【親子問題】子が親の不動産の家賃収入を自分の口座で受け取っていたら?
本記事は、2026年11月1日時点の民法、児童虐待の防止等に関する法律、児童福祉法、刑法をもとに作成しています。父母の離婚後の子の養育に関する改正民法(2026年4月1日施行)の内容を反映しています。個別の事情によって結論が変わることがありますので、具体的な対応は専門家にご相談ください。
「息子が家で妻に手を上げているらしく、孫がそれを見ながら育っているのが心配です」「娘がお金に困っていて、孫の学費にまで手をつけているようです」。親子問題のご相談では、成人した子本人の問題に加えて、子の子、つまり親御さんから見て孫が巻き込まれていることへの不安を打ち明けられることが少なくありません。反対に、「心配して口を出したら、孫に会わせないと言われた」と、関わり方そのものに悩まれる方もいます。
祖父母が孫のためにできることは限られている、という説明をよく目にします。孫の親権は孫の父母にあり、祖父母が孫について物事を決める立場にないのは、その通りです。ただ、「決める権利がない」ことと「何もできない」ことは同じではありません。公的な相談窓口や家庭裁判所の手続の中には、祖父母が動くことを想定したものもあります。
この記事では、子の家庭で孫が暴力・お金・刑事事件などの問題に巻き込まれているときに、祖父母である親御さんが取れる対応を、法律上の立場から順に整理します。子本人の暴力や金銭要求への対応そのものは別の記事で詳しく解説していますので、必要に応じてあわせてご覧ください。
孫が「巻き込まれている」とはどのような状況か
ご相談で多い4つの場面
孫が巻き込まれているというご相談は、おおむね次のような場面に分かれます。いくつかが重なっていることも珍しくありません。
- 子の家庭内での暴力や暴言を、孫が日常的に見聞きしている。
- 子が孫の世話を十分にしておらず、食事や通院、通学に支障が出ている。
- 子の借金や金銭トラブルに、孫の名前やお金、生活が絡んでいる。
- 子が逮捕された、薬物を使っているなど、子の刑事事件や犯罪の影響が孫の生活に及んでいる。
子の刑事事件や薬物の問題については、【親子問題】子が逮捕された|親が最初にすべきことや【親子問題】子の薬物使用に気づいた|通報すべきか迷ったときで、親としての初動を解説しています。
孫が未成年か成人かで、使える手段が変わる
孫が未成年であれば、親権者である父母が孫を監護・教育し、財産を管理する立場にあります。祖父母が関わる場面では、児童相談所などの児童福祉の仕組みや、家庭裁判所の親権に関する手続が中心になります。
孫が成人していれば、孫自身が自分のことを判断する立場にあります。たとえば、子の借金の保証人になるよう孫が求められている場合、祖父母にできるのは、孫の相談に乗り、孫が自分で窓口につながるのを支えることが中心になります。まず孫が未成年か成人か、そして危険が差し迫っているかどうかを分けて考えることが、対応を選ぶ出発点になります。
祖父母は孫に対してどのような法的立場にあるのか
親権は孫の父母にあり、祖父母は監護者になる申立てができない
未成年の孫の住む場所や教育、財産の管理は、親権者である父母が担います(民法818条、820条、824条)。祖父母が孫を心配していても、父母の判断に代わって物事を決めることはできません。
祖父母が家庭裁判所に「自分を孫の監護者に指定してほしい」と求めることができるかについては、最高裁判所が2021年3月29日の決定で、父母以外の第三者は申立てができないとの判断を示しています。この事案は、事実上孫を育ててきた祖母が申し立てたものでしたが、それでも申立ては認められませんでした。孫を手元で育てたいという理由だけで、祖父母が家庭裁判所に監護者の指定を求める道は閉ざされている、というのが現在の実務の前提です。
改正民法で、祖父母と孫の交流を家庭裁判所が定める道ができた
2026年4月1日に施行された改正民法では、父母以外の親族と子との交流について新しい規定が設けられました(民法766条の2)。父母の離婚などに伴って子の監護に関する事項を家庭裁判所が定める場面で、子の利益のため特に必要があると認められるときは、祖父母と孫の交流を定めることができます。
祖父母自身がこの申立てをできるのは、交流について定めるためにほかに適当な方法がないときに限られます。あくまで「孫と会う機会」を確保するための制度であり、孫の安全を守るための手続とは別のものです。孫の生活や安全が心配な場合は、次の章で説明する窓口や手続を検討することになります。
祖父母と孫は、互いに扶養義務を負う関係にある
祖父母と孫は直系血族にあたり、互いに扶養をする義務を負います(民法877条1項)。ただし、孫の生活をまず支えるのは親権者である父母であり、祖父母の扶養義務は自分の生活に余裕がある範囲で求められるものと考えられています。
「孫のため」という言葉があっても、祖父母が子にお金を渡し続けなければならないわけではありません。扶養義務の考え方については、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかもあわせてご覧ください。
孫の安全が心配なときに、祖父母が取れる対応
児童相談所や市区町村の窓口に相談・通告する
児童虐待防止法は、虐待を受けたと思われる子どもを見つけた人に、児童相談所や市区町村などへの通告を求めています(児童虐待防止法6条1項)。この「見つけた人」には、学校や病院の職員だけでなく、祖父母も含まれます。虐待だと確かめられていなくても、「疑わしい」という段階で相談してよいとされています。
