【ストーカートラブル】弁護士名で警告書を送ると、相手を刺激しない?
道ですれ違う、駅のホームで近くに立っている、行きつけの店に先に座っている。一度なら偶然で済む出来事も、同じ相手と何度も重なると、落ち着いて過ごせなくなるものです。相手からは「たまたま近くにいただけ」と言われ、周りからも「考えすぎでは」と言われると、相談してよいのか迷ってしまう方も少なくありません。
本記事は、2026年11月時点のストーカー規制法・東京都迷惑防止条例の内容をもとに、一般的な考え方を解説するものです。実際の判断は、個別の事情によって異なります。
この記事では、偶然を装って何度も現れる相手について、どのような場合につきまといとして扱われうるのか、判断の材料になる事情、記録の残し方、相談の進め方を順に整理します。
「偶然」が重なったときに見えてくるもの
偶然を装う接触は、1回ごとに切り取ると説明がついてしまうことがあります。通勤経路が同じ、近所に住んでいる、同じ店をよく使っている、といった説明です。相手もそれを分かったうえで、言い逃れのしやすい形を選んでいる場合があります。
ただ、法的な判断は1回ごとの出来事だけで決まるものではありません。回数、時期、場所、その場でのふるまいを合わせて見ていくことになります。「偶然だと言われたから相談できない」ということにはなりません。
こんな場面が続いていませんか
- 帰りの電車で、いつも同じ車両に乗ってくる。
- 転職先の最寄り駅で、何度も見かけるようになった。
- 行きつけのカフェやジムに、自分が行く時間帯だけ現れる。
- 会うたびに「偶然だね」と話しかけてきて、次の予定を聞き出そうとする。
- 引っ越した後も、新しい住まいの近くで姿を見かける。
こうした出来事が続いて不安を感じているなら、つきまといに当たる可能性を検討する余地があります。
ストーカー規制法の「つきまとい等」に当たりうる行為
ストーカー規制法(ストーカー行為等の規制等に関する法律)は、規制の対象となる「つきまとい等」を2条1項の各号で類型ごとに定めています。偶然を装って現れる行為と関係が深いのは、1号に挙げられている行為です。
待ち伏せ・見張り・うろつき
1号には、つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがること、住居・勤務先・学校など通常いる場所の付近での見張り、押し掛け、みだりにうろつくことが並んでいます。令和3年の改正では、住居等の付近に加えて、相手が現に所在する場所の付近での見張りなども対象に加えられました。外出先や立ち寄り先に繰り返し現れる行為も、この枠組みの中で検討されることがあります。
偶然を装っているかどうかは、相手がどう説明するかではなく、その行動が待ち伏せや見張りの実態をもつかどうかで判断されます。「たまたま」と言われても、それだけで対象から外れるわけではありません。
恋愛感情などの目的があること
ストーカー規制法の対象となるのは、特定の人への恋愛感情その他の好意の感情、またはそれが満たされなかったことへの怨恨の感情を満たす目的で行われる行為です。元交際相手、告白を断った相手、一方的に好意を寄せてくる相手などの場合は、この目的が問題になりやすいといえます。目的は相手の内心の問題なので、それまでの経緯や、接触したときの言動から推し量ることになります。
繰り返されていることと、不安を覚えさせる方法
警察の警告や公安委員会の禁止命令は「つきまとい等」を対象にしますが、刑事罰の対象となる「ストーカー行為」は、同じ人に対してつきまとい等を反復することをいいます。また、待ち伏せや見張りなどの1号の行為は、身体の安全や住居等の平穏、名誉が害されたり、行動の自由が著しく害されたりする不安を覚えさせるような方法で行われることも求められます。
どの程度で「反復」といえるかについては、手紙の投函などがおよそ1か月余りの間に4回行われた事案で、反復性を認めた東京高等裁判所の判決(平成16年10月20日)があります。回数だけでなく、行為の内容も合わせて考慮されると説明されています。
「偶然」かどうかを分ける事情
相手が「偶然だ」と言う場合、その言い分がどこまで通るかは、客観的な事情を積み重ねて見ていくことになります。目安として、次のような事情が考えられます。
| 見る点 | 偶然と受け取られやすい事情 | 意図的と受け取られやすい事情 |
|---|---|---|
| 場所 | 相手の自宅や職場の近く、もともとの生活圏 | 相手の生活圏から外れた、こちらの立ち寄り先 |
| 時期 | 以前から同じ頃に見かけていた | 別れ話や告白を断った後から急に増えた |
| 時間帯 | ばらばらで、間隔もまちまち | こちらの予定や時間帯に合わせて現れる |
| こちらの変化への反応 | 経路や時間を変えると会わなくなる | 経路や時間を変えても、また同じように現れる |
| その場の言動 | 会釈程度で離れていく | 話しかけて予定を聞く、後をついてくる、近くで待っている |
| 情報の入手経路 | こちらの予定を知る手段が見当たらない | SNSの投稿や共通の知人から予定を知りうる |
これらは、一つの事情だけで結論が決まるものではありません。複数の事情が同じ方向を向いているかどうかが、判断の手がかりになります。
実際の刑事裁判でも、相手が路上で約3分間立ち止まっていた行為が「待ち伏せ」に当たるかが争われ、その点には合理的な疑いが残るとされた一方で、その後に声を掛けて後を追った行為については恋愛感情等を満たす目的が認められた例があります。同じ日の出来事でも、行為ごとに評価が分かれることがあるため、一つひとつの出来事を分けて記録しておくことが大切になります。
