了までは仕事がこなせている」という状態、すなわち、60点が維持できていれば、すぐに問題となることはないでしょう。
仕事の繁忙期に30~50点が一定期間続いた後でも、一般的によく言われるような規則正しい生活、適切な運動習慣、栄養バランスなどを心掛ければ、大抵の不調は改善するはずです。不規則な業務であるならば、平均して60~70点ぐらいを維持できるように「さまざまな工夫をすることが大事」ということです。
問題は、 「60点が維持できない、もしくは維持できなくなってきた」、つまり日常生活に支障が出る、本人が対処できないほど社会生活に不適応状態がみられた場合です。「がんばれば業務終了まで仕事がこなせる」というレベルに及ばないだけでなく、「大事な商談があるのに起きられず遅刻した」「重要な会議中に居眠りしてしまった」など、通常ではあり得ないような事態を繰り返してしまうというものです。
もはや本人の健康管理の怠慢の域を越えており、何らかの身体的疾患や、あるいは脳の疲労も含め精神的機能の低下なども考える必要があります。
Q:ストレスや身体的な異常によって睡眠時間がとれないことによる不調より、合理的判断ができないために結果的に睡眠時間がとれないケースの方が、より深刻ということでしょうか?
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睡眠時間がとれないことが「原因」である場合と「結果」である場合がありますが、深刻さという点において単純に比較はできません。
睡眠は言うまでもなく、身体機能や脳の機能に大きく作用する要素のひとつです。ある状況において睡眠が十分でない状態が続いたために、脳機能が低下した状態に陥ってしまい、行動がコントロールできなくなる、ということがあります。普段できていることができなくなる、という点ではつらく、時に深刻です。
一方、本人の意図するしないにかかわらず、適切な生活リズムの維持や行動のコントロールができないことで睡眠不足になることもあります。
大人なのに「ゲームをクリアするまでやめられない」「一度読みかけた小説や漫画は、深夜であろうと最後まで読んでしまう」といったことは、誰でも1度ならず経験があるはずです。ただ、そのことによって、翌日の心身の状態や行動においてパフォーマンスが低下することにとどまらず、「重大なリスクを負うということを何度も繰り返す」となると、これもまた深刻であり、睡眠以外の問題も考える必要が出てきます。
自分の行動をコントロールできない、注意力が欠乏している、順序立てて活動に取り組めないといった点において、幼少期に鑑別されるADHD(注意欠陥・多動性障害)のようにみえるかもしれませんが、だからと言って病気や障害と自己判断してしまうのはあまりに性急で、危険でもあります。
もともと行動をコントロールすることが苦手な人が、厳しい社会生活の中でその傾向が現れてしまった、というケースもありますが、少なくともそれまで学習や社会生活を営むことに大きな問題がなかった結果、社会人としてのいまがあるわけです。合理的な判断機能の低下があるとすれば、一時的か、もしくは顕在化してきたものか、きちんと評価する必要があります。
何も対策を講じることなく、自然に事態が良くなるというものではありませんし、誤った判断をしてしまうと、社会生活が営みづらいだけでなく、人間関係も崩れかねないことになってしまいます。
Q:職場で、合理的な判断能力の低下から遅刻やミスを繰り返してしまう人に対して、周囲はどのような声掛けをして、改善を促すべきでしょうか?
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度重なる遅刻やミスは、業務に支障が出るなど、本人のみならず上司や同じ職場のメンバーが困ることになります。
本人は仕事に対して不誠実なわけではなく、「遅刻もミスもしたくない」と思っているのに、できないことに苦しみます。自分でも不可解に思ってはいても、実際に相談や受診などの行動に移せる人は少ないでしょう。
何らかの変化や問題が、自身の体なり心なりに起こっているのは想像できても「誰に相談したものか」「病院の何科を受診すればいいのか」などがわからないという人が、ほとんどではないでしょうか。周りの人も注意をするたび、心から反省して落ち込む様子を見て戸惑うでしょうし、「もしかすると、精神的な問題では」と考えたとしても不思議ではありません。
このような場合は、まず身近な人から「何か困ったことはないか?」「こちらからは具合が悪そうに見えるが、疲れていないか?」など、「いつもと違う」様子について心配していることを伝えるような声掛けをすると良いでしょう。間違っても「様子がおかしい」「病気ではないのか、とにかく心療内科でも行ってみたら?」などと、決めつけるようなことはしないように注意しましょう。
会社に産業医や産業保健師がいれば相談できるでしょうし、任意の健康相談ができるような窓口(EAP:従業員支援プログラム)を設けている企業もあります。困っている状況や状態により、受診の必要があれば、受療行動についてアドバイスもしてくれるでしょう。
勤務先にそのような相談窓口がない場合は、働く人の「こころの耳健康相談」や各自治体の保健センターの相談窓口を利用するなど、とにかく自己判断や勝手な憶測を避けることが大切です。
本人でも身近な人でも、「いつもと違う」と感じ始めたタイミングで、こうした行動を起こすことが、より早く状況を改善することになります。
Q:仕事や生活に大きな影響を及ぼす睡眠コントロールについて、なるべく良い状態でいられるためにできるセルフケアの考え方は?
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人間は日中活動して、夜は休むのが自然であると考えますが、現代人には生活習慣や職業によって、その人それぞれにとっての快適な生活パターンというものもあります。
セルフケアの視点としては、人間としての機能を十分に果たすための睡眠の条件を知ることに加え、その人個人にとっての適正な睡眠の条件を知ることが大切です。
昼夜逆転や交代勤務、また繁忙期があり、通常業務との差が大きくなるなどの職業もあります。それでなくても、コロナ禍を経て画一的な勤務を見直す動きも出始めています。自らのコンディションを、そうした状況に合わせてコントロールすることが、今後一層求められるでしょう。
アスリートのセルフケアをイメージするとわかりやすいかもしれません。
たとえば、相撲の力士と長距離ランナーとでは、睡眠に限らず、栄養バランスや鍛える筋肉、生活習慣など、あらゆる点で異なります。人間の健康維持について基本的な考え方は同じでも、目指すパフォーマンスが全く違うからです。
現代人の中には、朝から活動することが苦痛で、夕方から頭がさえてくるという人がいるようです。それでも、一般的な時間軸によらなければできないような職業や生活が必要で、それを選んだのであれば、アスリートのように体の方を、どうにかしてそれに合わせていかなければなりません。
しかし、必ずしもそうではないなら、自分の体や精神面が整いやすく、快適に過ごすことができる方向に思い切ってシフトし、その傾向に合わせた職業や生活パターンを選択することも一つの方法かもしれません。何を優先し選択するのかは自分次第です。
自分らしく生きるためにどうありたいのか、自分の人生にとって何が大切なのかを自らに問うことが、セルフケアの第一歩となるのではないでしょうか。
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