被害者(嬢)が示談を拒否している|それでも不起訴を目指す方法
風俗店やキャストとのトラブルで金銭を請求され、「払う気持ちはあるが、その金額は今すぐには用意できない」という相談は珍しくありません。数十万円から、事案によっては百万円を超える金額を、期限を切って求められることもあります。
一括で払えないからといって、それだけで直ちに違法になったり、逮捕されたりするわけではありません。示談金は罰金や科料のような刑罰ではなく、当事者の話し合いによって決まるお金だからです。
ただし、資金がないことを理由に何もせず時間だけが過ぎると、刑事・民事の両面で不利な方向に進みやすくなります。この記事では、示談金を一括で用意できない場合に取り得る選択肢と、弁護活動としてどう進めるかを整理します。
「用意できない」と考える前に確認したい2つのこと
資金繰りの話に入る前に、前提の確認が抜けていることがあります。
1|誰に払う話なのか
風俗トラブルでは、請求元が「店(運営会社)」の場合と「キャスト・セラピスト本人」の場合があり、両者は法的にはまったく別のものです。
店から求められる「違約金」は、店との契約上の請求です。一方、刑事事件として問題になり得る行為の被害者は本人であり、店に支払っても、本人との間の清算が当然に成立するわけではありません。店に全額を渡した後で、あらためて本人から被害届が出されたり、賠償を求められたりする可能性は残ります。
限られた資金をどこに配分するかは、ここを整理してからでないと決められません。
2|その金額は「請求額」であって「支払義務の額」ではない
提示された金額は、あくまで相手方の主張です。事実関係に争いがないか、金額が事案に照らして相当か(民法90条)、署名や支払いの場面で強く迫られていなかったか(民法96条)といった点によって、支払うべき額は変わり得ます。
「用意できない額」だと感じたときは、金額そのものが検討対象になることを先に確認してください。
一括で払えないこと自体は違法ではない。ただし放置は最も不利
示談金は国に納める刑罰ではないため、支払えないことだけを理由に新たな罪が成立するものではありません。
一方で、実務上重く見られるのは「払えない」と「払わない」の違いです。支払う意思があり、事情を説明したうえで現実的な提案をしている状態と、連絡を絶って放置している状態とでは、相手方の受け止め方も、その後の手続の進み方も変わってきます。
連絡が途絶えれば、相手方としては民事訴訟や、判決後の給与・預貯金への強制執行を検討することになります。刑事事件になっている場合には、被害回復が図られていないものとして扱われ、不起訴や処分の軽減が得にくくなる方向に働きます。
もっとも、示談が成立しなかったからといって、必ず起訴される、必ず重い処分になると決まっているわけでもありません。
手元資金が足りないときの5つの選択肢
弁護活動としては、次の順に検討していくのが一般的です。下にいくほど、刑事処分に対する評価としては弱くなる傾向があります。
① 金額そのものを見直す(減額交渉)
前述のとおり、請求額と支払義務の額は同じではありません。事実関係の争点、行為の態様、同種事案の水準などを踏まえて、支払い可能な水準まで金額を調整できないかを検討します。減額が当然に認められるわけではありませんが、「払えないから分割で」と申し出る前に検討すべき順序です。
② 頭金+短期分割
全額は無理でも、まとまった額を先に支払い、残りを短期間で完済する形です。分割の中では相手方の不安が小さく、合意に至りやすい類型といえます。
③ 分割払い
毎月一定額を支払う合意です。相手方の同意が前提であり、こちらの都合だけで分割にすることはできません。合意なく勝手に分割にした場合は、単なる不履行として扱われます。
④ 示談ではなく「被害弁償」、受け取ってもらえない場合は供託
相手方が許すという意思表示(宥恕)まではしないものの、賠償金は受け取るという場合があります。この「被害弁償」も、被害回復がなされた事実として考慮の対象になります。
受領そのものを拒まれている場合には、法務局に金銭を預ける弁済供託(民法494条)という方法があります。ただし、供託には相手方の氏名・住所が必要で、金額に争いがあると使いにくい面もあります。相手方の意思に反して支払う手続である以上、処罰感情を刺激するおそれも否定できず、選択は慎重に行う必要があります。
分割払いを申し入れるときに押さえたい5点
相手方にとって分割払いは「途中で止まるのではないか」という不安を伴う提案です。その不安をどれだけ具体的に埋められるかが、合意できるかどうかを分けます。
- 頭金を用意する……一部でも即座に支払えると、提案の現実味が変わります。
- 期間はできるだけ短く……長期になるほど、履行の見込みが低く評価されやすくなります。
- 不履行時の取り決めを入れる……支払いが滞った場合に残額を一括請求できる条項(期限の利益喪失条項)や遅延損害金の定めは、相手方の安心材料になります。
- 担保を検討する……連帯保証人を立てる、強制執行認諾文言付きの公正証書を作成するなどの方法があります。これらは相手方に有利な条件ですが、合意を成立させるための材料になり得ます。
- 無理な条件を提示しない……途中で止まれば、示談条件違反として民事責任を問われ、刑事面でも心証を損なうおそれがあります。