恋愛感情が見えない場合の受け皿
相手が近所の住人や職場の関係者で、好意によるものなのか、恨みや嫌がらせなのかが分からない場合もあります。ストーカー規制法の目的の要件に当てはまらなくても、ほかの手段が残ることがあります。
東京都の迷惑防止条例
東京都の迷惑防止条例(公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例)は、5条の2で、ねたみや恨みその他の悪意の感情を満たす目的で、つきまといや待ち伏せ、見張りなどを反復して行うことを禁じています。恋愛感情が前提とならないため、ストーカー規制法の対象から外れる場合に検討される規定です。なお、条例の内容は都道府県ごとに異なります。
民事上の請求と接近禁止の仮処分
つきまといによって平穏な生活が害されている場合、不法行為として慰謝料を請求したり、裁判所に接近禁止の仮処分を申し立てたりする道もあります。刑事の手続とは別に進められるため、警察の対応を待っている間の選択肢にもなりえます。ただし、仮処分では相手の行為を示す資料が必要になり、ここでも日々の記録が土台になります。
「偶然」の積み重ねを記録に残す
偶然を装う相手への対応では、1回ごとの出来事よりも、出来事の並び方が判断の材料になります。後から思い出して書くより、その日のうちに残しておくほうが、見返したときの信用が高まります。
- 日付・時刻・場所(駅名や店名、出入口の位置まで)。
- 相手の位置と様子(どこに立っていたか、何分ほどいたか、ついてきたか)。
- 相手の言動(話しかけられた内容は、できるだけそのままの言葉で)。
- その日の予定を知りうる人や、予定が分かるSNS投稿の有無。
- 経路や時間を変えた日と、その後に相手が現れたかどうか。
- 写真・動画・防犯カメラの映像、同行者の目撃など、裏付けになる資料。
交通系ICカードの利用履歴や、手帳・カレンダーの予定は、自分がその時刻にその場所にいたことを裏付ける資料になります。撮影するときは、相手に近づいたり追いかけたりしてまで撮ろうとしないことが大切です。安全を優先し、撮れなかった日は文字の記録だけでも残しておきましょう。
相手に問いただす前に考えておきたいこと
何度も現れる相手に「偶然ではないですよね」と直接伝えたくなることもあると思います。しかし、偶然を装っている相手は、その場では否定することが多く、かえって会話のきっかけを与えてしまうことがあります。こちらから連絡を取ったり、相手の家や職場まで様子を確かめに行ったりすると、こちらの行動が問題にされる場面も考えられます。
接触をやめてほしいという意思をはっきり伝える必要がある場合でも、本人と一対一で向き合うより、警察の警告や弁護士からの通知など、第三者を通じて伝えるほうが安全に進めやすいことがあります。
相談先と進め方
警察への相談
待ち伏せや後をつける行為が続いている場合は、最寄りの警察署に相談することが考えられます。記録を持参すると、出来事の並びを伝えやすくなります。ストーカー規制法では、警察が相手に警告を出したり、公安委員会が禁止命令を出したりする仕組みが設けられています。相談した時点では警告に至らなくても、相談の記録は残り、その後に行為が続いた場合の判断材料になります。今まさに後をつけられているなど、身の危険を感じる場面では、110番通報をためらわないでください。
弁護士への相談
「偶然だと言われると反論しにくい」「警察に相談したが、様子を見ましょうと言われた」という場合、弁護士は記録を法律の要件に沿って整理し、警察への伝え方を一緒に組み立てることができます。また、代理人として相手に接触をやめるよう求める通知を送る、示談の交渉を行う、接近禁止の仮処分や損害賠償の請求を検討する、といった対応も考えられます。どの手段が合うかは、相手が誰か、相手についてどこまで分かっているか、危険の程度などによって変わります。
よくあるご質問
相手から何も言われていなくても、相談してよいですか
相談していただいて差し支えありません。待ち伏せや見張りは、言葉を交わさなくても成り立ちうる行為です。黙って近くにいるだけであっても、それが繰り返されて不安を覚えているのであれば、記録をもとに状況を確かめてみる意味があります。
相手が近所に住んでいて、顔を合わせるのが避けられない場合はどうなりますか
生活圏が重なっていること自体は、つきまといには当たりません。ただ、近所に住んでいることを理由に、こちらの出入りに合わせて家の前に立つ、後をついてくるといった行動が続く場合は、別に考える必要があります。日常のすれ違いと、それを超える行動とを分けて記録しておくと、相談の際に状況が伝わりやすくなります。
「自意識過剰だ」と思われそうで、相談をためらっています
相談の時点で、つきまといに当たると決めている必要はありません。記録を見ながら、当たる可能性があるか、どの手段がとれるかを一緒に確かめていくことが相談の目的です。当たらないと分かった場合でも、今後どのような出来事があれば動けるのかを知っておくことは、気持ちの負担を軽くすることにつながります。
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ご相談について
偶然を装う相手への対応は、「偶然かどうか」を言い争うことではなく、出来事の並びを記録に残し、それをもとに使える手段を選んでいくことが中心になります。弁護士法人若井綜合法律事務所では、記録の整理の段階から、警察への相談の準備、相手方への通知まで、状況に合わせてご相談をお受けしています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


