204【最高裁判例】「1年では家賃改定できない」は本当?家賃改定訴訟で分かったこと 35年前の最高裁判例

220【家賃改定】敗訴しました。家賃5,500円の裁判 54,500円→60,000円を求めた結果
■ 2026年9月3日 判決
まずは、
判決です。
福岡簡易裁判所
令和8年(ハ)第100258号
賃料増額請求事件
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
以上が、
2026年9月3日に言い渡された判決です。
僕が求めていたのは、
家賃54,500円
↓
60,000円。
差額は、
月額5,500円です。
結果は、
全部棄却。
負けました。
実は僕、
完全に勝つつもりで判決を聞きに行っていました(笑)。
当日は、
知人など傍聴人も7名。
家賃5,500円の裁判に、
傍聴人7名です(笑)。
もちろん、
裁判ですから、
100%勝てるとは思っていません。
でも、
それまでに提出した資料や、
双方の主張、
裁判でのやり取りを考えると、
少なくとも、
何らかの増額は認められるだろう。
そう考えていました。
ところが、
「原告の請求を棄却する。」
全部棄却です。
正直、
意外すぎました。
腹が立った。
というより、
最初は、しばらく茫然としていました。
「え?」
「なんで?」
という感じです。
そのあと、
だんだん腹が立ってきました。
「不当判決」
と書いたプラカードでも掲げたい気分です(笑)。
裁判官に、
「ちょっと待って。それは違うでしょう」
と言いたい気持ちにもなりました。
もちろん、
実際にそんなことはしません。
判決が気に入らないからといって、
裁判官に怒鳴っても、
何も変わりません。
裁判には、
次の手続きがあります。
控訴です。
ただし、
その前に確認しなければならないことがあります。
なぜ、負けたのか。
判決理由です。
■ ここまでの経緯を簡単に
物件は、
福岡市博多区博多駅前4丁目にある区分マンションです。
賃借人は、
不動産会社L社。
もともとの家賃は、
48,000円でした。
周辺相場との乖離が大きくなっていたため、
2025年、
僕は70,000円への改定を求めました。
最終的には調停になり、
48,000円
↓
54,500円
で合意。
この調停で僕が学んだのが、
「新規賃料」と「継続賃料」は違う
ということです。
新しく募集する家賃と、
すでに契約が続いている家賃は、
同じようには考えられません。
だったら、
一気に市場賃料まで上げるのではなく、
段階的に補正していけばいい。
そう考えて、
今回求めたのが、
54,500円
↓
60,000円。
差額5,500円。
約10%です。
僕が調べていた周辺相場は、
それよりかなり高い。
それでも、
今回は60,000円だけを求めました。
しかし、
L社とは合意できず、
調停も不成立。
そこで、
賃料増額請求訴訟になりました。
■ 問題になった「前回からの期間」
裁判で大きな論点になったのが、
前回の家賃改定からの期間です。
2025年に、
48,000円から54,500円へ改定した。
それなのに、
約1年で、
また家賃を上げるのか。
これは、
僕自身も気になっていました。
裁判の途中では、
不動産鑑定士からも、
前回の合意から約1年しか経過していない、
契約期間は2年、
1年ごとに値上げするような話はあまり聞かない、
という趣旨の意見が出ました。
相手は、
不動産鑑定士です。
さすがに、
僕も少し気になります。
「やっぱり1年程度では、
次の家賃改定は難しいのか?」
でも、
専門家が言ったから正しい。
僕は、
そういう考え方はしません。
そこで調べました。
すると、
結審後になって、
重要な最高裁判例を見つけました。
■ 35年前の最高裁判例を見つけた
最高裁判所第二小法廷
平成3年11月29日判決。
この判決では、
賃料増額請求について、
現行賃料が定められてから、
一定期間が経過していること自体は、
請求の要件ではない、
という考え方が示されています。
もちろん、
「期間なんて関係ない」
という意味ではありません。
期間は、
現在の賃料が不相当になったかどうかを判断する、
一つの事情です。
でも、
少なくとも、
「前回の改定から1年程度しか経っていないからダメ」
と単純に決まる話ではありません。
これを見つけたのは、
結審した後。
正直、
「これ、裁判中に見つけたかったな(笑)」
と思いました。
では、
今回の裁判官は、
前回改定からの期間を、
実際にどう評価したのか。
判決理由を読むのが、
