【ストーカートラブル】ストーカー被害で警察に相談するとき、加害者の情報が少なくても大丈夫?
本記事は、2026年11月時点のストーカー行為等の規制等に関する法律(2025年12月30日施行の改正を反映)、東京都の公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(迷惑防止条例)などをもとに書いています。個別の事情によって取れる手段は変わりますので、具体的な判断は専門家にご確認ください。
毎朝の通勤電車で、いつも同じ人が近くに乗ってくる。車両を変えても、いつの間にか近くに立っている気がする。名前も知らない相手なのに、視線を感じて落ち着かない。こうした不安を抱えながらも、「気のせいかもしれない」「同じ時間の電車に乗っているだけかもしれない」と考えて、誰にも話せずにいる方は少なくありません。
通勤電車では、同じ時刻・同じ車両に同じ顔ぶれがそろうこと自体は珍しくないため、近くに乗ってくるという一点だけで、ストーカーかどうかを判断するのは難しいのが実情です。一方で、こちらが行動を変えても重なりが続く、降りる駅までついてくるといった事情が加われば、警察や弁護士に相談してよい状況と考えられます。この記事では、通勤電車で近くに乗ってくる人について、どのような事情があれば相談の対象になり得るのか、相談に向けて何を残しておけばよいのかを整理します。
「いつも近くにいる」だけでは判断しにくい理由
通勤や通学の時間帯は、多くの人が毎日ほぼ同じ時刻の電車に乗り、乗換えや出口に近い車両を選んでいます。そのため、決まった時間に決まった位置に立つ人と、毎日のように顔を合わせるのは自然なことでもあります。
ストーカー規制法や迷惑防止条例が問題にしているのは、相手がその場にいることではなく、特定の人に向けられた「つきまとい」や「待ち伏せ」などの行為です。ですから、相談に向けて考えたいのは「相手がいるかどうか」ではなく、「相手の動きがこちらに合わせたものになっているかどうか」という点です。
相談の対象になり得るかを分ける事情
偶然では説明しにくい重なり方
判断の手がかりになるのは、重なりが相手の生活の習慣では説明しにくい形になっているかどうかです。目安として、次のような違いが考えられます。
| 状況 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 同じ時刻の電車で、ときどき近くに立っている | 通勤の習慣が重なっているだけのことも多い |
| こちらが乗る時刻を変えた後も、同じ電車に乗ってくる | こちらに合わせている可能性を考える材料になる |
| 車両を移ると、後から同じ車両に移ってくる | つきまといとして相談してよい事情になり得る |
| こちらが降りる駅で一緒に降り、同じ方向に歩いてくる | 後をついてきているとして相談してよい事情になり得る |
| 話しかけてくる、手紙や連絡先を渡そうとする | 面会や交際の要求として扱われることがある |
一つの出来事だけで結論を出す必要はありません。複数の出来事を日付とともに並べたとき、こちらの行動に合わせて相手が動いているように見えるかどうかが、相談の際の大切な材料になります。
ストーカー規制法が対象とする行為と目的
ストーカー規制法は、恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で、特定の人に対してつきまといや待ち伏せ、見張り、行動を監視していると思わせる事項を告げることなどを行う場合を規制しています(ストーカー規制法2条1項)。規制の対象となる場所には住居や勤務先だけでなく、その人が現に所在する場所も含まれるため、電車の車内や駅も対象から外れるわけではありません。
これらの行為が不安を覚えさせるような方法で行われれば、警察による警告や公安委員会による禁止命令の対象となり、反復して行われた場合はストーカー行為罪(1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金。同法18条)として扱われることがあります。
見知らぬ相手の場合、好意を持っているのかどうかは、こちらからは分かりません。もっとも、交際していた相手でなくても、一方的に好意を寄せた結果としてつきまといが始まるケースはあります。目的の有無は、相手の言動や経過を踏まえて警察が判断するものですので、相談する側が相手の気持ちを確かめておく必要はありません。つきまとい等とストーカー行為の関係については、連絡は1回だけだった|つきまとい等とストーカー行為の違いで整理しています。
