「空気を読む」「暗黙の了解」という語句は彼の辞書にはない!漫画『湯神くんには友達がいない』!
立教大現代心理学部映像身体学科卒業の赤崎正和さんが監督したドキュメンタリー「ちづる」。
自身の卒業制作として企画されたこの映画は、
“知的障害と自閉症をもった赤崎の妹・千鶴とその母を1年にわたり撮り続けた、みずみずしくも優しい家族の物語である”
とジャケットにも書かれていますが、その通り「千鶴さん」をテーマにしながらも、その家族の在り様を描いた作品でした。
「兄として」そして「障害者の家族として」
もちろん家族の中には、ちづるさんご本人とお兄さんである正和さんご本人も含まれています。
ですから、この作品を作り公開したということ自体、正和さん自身の「兄としての」生き方が表されているのです。
このことは自閉症だけでなく、他のさまざまな障害児のご家族にも言えることですが、障害とともに生きるご本人にどう関わるか、と同時に、障害児者の家族の一員として社会にどう関わっていくか、という課題は大変重いテーマでもあると思います。
一昔前であれば、古いお屋敷には座敷牢のようなところがあって、そこに障害児者を囲い社会から孤絶させていた時代もありました。今でももしかしたら同様な地域もあるかもしれません。
しかし障害と言うものが単に個人の能力や機能面の問題ではなく、それをサポートする社会的な環境の問題でもあると考えられている現代では、障害児者やそのご家族が、当たり前のこととして社会の中へ参入できる環境を整えるか、がテーマになってきています。
ただ、たとえ社会的なサポートがあったとしても、やはり「家族」であるという立場は周囲の人々とは異なる葛藤や不安に悩まされざるを得ないことは確かです。
理屈や理論で福祉を語ることと、ご自分の人生の問題としてご家族と葛藤していくこととは全く異なると思います。
そういうさまざまなことを感じさせ、考えさせてくれたドキュメンタリー作品でした。
「うんうん、わかるわかる」とうなずき合った友人との出会い
最後に、この映画の監督でもあり、「ちづるさん」の鬼でもある赤崎正和さんが紹介してくれているエピソードを書き記します。
大学のサークル仲間と卒業祝いの飲み会をしたあと、帰りの電車の中で楽しい話をしていた友人が急に黙り込んでしまったのです。
“急に彼女は黙り込んでしまったのです。
そして思い切って自分の兄も自閉症であることを打ち明けてくれました。
誰にも兄のことは話さないでこのまま卒業しようと思っていたけど、「ちづる」を観て、僕にはどうしても話しておきたかった、と目を潤ませながら言ってくれました。
それからお互いのきょうだいのことを「うんうん、わかるわかる」とうなずき合いながら楽しく話すことができました。
別れ際に彼女は、こうして人に話すことができたから、他の友だちのみんなにも少しずつ話してみようと思う、と笑顔で爽やかに言いました。
僕はそれを聞いて涙が出そうなくらい嬉しくなりました。”