なお、刑事事件では、分割払いによる示談は一括払いに比べて処分への効果が限定的になりやすいとされています。捜査機関や裁判所は、実際に被害回復が実現される確実性を重視するためです。定職があること、支払期間が短いこと、保証人や担保があることは、その見込みを補強する事情になります。
風俗トラブルで見落とされがちな「分割払いのコスト」
一般的な刑事事件の解説では、ほとんど触れられていない点があります。分割払いは、支払いが終わるまで相手方との関係が続くということです。
分割にすれば、氏名・住所・連絡先といった情報は、完済までの間、相手方の手元に残り続けます。支払いが1回でも遅れたときに、家族や勤務先への連絡をほのめかされる、当初の合意になかった追加請求を受ける、といった事態が起きる余地も残ります。
こうした告知の示唆や追加請求が、態様によっては脅迫罪(刑法222条)や恐喝罪(同249条)の問題になり得ますが、そこに至る前に予防しておくに越したことはありません。
そのため、分割で合意する場合には、支払条件だけでなく
- 清算条項(これ以上の請求をしない)
- 秘密保持条項(第三者に口外しない)
- 接触制限に関する条項
をあわせて書面に入れておくことが重要になります。
また、総額を下げてでも一括で完結させたほうが、結果的に安全な場合もあります。分割が唯一の正解というわけではなく、「関係を早く切ること」の価値も含めて比較検討すべき場面です。
避けたい資金の作り方
- その場でATMに同行して支払う/カードで即日決済する……争う余地があった金額でも、任意に支払った後で取り戻すのは容易ではありません。
- 高金利の借入で一括払いする……利息負担が分割の条件を上回ることがあります。借入で払う場合も、金額の妥当性を確認してからです。
- 勤務先の金銭に手をつける……業務上横領など、別個の犯罪になります。
- 「自己破産すれば消える」と考える……破産をしても支払義務が残る債権(非免責債権)があります。悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権(破産法253条1項2号)、故意または重大な過失により人の生命・身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権(同3号)がこれにあたり、事案によっては該当し得ます。免責の可否は個別判断であり、あてにして支払いを止める判断は危険です。
示談が成立しなかった場合に起こり得ること
刑事面では、不起訴や処分の軽減が得にくくなる方向に働きます。民事面では、訴訟や強制執行に発展する可能性があります。
見落とされやすいのが、罰金が科された場合の負担です。罰金は一括納付が原則で、示談金のような分割の制度は設けられていません。やむを得ない事情がある場合に、検察庁の徴収担当者との相談で一部納付や納付猶予が認められる運用(法務省の徴収事務規程16条)はありますが、当然に認められるものではありません。
納付されない場合、財産への強制執行が行われ、それでも完納できないときは労役場留置となります(刑法18条1項。1日以上2年以下の範囲で、1日あたりの換算額は5,000円とされることが多いとされています)。
つまり、示談金を用意できない状態を放置しても、支払いの問題が消えるわけではなく、別の形で戻ってくることがあるということです。
弁護士費用が用意できない場合
「示談金も弁護士費用も出せない」という状態も、現実には少なくありません。
公的な援助制度には限界があります。国選弁護は勾留されている被疑者・被告人が対象であり、日弁連の刑事被疑者弁護援助制度も身体を拘束されている被疑者を対象としています。警察沙汰にはなっているが在宅で捜査が進んでいる、あるいはまだ民事の請求段階という場合は、いずれも原則として対象外です。法テラスの民事法律扶助には資力要件があり、対象になるかは事案によります。
現実的には、次の点を最初の相談で確認しておくとよいでしょう。
- 相談料の有無と、着手金・報酬金の内訳
- 弁護士費用の分割払いに対応しているか
- 示談金と弁護士費用のどちらをどの程度優先すべきか
弁護士費用をかけた結果、金額の妥当性を検証できて総額が下がることもあれば、費用倒れになることもあります。この比較自体を、相談の場で率直に確認して構いません。
まとめ|資金がない段階でも、打てる手はある
- 一括で払えないこと自体は違法でも、逮捕理由でもありません
- ただし、連絡を絶って放置することが最も不利になりやすい選択です
- 金額の見直し → 頭金+短期分割 → 分割 → 被害弁償・供託 という順で検討します
- 分割は相手方の同意が前提で、刑事処分への効果は一括に比べて限定的になりやすい傾向があります
- 風俗トラブルでは、分割は「相手方と関係が続く」というコストを伴います。清算条項・秘密保持条項をあわせて設計してください
- 借入・破産といった資金面の選択肢にも、それぞれ限界があります
支払能力の問題は、隠すよりも、具体的な数字とともに開示したうえで現実的な提案をするほうが、交渉としては前に進みます。何をどこまで開示するか、どの順序で提案するかは、事案によって変わります。判断に迷う段階でご相談いただければ、選択肢が残っているうちに整理できます。


