【刑事事件】元恋人に暴言の録音を流されたら、名誉毀損で訴えられる?

若井亮

若井亮

テーマ:刑事事件

交際していたころの口論で、感情的になって強い言葉をぶつけてしまった。別れた後、そのときの音声が元恋人に録音されていて、SNSや共通の友人に流されてしまった。こうしたご相談では、「自分にも非があるのだから、何も言えないのではないか」と迷われる方が少なくありません。録音を流す行為が名誉毀損などにあたるかどうかは、流した範囲や方法、目的、そして発言の中身によって分かれます。この記事では、刑事と民事の両面から、責任を問える場面と問いにくい場面の線を整理します。

本記事は、2026年11月時点の法令にもとづいて解説しています。2025年6月の刑法改正により懲役・禁錮は「拘禁刑」に一本化されており、刑罰の記載はこれに合わせています。


録音を流されたとき、分けて考えたい3つの行為

 元恋人による録音の拡散が問題になる場面では、次の3つを切り分けると整理しやすくなります。

  • 相手が会話を録音したこと。
  • 相手が録音を第三者に聞かせたり、ネットに投稿したりしたこと。
  • 録音に残っている自分の発言の中身。


 このうち、名誉毀損の問題になるのは主に2つ目の「流したこと」です。一方で、3つ目の発言の中身は、相手の責任の重さや、こちらが逆に責任を問われる可能性に関わってきます。

会話を録音したこと自体は、違法とされにくい

 会話の当事者の一方が、相手の承諾を得ずに録音する、いわゆる秘密録音は、それだけで違法とされることは多くありません。第三者が他人の会話をこっそり聞き取る盗聴とは区別され、トラブルの記録として録音しておくこと自体は、一般に許される行為と考えられています。民事の裁判でも、無断で録音したことだけを理由に、証拠としての価値が否定されることは少ないのが実情です。
 そのため、「勝手に録音されたこと」を問題にするよりも、「録音をどこに、どのように流したか」に目を向けるほうが、取れる手段を考えるうえで現実的です。

録音を流す行為が名誉毀損にあたるかどうかの線

 刑法230条1項の名誉毀損罪は、公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立します。法定刑は3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金です。録音の拡散にあてはめると、次の点が分かれ目になります。

「公然と」といえるか

 公然とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態をいいます。公開されたSNSアカウントへの投稿や、誰でも閲覧できる動画サイトへのアップロードは、これにあたりやすい行為です。
 共通の友人数人にLINEで送っただけの場合でも、受け取った人からさらに広まる可能性があれば、公然性が認められることがあります。反対に、特定の1人にだけ聞かせ、その人から広がる見込みも乏しい場合には、刑事上の名誉毀損は成立しにくくなります。

「事実の摘示」と社会的評価の低下

 録音を流すことは、「この人がこういう言葉を口にした」という具体的な事実を示す行為と評価されやすいといえます。暴言を浴びせる人物であるという印象を周囲に与えれば、社会的評価を下げるものと判断されることがあります。氏名が伏せられていても、声や話の内容、投稿の文脈から本人だと分かる場合には、対象が特定されていると扱われる余地があります。

本当に言ったことでも成立しうる

 名誉毀損罪は、摘示した事実が本当かどうかを問わずに成立するとされています。「実際に言ったことを流しただけ」という反論は、それだけでは責任を否定する理由になりません。
 例外として、刑法230条の2は、公共の利害に関わる事実について、専ら公益を図る目的で摘示し、真実であることが証明されたときは罰しないと定めています。交際中の私的な口論は、通常は公共の利害に関わる事実とはいいにくく、この例外が認められる場面は限られると考えられます。ただし、録音された側が公職にある人物で、その言動を告発する目的で公表された場合などは、別の評価になることもあります。

名誉毀損のほかに考えられる法的な枠組み

 録音の拡散は、名誉毀損以外の観点からも問題になることがあります。主なものを表にまとめます。

枠組み問題になる場面手続の性質
名誉毀損(刑法230条)録音を公然と流し、社会的評価を下げた場合刑事(親告罪)・民事
侮辱(刑法231条)録音に「最低な人間」などの評価の言葉を添えて投稿した場合刑事(親告罪)・民事
プライバシー侵害交際中の私的な会話を、本人の意に反して公開した場合民事
ストーカー規制法恋愛感情やそれが満たされない恨みから、名誉を害する事項を知り得る状態に置いた場合警察による警告・禁止命令、刑事
脅迫・強要「流されたくなければお金を払え」などと迫られた場合刑事


 侮辱罪は2022年7月の改正で法定刑が引き上げられ、1年以下の拘禁刑もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料とされています。プライバシー侵害は刑事罰の対象ではありませんが、民事上の不法行為として、削除や損害賠償を求める根拠になります。公開された内容が真実であっても成立しうる点は、名誉毀損と共通しています。
 元恋人が復縁を求める気持ちや、別れへの恨みから録音を流している場合には、ストーカー規制法の「つきまとい等」にあたる余地もあります。警察に相談することで、警告などの対応につながる可能性があります。

