【刑事事件】交際相手に借金を背負わされた、詐欺として被害届を出せる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際相手に頼まれて消費者金融から借り、そのお金を渡したのに返してもらえない。気づいたら自分の名義で借金がされていた。別れた後に返済だけが残り、「これは詐欺ではないか」「警察に被害届を出せるのか」と考える方は少なくありません。

 結論からいえば、被害届を出せる場面はあります。ただ、交際相手との金銭のやり取りは「貸した・借りた」という民事の話と区別がつきにくく、警察でも詐欺として扱うかどうかの判断は慎重になりがちです。この記事では、借金を背負わされた経緯ごとに、詐欺として扱われるための条件、被害届を出す前に整えておきたい資料、刑事と民事を並行して考える必要がある理由を整理します。

この記事は、2026年11月時点の法令にもとづいて書いています。刑罰の表記は、2025年6月施行の改正刑法による「拘禁刑」で統一しています。


「借金を背負わされた」には大きく3つの形がある

 同じ「借金を背負わされた」でも、誰の名義で、誰との間で契約が結ばれたかによって、問題になる罪も、被害者として扱われる人も変わります。まずはご自身の状況がどれに近いかを確かめてみてください。

経緯契約の名義主に問題になること被害者として扱われやすい人
頼まれて自分で借り、相手に渡した自分相手に対する詐欺罪ご自身
自分の名義を無断で使われて借りられた自分(無断)貸主に対する詐欺罪、私文書偽造・同行使罪など貸主(名義人は別途の手続で対応)
保証人・連帯保証人になるよう頼まれた自分(保証契約)相手に対する詐欺罪、保証契約の効力ご自身


 自分の名義を勝手に使われた場合は、詐欺の直接の相手は貸主になるため、警察で「被害者は貸金業者のほうです」と説明されることがあります。この場合の返済義務や貸主への伝え方は、【男女トラブル】交際相手に勝手に自分名義で借金をされていた|返済義務と、貸主・相手それぞれへの対応で詳しく解説しています。以下では主に、頼まれて自分で借りたお金を渡した場面を中心に見ていきます。

詐欺罪になるかを分けるのは「渡した時点で、相手が何を考えていたか」

 詐欺罪(刑法246条1項)は、人をだましてお金などを交付させたときに成立し、法定刑は10年以下の拘禁刑です。交際相手との間で問題になるのは、相手がお金を受け取ったその時点で、返すつもりや返せる見込みがないのにあるように装っていたか、使い道などについて嘘をついていたか、という点です。

 反対に、借りた時点では本当に返すつもりがあり、その後の失業や体調の変化で返せなくなった場合は、約束どおり返さないという民事上の問題(債務不履行)にとどまるのが原則です。この境目については借りた金を返せないと詐欺になるのか|借入時の欺罔の有無もあわせてご覧ください。

 相手の内心は外から見えないため、実際には次のような客観的な事情から判断されることになります。

  • お金を求めた理由(家族の治療費、事業資金、示談金など)が作り話だった。
  • 受け取った時点で、相手に多額の借金があり、返せる見込みがなかった。
  • 説明していた使い道とは別のこと(遊興費や別の交際相手への支出など)に使っていた。
  • 独身・職業・収入など、お金を渡す判断に関わる事柄を偽っていた。
  • ほかの人にも同じような話をしてお金を集めていた。
  • お金を受け取った直後から連絡が取れなくなった。


 これらのうち一つでもあれば詐欺になる、というものではありません。逆に、相手が「本気で交際していた」「返すつもりだった」と述べても、それだけで詐欺が否定されるわけでもありません。いくつかの事情を積み重ねて、受け取った時点での相手の認識を推し量っていくことになります。病気や不幸の話を信じてお金を渡していた場合の考え方は、【男女トラブル】病気や不幸の話を信じてお金を渡していた|嘘だと分かった後でも取り上げています。

警察で「民事の問題」と言われやすい理由

 交際相手とのお金のやり取りは、そもそも貸したのか、あげたのかがはっきりしないことが多く、相手から「もらったお金だ」「返すつもりはある」と言われると、詐欺かどうかの見極めが難しくなります。そのため、警察に相談しても「まずは当事者間で話し合ってください」と案内され、被害届の受理まで進まないことがあります。

 犯罪捜査規範61条は、犯罪による被害の届出があったときは受理しなければならないと定めています。ただ、届け出た内容が犯罪にあたるかどうかが判断できない段階では、相談として扱われることもあるのが実情です。受理につなげるためには、「お金を返してくれない」という結果だけでなく、渡した時点で相手がどんな嘘をついていたのかを資料で示せるかが重要になります。断られた後の進め方は、被害届を受理してもらえない|断られたときにできることをご参照ください。

被害届を出す前に揃えておきたい資料

 詐欺の相談で求められるのは、「何を言われて」「いくらを」「どのように渡したか」と「その説明が事実ではなかったこと」の2つの側面です。手元にあるものを次のように仕分けておくと、警察でも弁護士でも話が進みやすくなります。

確かめたいこと資料の例
相手がどう説明してお金を求めたかLINE・メール・DMのやり取り、通話の録音
自分が借り入れをした事実と時期ローン契約書、貸金業者からの利用明細、返済予定表
相手にお金を渡した事実振込明細、通帳の記録、送金アプリの履歴、手渡しの際のメモ
返済の約束があったこと借用書、「必ず返す」といったメッセージ
説明が事実でなかったこと相手の家族や勤務先に関する資料、使い道が分かる投稿や写真