好意によるものか分からないときの迷惑防止条例
動機が好意ではなく、ねたみや恨みといった悪意の感情にある場合は、ストーカー規制法の対象から外れることがあります。東京都の迷惑防止条例は、こうした悪意の感情に基づき、正当な理由なく特定の人に不安を覚えさせるような方法でつきまとい等をすることを禁止しています(迷惑防止条例5条の2)。
また、身体に触れられた、スマートフォンのカメラを向けられたといった事情があれば、つきまといとは別に、迷惑防止条例の卑わいな言動の禁止(同条例5条)や、不同意わいせつ罪、性的姿態等撮影罪などが問題になり得ます。どの法令で扱われるかは相談を受けた警察が判断しますので、「どの法律に当たるのか分からない」という段階でも、相談をためらう必要はありません。
車内や駅で気になったときの動き方
近くに乗ってくる人が気になったときは、その場でのやり取りを避けつつ、自分の安全を確保することを優先します。次のような順序が考えられます。
- 相手と視線を合わせたり、問いただしたりせず、距離を取ります。
- 混雑の少ない車両や、乗務員室に近い車両に移ります。
- 降りる駅までついてくる様子があれば、改札を出る前に駅係員に声をかけます。
- 声をかけられる、腕をつかまれるなど身の危険を感じたときは、周囲に助けを求め、110番通報します。
- 落ち着いてから、日時・駅名・車両・相手の様子をメモに残します。
翌日以降は、出発の時刻や乗る車両、使う改札を少しずつ変えてみることも考えられます。行動を変えた後も重なりが続くかどうかは、偶然かどうかを見分ける手がかりにもなります。なお、相手がすでに分かっている人で、同じ駅や路線を使い続けざるを得ない場合の工夫は、【ストーカートラブル】加害者と同じ駅や路線を使わざるを得ないとき、何ができる?で詳しく扱っています。駅から自宅までの帰り道にも不安がある方は、【ストーカートラブル】夜道でつけられている気がする|警察に相談してよい段階かもご覧ください。
相談に向けて残しておきたい記録
電車の中での出来事は、時間が経つと記憶があいまいになりやすく、相手からも「同じ電車に乗っていただけ」と説明されやすい場面です。次のような点を、その日のうちに書き留めておくことが役に立ちます。
- 日付と時刻、乗った電車の路線・行き先・車両の位置。
- 乗った駅と降りた駅、相手がどこで乗りどこで降りたか。
- こちらが時刻や車両を変えた後も、相手が近くに来たかどうか。
- 相手の服装や持ち物、体格など、見分けるための特徴。
- 視線を向け続ける、スマートフォンを向けるなど、相手がしていたこと。
- その日に感じた不安や、通勤への影響。
交通系ICカードの利用履歴は、自分がその時刻にその駅を通ったことを裏付ける資料になります。駅の防犯カメラの映像は鉄道会社が管理しており、保存される期間は限られていることが一般的ですので、映像が手がかりになりそうな出来事があったときは、日時と場所を特定して早めに警察へ伝えておくとよいでしょう。記録の残し方の全体像は、証拠の残し方|あとで警察・弁護士に通用する記録とはでも説明しています。
相手の姿をスマートフォンで撮影しておきたいと考えることもあるかもしれません。ただ、車内で相手にカメラを向けると、相手を刺激してその場のトラブルにつながるおそれがありますし、撮った画像をSNSなどに載せれば、こちらがプライバシーの侵害や名誉毀損を問われるおそれもあります。無理に撮影する必要はなく、特徴をメモに残しておくことで足りる場合も多いと考えられます。
どこに相談できるか
電車や駅でのつきまといについては、いくつかの相談先があり、状況に応じて使い分けることができます。
| 相談先 | 相談しやすい場面 |
|---|---|
| 駅係員・乗務員 | その場で近づかれている、降りた駅までついてこられた |
| 鉄道警察隊 | 電車内や駅で、繰り返し不審な行動を受けている |
| 最寄りの警察署(生活安全課など) | 通勤経路だけでなく、自宅や勤務先の近くでも見かける |
| 警察相談専用電話(#9110) | 緊急ではないが、どこに相談すればよいか迷う |
| 弁護士 | 相手が分かっている、警察の対応と並行して止める手立てを考えたい |
警察に相談したときに考えられる対応
警察に相談すると、相談の記録が残るほか、防犯上の助言や、状況に応じた警戒などの対応を求めることができます。鉄道警察隊では、希望に応じて私服の警察官が電車に同乗し、様子を確認する取組みを行っている地域もあります。
