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テイクアウト・デリバリーに生き残りをかける飲食店。持ち帰り商戦の今後は?

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外出自粛中に、休業や時短営業を強いられていた飲食店がテイクアウトやデリバリー商戦に参入。緊急事態宣言の解除を受け、都市部のレストランや居酒屋などが通常営業に戻りつつある中で、「新たな生活様式」に対応したビジネスモデルとして模索中です。2019年の消費税増税の際、テイクアウトやデリバリーは軽減税率が適用されるということで、一部の飲食店が実施していましたが、このたびのコロナ問題により「生き残りをかけて」という店も多く見受けられました。

街ではたくさんのウーバーイーツの配達員が行き交うなど、人々もその手軽さ、便利さを実感しはじめているようです。経済活動が再開するなど社会が動き始めていますが、こうした新しい営業形態は今後も私たちの生活に定着するのでしょうか。経営コンサルタントの三上康一さんに聞きました。

「コロナのせいでやらざるを得なくなった」のではなく、「コロナが新しい展開を広げるチャンスとなった」と捉えるべき

Q:店内飲食のみだった店が、テイクアウトやデリバリーでメニューを提供する場合、特別な許可などは必要ないのですか?
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飲食店営業許可があれば、店内で提供するものと同じメニューを調理済みの状態でテイクアウト販売することができます。また、ハムやベーコンを使う場合などには「食肉製品製造業」、パンやケーキ類は「菓子製造業」と、それぞれ細かく販売許可が必要とされています。

場合によっては、新たに許可を得る必要があるので、事前に管轄の保健所に問い合わせたほうがよいでしょう。酒類に関しては、本来持ち帰りはできないとされていましたが、例えば「洋食店のテイクアウトメニューに合うワインを提供する」などの場合、コロナ禍での特例として、6カ月の期限付きで一部規制が緩和されることになりました。さらに、許可されるまでの時間も大幅に短縮されています。

Q:テイクアウトを始めるにあたって、食品衛生上の許可などの他に何が必要ですか?
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それまで店内で提供していたメニューと、全く同じものをテイクアウトする場合であっても店内のオペレーションが増えます。例えば、店内では作りたての料理をすぐに提供できますが、テイクアウトの場合「①作ってすぐに冷ます」「②パック詰めする」「③パックに消費期限を明記する」「④アレルギー表示をする」といった工程のほか、さまざまな手間が余分にかかることになります。

さらに必要なものとして、利用者への広報・宣伝による告知が挙げられます。

外出自粛期間中にも、「店舗の利用が減ったためにテイクアウトを始めたが、店頭の張り紙程度では告知ができず、結局販売をやめてしまった」というケースが目立ちました。店舗のホームページやSNSを活用できれば有効ですが、宣伝のために新たに開設しようとすると、それなりのコストが掛かるため、二の足を踏むということも少なくないようです。

Q:人の往来が徐々に戻って、外食することに抵抗がなくなってくると、手間や経費をかけてまでテイクアウトを展開することは無駄にはなりませんか?
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テイクアウトという新しい業態を、「コロナのせいでやらざるを得なくなった」ではなく、「コロナが新しい展開を広げるチャンスとなった」と捉えるべきだと思います。そもそも、テイクアウトなら消費税率は軽減税率の8%です。2019年の消費税増税を機に持ち帰りメニューを始めたという飲食店も多かったのですから、利用者もそのメリットを再確認したでしょう。

持ち帰った料理をそのまま食べたり、あるいは家で温めなおしておいしく食べたりしたとして 、「できたてなら、もっとおいしいはず」と感じたとしたら、どうでしょうか。「次はお店でアツアツを食べてみたい」と思ったとしても不思議はありません。

よく使われる方法ですが、シェフの顔写真入りのショップカードやひと言メッセージ、ポイントカードなどを持ち帰りの料理に添えるひと手間が、お店に利用者を呼び込む布石になるはずです。

Q:国が、事業の継続を助けるための給付金や、さまざまな支援制度を設けていますが、テイクアウトを始めるにあたって利用できるものはありますか?
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大規模店舗やチェーン店と違い、新しいビジネスモデルを取り入れる際に係る経費は、厳しい経営を続けている小規模店舗には最大の問題と言えるでしょう。

国の支援制度の中で、テイクアウト事業展開のために使えるものが「小規模事業者持続化補助金」です。小規模飲食店の経営者の中には、この補助金制度は知っていても、何に使えるかを詳しくは知らないということがあるようです。

小規模事業者などが行う「販路開拓の取り組み」などを支援する制度で、経営計画を作成して申請します。補助率は、補助対象経費の原則2/3以内、上限額は原則50万円。その他にもコロナ特別対応型や事業再開枠などがあります。

対象になる経費の使い道は、「① 機械装置等費」「②広報費」「③展示会等出展費」「④旅費」「⑤開発費」「⑥資料購入費」「⑦雑役務費」「⑧借料」「⑨専門家謝金」「⑩専門家旅費」「⑪設備処分費(補助対象経費総額の1/2が上限)」「⑫委託費」「⑬外注費」
となっています。

前述の、ホームページ開設やショップカード作成などは「②広報費」として対象となります。

Q:テイクアウトは今後も私たちの生活に定着するのでしょうか
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コロナ禍によって痛手を受けながら、新しい取り組みによって廃業の危機を乗り越えてきたのですから、テイクアウトが定着するか否かではなく、これからの生活に欠かせないものにしていくチャレンジと捉えるべきでしょう。解釈のしかた一つで、ピンチもビジネスチャンスとすることができるのです。

これから気温や湿度が高くなる季節には、テイクアウトに向かない商品のメニューを変えていくなど工夫が必要ですが、ちょうど人々の移動制限も解除され、「そろそろお気に入りのお店に行ってみようかな」と考えはじめるタイミングでもあります。

その時に、前述のポイントカードやショップカードなどが手元にあれば「そういえば、このお店…」となるでしょう。

Q:今後、店舗営業を本格的に再開していくところが増えてくると思われますが、イートインとテイクアウトを続けていくために必要な人材の確保が難しいのでは?
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コロナ禍による飲食店の休業や短縮営業で、お店に従業員としての籍を残しながら、生活のために別の仕事に就かざるを得なかった人が多いかもしれません。それでも、なんとか辛抱して再び復帰してくれた従業員には、経営者は最大限の敬意を示すべきです。

「最大限の敬意」とは、なにも時給を上げるとかいうことではありません。従業員満足を向上させることが重要です。特にしっかりとした経営理念を設ける、または見直して、その店舗が営業し続けることの意義を考え直すことは、働く人の意欲や満足度を高めることになります。

自分が勤めているお店が、その地域にとってなくてはならない存在価値を持っているとしたら、それは働くモチベーションになりますし、誇りにもなります。

例えば、「地域の人をおいしい料理で笑顔にしたい」という理念があれば、利用者からさまざまな要求があったり、予期せぬ困難に見舞われたりしたとしても、とるべき行動の判断基準になります。

経営者の経営理念がしっかりと従業員に浸透しているかどうかという点に、良い人材を確保できるかどうかがかかっていると言えるでしょう。

ロードサイド店舗の儲かる仕組みを構築する専門コンサルタント

三上康一さん(株式会社ロードサイド経営研究所)

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