 あわせて、知り合った時期から現在までの出来事を、日付順に1枚の時系列メモにまとめておくことをおすすめします。メッセージは相手に削除されると見られなくなることがあるため、スクリーンショットは日付と相手の名前が入る形で残しておくと安心です。

被害届と告訴、どちらを選ぶか

 被害届は、被害に遭った事実を警察に申告するものです。これに対して告訴は、犯罪の事実を申告したうえで、相手の処罰を求める意思を示す手続です。告訴が受理されると、警察は関係書類を速やかに検察官に送付しなければならないとされています(刑事訴訟法242条)。

 詐欺罪は親告罪ではないため、告訴がなくても捜査は可能です。それでも、相手の処罰を強く求めたい場合や、被害届が相談の段階で止まっている場合には、告訴状を整えて提出することを検討する余地があります。告訴状の書き方は告訴状はどう書くのか|受理されやすい書き方と添付資料で解説しています。

 なお、詐欺罪の公訴時効は7年です。また、家族の間の財産犯については刑を免除するなどの特例がありますが、これは配偶者や同居の親族などを対象とするもので、交際相手には及ばないと考えられています。

刑事手続ではお金は戻らない|返済の問題は民事で並行して考える

 被害届を出しても、それだけで渡したお金が戻ってくるわけではなく、自分名義の借金の返済義務がなくなるわけでもありません。貸金業者との契約はご自身が結んだものだからです。刑事手続とは別に、民事の手続で次のような手段を検討することになります。

  • 貸したお金として、返還を求める。
  • だまされて渡したことを理由に、贈与などの意思表示を取り消して返還を求める(民法96条1項)。
  • 詐欺という不法行為として、損害賠償を求める(民法709条)。


 相手が刑事責任を問われる見通しになると、相手の側から弁償を申し出て示談の話になることもあります。ただし、示談に応じるかどうか、どのような条件で応じるかは被害者が決めることで、急いで決める必要はありません。

 請求には期限があることにも注意が必要です。不法行為にもとづく損害賠償は、損害と相手を知った時から3年(行為の時から20年)で時効にかかります。貸したお金の返還請求は、原則として請求できると知った時から5年です。

 保証人になった場合は、少し事情が異なります。相手にだまされて保証契約を結んだとしても、その契約の相手方は貸主です。貸主が相手の嘘を知っていたか、知ることができた場合でなければ、詐欺を理由に保証契約を取り消すことはできません(民法96条2項)。保証人として支払ったお金を相手に求めていく考え方は、交際相手の借金を肩代わり・連帯保証したとき|返済義務の有無と、払ったお金の取り戻し方にまとめています。

 ご自身の返済が苦しい場合は、相手への請求とは切り離して、返済条件の見直しや債務整理を検討することも大切です。

相手に直接問い詰める前に気をつけたいこと

 怒りや不安から、相手に強く返済を迫りたくなる気持ちは自然なものです。ただ、伝え方によっては、こちらが責任を問われるおそれがあります。

  • 「払わなければ被害届を出す」と告げて、本来の金額を超える支払いを求めること。
  • 相手の勤務先や実家に押しかけて、返済を迫ること。
  • SNSや共通の知人に、相手の名前を出して「詐欺師だ」と広めること。


 被害届を出すこと自体は正当な権利ですが、それを交渉材料にする場面では注意が必要です。線引きについては「被害届を出す」と言われた|正当な権利の告知と脅迫の境界で解説しています。また、相手から生活費やお金の管理を握られている状態が続いている場合は、【男女トラブル】交際相手から経済的に支配されている|お金の管理から抜け出すもご参照ください。

よくあるご質問


借用書がなくても、被害届や返還請求はできますか

 借用書がないことだけで、被害届や請求ができなくなるわけではありません。振込記録や、お金を求めるメッセージ、「返す」と約束したやり取りなどを組み合わせて、お金を渡した経緯を示していくことになります。詳しくは恋人・元恋人に貸したお金が返ってこない|借用書なしでも回収できる?をご覧ください。

相手が少しずつ返済している場合は、詐欺にならないのですか

 一部でも返済していることは、最初から返すつもりがなかったとはいえない事情として扱われやすくなります。ただ、返済が新たにお金を引き出すための見せかけだったと評価できる場合もあり、一部の返済があることだけで詐欺が否定されるとは限りません。

被害届を出したら、別れた後に相手から報復されないか心配です

 相手からつきまといや脅しがある場合は、金銭の問題とは別に、身の安全を守るための相談として警察に伝えることが大切です。弁護士が代理人になれば、相手とのやり取りを弁護士に一本化することもできます。

弁護士に相談すると何ができるか

 弁護士にご相談いただくと、借金を背負わされた経緯が詐欺として扱われる見込みがあるかを資料にもとづいて整理し、被害届や告訴状の準備、警察への同行について助言することができます。並行して、相手への返還請求や示談の交渉を代理人として行い、相手の住所が分からない場合には、電話番号や振込先の口座をもとに弁護士会照会で手がかりを探すこともあります。

 交際相手との金銭トラブルは、刑事と民事のどちらから手をつけるかで、その後の進み方が変わります。お金を渡した時期や相手の説明が記録に残っているうちに、一度状況を整理してみることをおすすめします。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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