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芸能人等の移籍制限や芸名の使用禁止は「優越的地位の濫用」で法律違反になる?

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芸能界でも話題になる移籍制限の問題は、芸能人だけでなく一般人にも関係あり

公正取引委員会の有識者会議は、芸能人やスポーツ選手などのフリーランスの人について不当な移籍制限を課すことが独占禁止法違反にあたる可能性があるということを近く示す方針というニュースがありました。

公取委は、芸能人などが所属事務所を辞めた場合に他事務所と新たに契約を結べないといったこと等について、独禁法で規制されている「優越的地位の濫用」等にあたるかどうかを検討しています。

移籍制限の問題は、芸能人やスポーツ選手だけではなく、個人事業主として企業と契約して働く一般の人にとっても関係します。

今のところ公取委は特定の問題について取り上げて公表しているわけではないようです。
ただ、今回の公取委の報道を見て、現在は「のん」の芸名で活動している俳優の「能年玲奈」さんのことを思い起こした人も少なくないでしょう。

所属していた事務所からの移籍制限や事務所の退所後は本名の「能年玲奈」として活動できないのではということが報道されていたと思います。なお、その事務所側は、能年さんと契約終了していないということを主張しているようです。

のんさんの件は当事者双方で主張はおありでしょうから論評は難しいです。ただ、個人的には、公取委が「優越的地位の濫用」についての公表を契機にでも、のんさんの件がスッキリして活躍の場が増えることを期待したいです。

「優越的地位の濫用」にあたると法律上のペナルティがありえる

「優越的地位の濫用」は、自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用して、正常な商慣習に照らして不当に、取引の相手方に不利益な条件を設定する等の行為をいいます(独禁法2条9項5号)。

芸能人に限らず、フリーランスで働く人の移籍制限は、フリーランスよりも優越した地位にある取引先企業や所属事務所等による「優越的地位の濫用」にあたる可能性があり、そのことを公取委が示すことになるでしょう。

「優越的地位の濫用」は、「不公正な取引方法」とされる行為の一つです。 独禁法では、「不公正な取引方法」を用いることが禁止されています(独禁法19条)。

「不公正な取引方法」を用いた事業者については、公取委からそのような行為を排除するよう「排除措置命令」が出されたり(独禁法20条)、課徴金が課される可能性があります(独禁法20条の6)。そして、排除措置命令に従わなかった場合には、刑事罰があります(独禁法90条)。

また、「不公正な取引方法」によって利益を侵害された者や、侵害のおそれのある者は、著しい損害またはそのおそれのある場合には、利益を侵害する事業者等に対して当該行為の差止や予防を請求することができます(独禁法24条)。そして、「不公正な取引方法」に該当する行為をして損害を与えた者は、被害者に対する損害賠償責任を問われます(独禁法25条、民法709条)。

公取委が独禁法違反の可能性を示すことが社会に示唆するもの

公取委がフリーランスの移籍制限について独禁法違反の可能性を示すということは、公取委が移籍制限の案件を独禁法違反の疑いのある事案として取り上げていくという社会へのメッセージでしょう。

つまり、芸能人やスポーツ選手に限らず、特定企業と契約して働いている個人事業主(たとえばIT関連や通訳など)が契約終了後に他の企業と仕事をすることを制約するような契約を結ばされている場合などは、公取委が独禁法の問題として取り上げていくことなりそうです。

また、フリーランスに仕事を発注している企業は、後で独禁法違反の問題にもならないように、弁護士に相談して契約の内容を見直しておく等の対処が必要でしょう。

芸名の使用制限の問題、「本名」の活動制限は公序良俗違反の可能性がある

「移籍制限」についての公取委の動きは、芸能界に特定したものではなく、フリーランスの働き方一般についての問題だと思います。そうであっても、関心事としては、芸名の使用について言及があるのか、公取委の公表を待ちたいです。

公取委の方針が示されなくても、芸能事務所から退所した後に特定の芸名の使用を制限する内容の契約をすることについては、「優越的地位の濫用」にあたる可能性はあります。

独禁法の問題の他に、芸名の使用の制限については問題があります。芸名の使用継続についての著名事件として、「加勢大周事件」(東京高裁平成5年6月30日判決)があります。この件は、専属契約が終了したかが争われて終了が高裁で認められたため、事務所側が敗訴しています。

芸能事務所との契約終了後には従来使用していた芸名の使用を認めないという契約が締結されていた場合は、契約の有効性が問題になるでしょう。有効性の判断は、事案ごとに判断することになります。独禁法違反に該当する場合であっても契約が必ずしも無効となるわけではありません。

ケースバイケースで、芸名を使用制限する契約が公序良俗違反で無効となるか、使用を制限することが権利濫用や信義則違反になる可能性があります。

「本名」で活動していた場合、「本名」は元の芸能事務所がビジネスのために発案・使用許諾したものではなく、芸能活動以前の人の固有の名称ですから、「本名」の使用制限は、「本名」とは異なる「芸名」の使用制限に比べて、公序良俗違反や権利濫用になる可能性が少なくないと思われます。

中小企業をとりまく法的問題解決のプロ

林朋寛さん(北海道コンテンツ法律事務所)

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