自分の暴言が録音されているという事情はどう影響するか

 録音の中身が自分の暴言である以上、相手の拡散を問題にするときには、こちら側の事情も見ておく必要があります。

録音の中身がDVや脅迫の証拠になる可能性

 録音された発言の内容によっては、相手がデートDVの被害を受けていた証拠として扱われたり、「殺す」などの言葉が含まれていれば脅迫の問題として受け止められたりすることがあります。こちらが名誉毀損で告訴をすると、相手側も録音を警察に提出し、こちらの言動を申告するという流れになることも考えられます。
 なお、相手が録音を警察や弁護士、相談機関に提出することは、被害の申告や相談のための行為であり、名誉毀損の問題にはなりにくいと考えられます。問題になりうるのは、そうした機関を越えて、友人や職場、ネット上に広く流す行為です。

賠償の額や交渉の進み方への影響

 民事で損害賠償を求める場合、録音された発言に至った経緯や、こちらの言動の内容は、慰謝料の額を考えるうえで考慮されることがあります。「録音を流された」という被害だけでなく、自分の発言がどう評価されるかも含めて見通しを立てることが大切です。
 また、録音が一部だけ切り取られ、前後のやり取りを除くことで実際とは異なる印象を与えるように編集されている場合には、その点も名誉毀損の判断に影響しうる事情になります。元の録音や当時のやり取りの記録が手元にあれば、消さずに残しておくことをおすすめします。

刑事で動く場合と民事で動く場合

 名誉毀損を理由に相手の責任を問う方法には、刑事と民事の2つの道があり、並行して進めることもできます。

項目刑事(告訴)民事(請求・訴訟)
目的相手の処罰を求める削除・損害賠償・名誉回復の措置などを求める
手続警察・検察に告訴状を提出する弁護士からの通知による請求、交渉、訴訟
期間の制限犯人を知った日から6か月以内の告訴が必要損害と加害者を知った時から3年で時効
相手が分からない場合捜査によって特定される可能性がある発信者情報開示の手続で特定を図る


 名誉毀損罪と侮辱罪は親告罪のため、被害を受けた本人が告訴しなければ起訴されません。告訴期間は刑事訴訟法235条により、犯人を知った日から6か月とされています。元恋人が流したと分かっている場合には、この期間を意識して早めに動く必要があります。
 匿名のアカウントで投稿されている場合は、情報流通プラットフォーム対処法にもとづく発信者情報開示命令の申立てなどによって、投稿者の特定を図ることになります。接続の記録には保存期間の限りがあるため、時間が経つほど特定が難しくなるおそれがあります。
 実際には、告訴や訴訟まで進む前に、弁護士を通じて投稿の削除、録音データの消去と今後の不拡散、接触の禁止などを約束する合意書を交わして解決を図ることも少なくありません。

流されたと気づいた後に、まずしておきたいこと

 録音が広まっていると気づいたときは、動揺して、すぐに相手へ抗議したくなるかもしれません。ただ、順序を誤ると証拠が失われたり、こちらの立場が悪くなったりすることがあります。

  1. 投稿のURL、投稿日時、アカウント名が分かる画面を保存し、音声付きの投稿は画面録画で残します。
  2. 誰に、いつ、どのような方法で流されたのかを、分かる範囲で書き出します。
  3. 相手に直接抗議したり、反撃の投稿をしたりすることは控えます。
  4. プラットフォームへの削除の申出は、証拠を保存してから行います。
  5. 告訴期間や記録の保存期間を踏まえ、早めに弁護士へ相談します。


 特に気をつけたいのは、言い返すつもりで、相手の録音やLINEのやり取り、私生活の情報をネットに流してしまうことです。こちらの行為が名誉毀損やプライバシー侵害にあたり、立場が入れ替わってしまうおそれがあります。

よくあるご質問


共通の友人グループに送られただけでも、名誉毀損になりますか

 グループの人数や関係性、そこから広がる可能性によって判断が分かれます。数人のグループでも、さらに転送されることが想定される状況であれば、公然性が認められることがあります。刑事上の名誉毀損にあたらない場合でも、プライバシー侵害として民事上の責任を問える余地はあります。

相手から「本当に言ったことなのだから問題ない」と言われました

 名誉毀損は、摘示した事実が真実でも成立しうるとされています。私的な交際の中での発言であれば、公共の利害に関わる事実として正当化される場面は限られると考えられます。ただし、相手がこちらの言動に苦しんでいたという事情は、交渉や賠償の場面で考慮される可能性があります。

相手が「被害を知ってもらうためだった」と言っています

 被害を警察や相談機関に伝えることと、不特定多数に向けて公開することは、法的には分けて評価されます。目的が被害の訴えにあったとしても、公開の範囲や方法がその目的に照らして相当だったかどうかが問われることになります。一方で、こちらの言動がDVと評価されうる内容であれば、その点への向き合い方もあわせて考える必要があります。

録音データそのものを消してもらうことはできますか

 ネット上の投稿については、プラットフォームへの削除の申出や、裁判所の仮処分による削除の手続があります。相手の手元にある録音データについては、交渉の中で消去と不拡散を約束してもらい、その内容を合意書に残す方法が考えられます。

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当事務所にご相談いただく場合

 元恋人に録音を流されたときは、相手の拡散行為の評価と、録音に残った自分の発言の評価を、両方そろえて見通しを立てることが欠かせません。当事務所では、刑事と民事のどちらで動くか、削除と特定をどの順序で進めるかを含めて、状況に応じた進め方をご一緒に検討します。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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