かなり楽しみになっていました。
■ そして、55歳の誕生日に判決文が届いた
判決言渡しは、
2026年9月3日。
それから9日後。
2026年9月12日。
判決文が届きました。
この日は、
僕の55歳の誕生日です(笑)。
55歳の誕生日プレゼントが、
「原告の請求を棄却する。」
なかなか粋なプレゼントです。
せっかくなので、
じっくり読ませてもらいました(笑)。
僕が知りたかったのは、
単に、
「60,000円が認められなかった」
という結果ではありません。
なぜ認められなかったのか。
ここです。
僕が特に確認したかったのは、
現在の相場をどう評価したのか。
前回改定からの期間をどう評価したのか。
双方が提出した相場資料をどう評価したのか。
そして、
判決文を読んでみました。
■ 「1年程で5,500円も増額となる理由が明らかではない」
判決には、
こう書かれていました。
「直近合意時点である前回調停成立時から1年程で、経済事情の変動状況等によって原告賃料から5500円も増額となる理由が明らかになってはいない」
なるほど。
今回の判決は、
双方の相場資料を比較したうえで、
「54,500円が適正な家賃である」
と認定したわけではありません。
また、
「現在の市場相場から考えて、
60,000円は高すぎる」
と判断したわけでもありません。
僕が提出した募集事例については、
新規賃料の事例であり、
継続賃料である本件の増額理由として、
そのまま用いるには十分ではない、
という趣旨の判断です。
そして、
大きく問題にされたのが、
「直近合意から約1年で、
5,500円増額となる理由が明らかではない」
という点でした。
ここで、
僕は引っかかりました。
なぜなら、
僕は、
前回の調停後、
約1年間で市場家賃が5,500円上昇したから、
5,500円上げてください、
と主張していたわけではないからです。
僕の主張は、
前回54,500円で合意した時点でも、
すでに市場との乖離は残っていた。
その差を、
一気に解消するのではなく、
少しずつ補正する。
今回の5,500円は、
その一部だ、
というものです。
つまり、
1年間で5,500円も上げようとしたのではありません。
僕の考えでは、
「残っている乖離のうち、
5,500円しか是正を求めなかった。」
ここに、
判決と僕の主張の、
大きなズレを感じました。
■ 54,500円は、どうやって決まったのか
そこで、
2025年の調停に戻ります。
僕は当初、
70,000円への増額を求めました。
そして、
調停で54,500円に合意しました。
この54,500円は、
不動産鑑定士が、
「この物件の適正な継続賃料は54,500円です」
と鑑定した金額ではありません。
70,000円を求めた僕と、
増額を拒否していたL社が、
調停で譲歩して決めた金額です。
もちろん、
54,500円は、
双方が合意した直近の家賃です。
そこは、
僕も争っていません。
実際、
直近合意賃料を出発点として考える、
という最高裁判例もあります。
問題は、
その「出発点」の意味です。
直近合意賃料を出発点にすることと、
54,500円が、
その時点の客観的な適正賃料だったものとして扱うことは、
同じなのだろうか。
さらに、
その金額が決まる前から存在していた、
市場との乖離は、
どうなるのだろう。
僕には、
ここが疑問として残りました。
■ 調停証書をもう一度読んでみる
さらに、
判決文を読みながら、
2025年の調停証書も、
もう一度確認しました。
調停証書第1項では、
家賃を54,500円に変更しています。
今回の判決では、
この54,500円という直近合意賃料が、
非常に重く扱われています。
でも、
同じ調停証書には、
第4項があります。
そこには、
「第1項以外の本件建物に関する賃貸借契約については、平成27年11月4日付建物賃貸借契約に基づくことを相互に確認する。」
と書かれています。
つまり、
家賃は54,500円に変更する。
それ以外については、
従来の賃貸借契約を維持する。
そう確認しています。
では、
その原契約には、
何が書いてあるのか。
賃料を改定する条項があります。
しかも、
調停証書には、
「今後1年間は増額しない」
とは書いてありません。
「次の改定は2年後」
とも書いてありません。
「54,500円を一定期間固定する」
とも書いてありません。
調停証書第1項を重視する。
それは分かります。
でも、
第4項も同じ調停証書です。
ここも、
僕には引っかかりました。
■ そのうえ「スライド条項を作ればよかった」?