ストーカー規制法にあたる行為が認められる場合は、相手への警告を求めることができ、2025年12月30日施行の改正により、警察が被害者の申出を待たずに職権で警告できる仕組みも設けられました(同法4条)。警告の後も行為が続けば、禁止命令に進むことがあります(同法5条)。相談しても警告が出ないときの考え方は、【ストーカートラブル】警察に相談したのに警告が出ない|次に取れる手段をご覧ください。
相手の名前や住所が分からない場合でも、相談はできます。決まった時間帯に同じ路線に現れる相手であれば、その手がかりをもとに警察が確認を進められることもあります。相手が分からない場合の進め方は、【ストーカートラブル】相手が誰か分からない|匿名のつきまといで相手をたどる方法と、たどれないときの守り方で整理しています。
弁護士に相談する意味
相手が元交際相手や職場の関係者など、すでに分かっている人であれば、弁護士が代理人として相手に通知を送り、接触をやめるよう求めることが考えられます。示談の場面では、接触禁止に加えて、通勤経路で近づかないことなどを具体的に取り決め、違約金を定めることもあり得ます。
相手が誰か分からない段階でも、記録の整理や警察への伝え方、勤務先への配慮の求め方などについて、どの順序で進めるかを一緒に考えることができます。警察と弁護士のどちらから相談するかの考え方は、【ストーカートラブル】警察と弁護士のどちらに先に相談するか|ストーカー被害での順序で説明しています。
避けておきたい行動
不安が続くと、自分で確かめたい、はっきりさせたいという気持ちが強くなることがあります。ただ、次のような行動は、かえって状況を難しくするおそれがあります。
- 車内やホームで相手に詰め寄り、理由を問いただすこと。
- 相手の後をつけて、降りる駅や勤務先を確かめようとすること。
- 相手の顔写真や特徴をSNSに投稿し、注意を呼びかけること。
- 共通の知人がいる場合に、相手の通勤時間や予定を聞き出そうとすること。
相手が本当に偶然同じ電車に乗っていただけだった場合はもちろん、つきまといをしている相手であっても、こちらから接触することで、関わりを続けるきっかけを与えてしまうことがあります。自分で確かめることよりも、記録を残して第三者に委ねることを優先するほうが安全です。相手の様子を確かめに行くことの問題点は、【ストーカートラブル】加害者の様子を確かめに行ったら、こちらが問題になる?で詳しく扱っています。
よくあるご質問
気のせいだったらと思うと、警察に相談しにくいです。
相談したからといって、すぐに相手に連絡がいったり、相手が処罰されたりするわけではありません。偶然かどうか判断がつかない段階でも、記録とあわせて相談しておけば、その後に出来事が重なったときに、それまでの経過として生かすことができます。
男性でも、電車でのつきまといを相談できますか。
ストーカー規制法や迷惑防止条例は、被害を受ける人の性別を限定していません。相手が同性の場合も同じです。男性の被害については、【ストーカートラブル】男性のストーカー被害|相談しにくさと使える手続もご覧ください。
近くに乗ってくる人から、手紙や連絡先を渡されました。
受け取った手紙やメモは、捨てずに保管しておくことをおすすめします。連絡先に返事をする必要はありません。受け取りを断った後も渡そうとしてくる、待ち伏せが続くといった場合は、面会や交際の要求、つきまといとして相談できる状況と考えられます(ストーカー規制法2条1項1号・3号)。
まとめ
- 通勤電車で同じ人が近くに乗ってくること自体は、それだけではストーカーと判断しにくい事情です。
- こちらが時刻や車両を変えても重なりが続く、降りる駅までついてくるといった事情があれば、相談してよい状況と考えられます。
- 好意によるものかどうか分からなくても、迷惑防止条例などで扱われることがあるため、法律の当てはめは警察や弁護士に任せて構いません。
- 日時・駅・車両・相手の様子を記録し、相手を問いただしたり、撮影して公開したりすることは控えます。
- 駅係員、鉄道警察隊、警察署、弁護士を、状況に応じて使い分けます。
通勤電車は毎日使うものだからこそ、不安を抱えたまま乗り続けることは大きな負担になります。偶然かどうかを一人で見極めようとするよりも、記録を残しながら早めに相談することで、通勤の不安を少しずつ減らしていくことができます。通勤経路そのものを変えたいときの会社とのやり取りについては、【ストーカートラブル】ストーカー被害で通勤経路を変えたい、会社に交通費の変更を頼める?もあわせてご覧ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


