「ありがとうハザード」「お先にどうぞパッシング」などのカーコミュニケーション。教習所で教わらない運転マナーとは?
運転中、車線変更で前に入れてもらった時に「ありがとう」の意味でハザードランプを点滅させるドライバーは少なくないはず。他にも、交差点で「お先にどうぞ」と進路を譲る意味のパッシング、人を降ろしたあとの「さようなら」の短いクラクション、少し前には「ブレーキランプ5回点滅ア・イ・シ・テ・ルのサイン」なんていうものも?ドライバーの意思表示の方法として、本来の機能の使い方とは別のサインが、日常的に使われています。
一方で、「前に入れてあげたのに、お礼のサインがない」と腹を立てたり、「前に入ったタクシーのハザードランプが道を譲った謝意のサインだと思ったら、停車して客を乗せるためだった」など、危険を招くケースもあるようです。あおり運転の厳罰化など、運転中のトラブルが社会問題にもなっている現代、カーコミュニケーションは、本当に快適なカーライフのために必要なマナーなのでしょうか。安全運転指導の講師である花月文武さんに聞きました。
ドライブサインは必要不可欠なマナーではないが、通行を円滑にするコミュニケーションのひとつ。ベテランドライバーほど初心に戻り、ひとつひとつのサインに心を乗せることを肝に銘じるべき
Q:「ありがとうハザード」「お先にどうぞパッシング」のほかに、走行中の車が周りに意思表示をするサインには、一般的にどのようなものがありますか?
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運転中、周りに意思表示をする方法として、ウインカー、ハザードランプ、クラクションなどがあります。あおり運転の厳罰化で減りはしましたが、以前は「早く行け」の意味で、パッシングや追い越し車線で前の車に右ウインカーを出し続けるなどの行為もありました。自動車運転教習場などでは、ハザードランプについて、高速道路などで前方が渋滞中の場合の「緊急停車」の際には、必ず使うように指導しています。
日中、一般道で路肩に停止する場合、「寄せる側のウインカーの点滅で合図をし、停止したら速やかにウインカーを消す」というのが本来の手順で、ハザードランプは必ずしも義務ではありませんが、停止前からハザードランプをつけるドライバーが多く見られます。駐車場でスペースを見つけた時の「ここに停めます」のサイン、駐車するときのバック前、バック中のハザードランプも日常的に見られます。
交差点で進路を譲る時のパッシングのほかに、最近は少なくなったようですが、「この先で取り締まり中」や「事故渋滞中」などを知らせる対向車からのパッシング、「前を走る車の給油口が開いている」「窓やトランク、タイヤに異常がある」などのトラブルを発見した後続車からのパッシングもあります。また、夜間のすれ違いで進路を譲る時にヘッドライトを消す、ということもよく見られる行為です。
これらの行為について、交通相談の窓口などでは「ありがとうの意味でハザードランプを使っても違反にはならず、取り締まりも行っていない。運行を円滑にする慣習のひとつ」として、黙認しているケースが多いようです。
Q:ドライブ中のサインは、円滑な走行の助けにもなるようですが、意味の取り違えなど、認識の違いによるトラブルや、安全運転に支障をきたすということはありませんか?
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自動車事故やトラブルに関しての情報を見ると、ドライバー同士の意思の疎通ができなかったために事故につながるケースは、残念ながら少なくありません。
日常的な行為となっている「ありがとうハザード」を、必要不可欠なルールのように思っているドライバーの中には、サインを出さないことに対して怒りを覚えるという人もいて、実際にトラブルのきっかけとなった事例もあるようです。
運転初心者やペーパードライバーなど、不慣れな人にとっては、たとえそうしたサインに遭遇しても意味がわからないことが多いですし、そもそもサインに気付かないということもあります。交差点で進路を譲ってもらったことに気付かず、相手がしびれを切らして発進してしまうことも。
多くの車が行き交う交差点では、さまざまな情報から瞬時の判断が求められるので、サインの見逃しや間違った解釈で決断が遅れると、それだけ危険が増すことになります。
逆に、サインを出すことにばかり気を取られていると、初心者が渋滞中の車線変更で「ありがとうハザード」を出そうとして操作に手間取り、追突のリスクを招くというようなこともあります。
Q:一時話題になった長野県の「松本ルール」、愛知県の「名古屋走り」などのように、地域によって慣習に違いがあるようです。ドライブサインにも地域性があるのでしょうか?