さらに、
判決には、
こんな趣旨の記載があります。
段階的に賃料増額を意図していたのであれば、
前回の調停時に、
**自動改定条項や、
増加賃料に係るスライド条項を設けることも検討し得た。**
これも、
僕にはよく分かりませんでした。
なぜなら、
原契約には、
すでに賃料改定に関する条項があります。
そして、
その原契約を維持することを、
調停証書第4項で確認しています。
さらに、
今回僕が求めているのは、
自動改定条項や、
スライド条項に基づく増額ではありません。
**借地借家法32条に基づく、
賃料増額請求です。**
だったら、
前回の調停で、
新たに自動改定条項やスライド条項を作らなかったことが、
なぜ今回の増額請求を考えるうえで、
消極的な事情になるのだろう。
原契約には賃料改定条項がある。
**その原契約を維持すると、
調停証書でも確認している。**
そのうえで、
新しいスライド条項を作らなかったことが問題になる。
僕には、
やはり疑問が残りました。
■ 判決後、さらに調べてみた
55歳の誕生日。
せっかく、
こんなプレゼントをもらったので、
さらに調べました(笑)。
国土交通省には、
継続賃料の鑑定評価について検討した資料があります。
そこでは、
継続賃料を考える際に、
直近合意時点からの事情だけを見るのではなく、
契約の内容、
契約締結の経緯、
契約上の経過期間、
これまでの賃料改定の経緯、
近隣地域の賃料など、
複数の事情を考慮する考え方が示されています。
つまり、
前回の改定から、
どれだけ時間が経過したのか。
これも重要です。
でも、
それだけではない。
なぜ、
現在の家賃になったのか。
契約には、
何が書かれているのか。
これまで、
どのように家賃を改定してきたのか。
近隣の賃料は、
どうなっているのか。
そうした事情も含めて、
総合的に考える。
僕は、
そう理解しました。
■ では、調停では譲歩しない方がいいのか?
そして、
今回の判決を読んで、
実務的に一番気になったのが、
ここです。
僕は2025年、
70,000円への増額を求めました。
でも、
調停で譲歩して、
54,500円で合意しました。
もし、
一度54,500円で合意すると、
それ以前から存在していた市場との乖離が、
事実上リセットされ、
次の増額では、
「54,500円に合意してから、
市場がいくら上がったのか」
が強く問われるのであれば、
大家としては、
少し妙な結論になります。
調停で譲歩しない方がいい。
70,000円を求めたなら、
最後まで70,000円を求めた方が合理的です。
途中で54,500円に譲歩すると、
その譲歩が、
次の改定を難しくする理由になる。
でも、
それでは、
調停でお互いに譲歩して、
紛争を解決する意味が薄くなってしまいます。
さらに、
市場との乖離が大きいとき、
一気に相場まで上げるのではなく、
入居者にも配慮して、
少しずつ是正する。
その方が、
穏当な方法のはずです。
ところが、
段階的にしたことによって、
次の段階の改定が難しくなる。
だったら、
最初から一気に相場まで求めた方がいい。
本当にそれでいいのだろうか?