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「黄色まだまだ、赤勝負」で知られる「名古屋走り」。車線またぎ、黄色で交差点進入、右折フェイント、右折早曲がり、右折中追い越しなどが話題になりました。右折時に信号が青になる直前にいち早く発進して右折したり、赤信号に切り替わっても、先行車に続いて右折したりすることは、「松本走り」や「山梨走り」「伊予の早曲がり」と、各地で取り上げられています。
いずれも、交通路の狭さや交通量など、さまざまな事情から慣習となっているようです。
ドライブサインについては、ほぼ全国的に共通しているようですが、細かく見ていくと、サインの出し方にちょっとした傾向があるかもしれません。いずれにせよ、不慣れな土地の道路を走行するときは、まわりの車の走行の仕方も少し注意して見た方がいいでしょう。
Q:安全運転を心掛けていて、マナーにも気を配っているようで、実は周りに迷惑な運転をしているケースがあります。あおり運転を誘発する危険もある行為とはどのようなものですか?
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ペーパードライバー教習でよく見られるのが、不適切なブレーキの使い方。30m以上前方で道路を横切ろうとする歩行者に気付いたときに、その時点で急ブレーキを踏んでしまう人がいます。後続車がある場合、交差点ではないところでの突然のブレーキは追突の危険があります。頻繁で無意味なブレーキは、後続車を不安にさせたりイライラさせたりします。
同じく初心者に多いのが、慎重なあまりの低速走行。一般道でも流れに乗らない走行は渋滞を招きがちですが、高速道路での追い越し車線での低速走行は、迷惑運転と取られる場合もあります。そのうえ、最低速度違反や、距離によっては別の法令違反の可能性も出てきます。
ほかに、明らかに優先側であるのに譲り続ける行為や、進路変更の意思をウインカーで示しても、譲ってもらっていることに気づけないことなども。
夜間のライトに関しては、無意味なフォグランプやハイビームのほか、傾斜のある交差点でハイビームでもないのに結果的に対向車の目元を直撃する角度になってしまうなど、ドライバー自身が気付かないまま、迷惑行為となっていることは意外に多いものです。
Q:歩行者やドライバー自身を守るため、安全運転を心掛けるうえで、ドライブサインを含めて気をつけるべきことは?
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教習所では、たとえ実車教習でも、技術的なことに加えて合図・確認などの意識付けを徹底するよう指導することで精いっぱいです。夜間の高速道路教習もありません。ハイビームやクラクションについても、通常の使用方法以外のことについてはほとんど言及しません。
日常生活の中では、ドライバー自身がさまざまな状況下で、そのときどきの情報を取り入れながら経験値を積んでいくしかありません。一方、経験値を積んでいるはずのドライバーにも落とし穴があります。
たとえば信号がない横断歩道に歩行者がいる場合は、車は停車する義務があります。よく起こる歩行者との接触事故の際に、多くのドライバーが「横断歩道や歩行者に気付かなかった」と言いますが、横断歩道の手前の道路上には、必ずひし形の予告マークがあります。意識している人は多くないようですが、ベテランドライバーなら知っていなければならないはずの情報が、意外に抜け落ちていることがあります。
また、運転歴が長かったり、運転に自信がある人ほど、初心者マークの車にむやみにイライラしたり、「ありがとう」のサインがないことに腹を立てたりということが多いようです。しかも残念なことに、ベテランドライバーへ、私たち指導員がアドバイスする機会はほとんどありません。
確かに「ありがとうハザード」や「お先にどうぞパッシング」などのサインが自然に出せることも、快適なドライビングには有効かもしれませんが、それよりも、そこに気持ちを乗せることが大切ではないでしょうか。
たとえば、渋滞中やむを得ず合流する場合は、窓を開けて手を上げる、顔が見えるくらいの速度でのすれ違いで譲ってもらった時には会釈をするなど「人と人とのマナー」と考えれば、他にもできることはたくさんあります。全てのドライバーが初心者の頃の気持ちを忘れずに、不安気なドライバーにも余裕を持って接することができれば、事故やトラブルがもっと少なくなるでしょう。
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