今回の判決で、
僕が一番考えたのは、
ここです。
■ だから、控訴します
9月3日。
完全に勝つつもりで、
判決を聞きに行きました。
傍聴人7名。
結果は、
請求棄却。
意外すぎて、
しばらく茫然。
そのあと、
腹が立つ(笑)。
そして、
9月12日。
55歳の誕生日に、
判決文が届きました。
判決文を読んで、
調停証書を読み直す。
原契約を確認する。
最高裁判例を確認する。
国土交通省の資料も調べる。
その結果、
僕の結論は決まりました。
控訴します。
僕は、
54,500円を、
直近合意賃料として扱うな、
と言っているわけではありません。
54,500円を、
判断の出発点とする。
そこは理解しています。
でも、
**出発点にすることと、
それ以前の契約内容、
合意に至った経緯、
これまでの賃料改定、
市場との乖離まで、
切り離して考えることは同じではない。**
僕は、
そう考えています。
さらに、
調停証書第4項では、
原契約を維持することを、
双方で確認しています。
その原契約には、
賃料改定条項があります。
不増額の合意もありません。
平成3年の最高裁判例では、
一定期間の経過自体を、
賃料増額請求の要件とはしていません。
それでも、
今回の判決の考え方が正しいのか。
それとも、
僕の考え方に無理があるのか。
僕が決める話ではありません。
だったら、
次の裁判所に、
もう一度判断してもらえばいい。
福岡地方裁判所に控訴します。
■ ところが、この部屋には別の問題が……
本来なら、
今回60,000円が認められたとしても、
周辺相場との乖離が残っていれば、
今後も相場を確認しながら、
段階的な家賃改定を続けるつもりでした。
ところが、
もう、
この部屋について、
次の家賃改定はありません。
なぜなら、
家賃増額裁判の途中で、
まったく別の問題が発覚したからです。
**この部屋が、
僕に無断で、
マンスリーマンションとして転用されていました。**
僕がL社と結んでいたのは、
住居として使用することを前提とした賃貸借契約です。
僕は、
54,500円を60,000円にするために、
5,500円の裁判をしていた。
その一方で、
借りている不動産会社は、
この部屋をマンスリー物件として運用していた。
「えっ?」
ですよね(笑)。
僕も同じです。
もう、
60,000円、
66,000円、
その次、
という話ではなくなりました。
現在求めているのは、
明渡しと損害賠償です。
請求額は、
600万円。
福岡地方裁判所で、
別の裁判になっています。
■ 5,500円の裁判から、600万円の裁判へ
振り返ると、
なかなかすごい流れです。
最初の家賃は、
48,000円。
2025年、
70,000円への改定を求める。
調停で、
54,500円。
継続賃料について学習して、
今回は段階的是正として、
60,000円を求める。
差額5,500円。
裁判になり、
前回改定からの期間が問題になる。
不動産鑑定士からも、
期間について意見が出る。
結審後、
35年前の最高裁判例を発見。
2026年9月3日。
傍聴人7名。
完全に勝つつもりで、
判決を聞きに行く。
請求棄却。
茫然。
腹が立つ(笑)。
9月12日。
55歳の誕生日に、
判決文到着。
読んで、
調べて、
さらに疑問が出てくる。
控訴。
そして、
同じ部屋では、
マンスリー転用が発覚。
家賃改定、
終了。
次は、
明渡し+損害賠償600万円。
家賃5,500円の裁判をしていたはずなのに、
ずいぶん話が大きくなりました(笑)。
■ 負けたら終わり、ではありません
今回の一審は、
僕の敗訴です。
完全に勝つつもりだったので、
判決を聞いた直後は、
本当に腹が立ちました。
でも、
怒鳴っても、
プラカードを掲げても、
判決は変わりません(笑)。
判決理由を読む。
契約書を確認する。
調停証書を確認する。
判例を調べる。
それでも、
納得できないのであれば、
次の手続きに進む。
それだけです。
裁判所の判断だから、
必ず正しい。
僕は、
そういう考え方はしません。
逆に、
自分の考えが、
必ず正しいとも思っていません。
だから、
もう一度、
裁判所に判断してもらいます。
一審の裁判所が正しいのか。
僕の主張に理由があるのか。
次は、
福岡地方裁判所です。
さて。
家賃5,500円をめぐる裁判。
一審は、僕の完敗です。
でも、
まだ終わっていません。
そして、
同じ部屋をめぐる、
もう一つの裁判も続いています。
次は、
5,500円ではなく、
600万円。
マンスリー転用事件へ続きます。
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