児童相談所虐待対応ダイヤル「189」にかけると、近くの児童相談所につながります。24時間対応で匿名での相談もでき、通告を受けた職員は、通告した人を特定させる情報を漏らしてはならないとされています(同法7条)。また、孫が同居する家庭で、子がその配偶者に暴力をふるうことは、孫に対する心理的虐待にあたります(同法2条4号)。子の配偶者が暴力を受けている場合の対応は、【親子問題】子が配偶者から暴力を受けていると気づいた|親にできることで解説しています。
相談する前に、孫の様子や見聞きしたことを、日時とともにメモしておくと話が伝わりやすくなります。孫の住所と祖父母の住所が離れている場合は、孫が住む地域を管轄する児童相談所に直接連絡するほうが、やり取りが円滑になることがあります。
命や身体に危険が迫っているときは110番を優先する
孫や子の配偶者がその場で暴力を受けている、刃物を持ち出しているなど、命や身体に危険が迫っているときは、相談窓口よりも110番を優先します。警察が家庭内の暴力を把握した場合、子どもが関わる事案は警察から児童相談所に通告される流れがあります。
孫を親元から連れ帰ることには慎重になる
孫を守りたい一心で、親権者である子の了解を得ずに孫を祖父母の家に連れ帰ることは、慎重に考える必要があります。親権者の同意のない連れ去りは、祖父母であっても未成年者略取誘拐罪(刑法224条)に問われた例があり、孫を落ち着いた環境に置くという目的からかえって遠ざかってしまうおそれがあります。
孫の保護が必要な状況であれば、一時保護(児童福祉法33条)を判断するのは児童相談所です。子のほうから「しばらく孫を預かってほしい」と頼まれた場合は、いつ、どのような事情で預かったのかをメモやメッセージで残しておくと、後の行き違いを防ぎやすくなります。祖父母が自分の判断で孫を引き取るよりも、児童相談所に一時保護などの判断を委ねるほうが、孫にとっても祖父母にとっても安全な進め方になることが多いといえます。
親権の停止・喪失と、未成年後見人の選任を申し立てる
父母による虐待などで孫の利益が害されている場合、家庭裁判所は、親権を一時的に停止する審判(最長2年)や、親権を失わせる審判をすることができます(民法834条の2、834条)。これらの申立ては、子の親族ができるとされており、祖父母も申し立てることができます。児童相談所長が申し立てる方法もあります(児童福祉法33条の7)。
父母の双方が親権を行えなくなった場合は、家庭裁判所が未成年後見人を選びます(民法840条)。祖父母が候補者になることはできますが、誰を選ぶかは家庭裁判所が孫にとって最も適任かどうかを基準に判断します。親権の停止や喪失が認められるかどうかの判断は慎重に行われるため、どの事実をどう示すかを含めて、弁護士に相談しながら準備を進めることをおすすめします。
お金の問題に孫が巻き込まれているとき
「孫のため」と言われたお金の求めにどう向き合うか
「孫の学費が払えない」「孫の服が買えない」と子からお金を求められると、断りにくく感じる方が多いと思います。ただ、子に渡したお金が実際に孫のために使われるとは限りません。
孫のために援助したい場合は、学校や塾に直接支払う、必要な物を祖父母が購入して届けるなど、お金が孫に届く形を選ぶ方法があります。援助するかどうかと、子にお金を渡すかどうかは、分けて考えることができます。子からの金銭要求を断ることの位置づけは、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。
孫の名義のお金や口座が子に使われている場合
未成年の孫の財産は、親権者である父母が管理します(民法824条)。祖父母が孫のために渡したお金が孫名義の口座に入っていても、祖父母がその使い道を直接管理することはできません。
親権者による財産の管理が適切でなく、孫の利益が害されている場合には、財産の管理権だけを失わせる手続もあり、親族が申し立てることができます(民法835条)。これから孫にまとまったお金を残したいと考えている場合は、渡し方そのものを事前に検討しておくことも一つの備えになります。
成人した孫が、子の借金の保証人などにされそうなとき
成人した孫が子から保証人になるよう頼まれている、子の代わりに借金をするよう求められているといったご相談もあります。成人した孫には自分で判断する権利があり、祖父母が代わりに断ることはできませんが、引き受けなくてよいことや、引き受けた場合の負担を伝えることはできます。
すでに保証人になってしまった後の対応は、【親子問題】保証人になってしまった後にできることで解説しています。
子本人への働きかけと、相談先の分け方
孫の問題と子の問題を、窓口ごとに分けて考える
孫が巻き込まれているケースでは、孫の安全の問題と、子本人の暴力・お金・依存などの問題が絡み合っています。孫の安全は児童相談所や市区町村の窓口、緊急時は警察、子本人の問題は警察・医療機関・弁護士、家庭裁判所の手続は弁護士というように、窓口を分けて考えると、何から手をつけるかが見えやすくなります。
それぞれの窓口の役割については、【親子問題】親子の問題はどこに相談すればよいのか|警察・行政・弁護士の役割分担で詳しく整理しています。
孫のもう一方の親(子の配偶者)と連携する
孫のもう一方の親である子の配偶者も、孫の親権者です。子の配偶者が子から暴力を受けている、孫を連れて家を出たいと考えているといった場合、その方の相談や避難を支えることが、結果として孫の安全につながることがあります。
子の配偶者との関係が良好であれば、孫の様子を共有し、どの窓口に誰が相談するかを話し合っておくと、対応が重複したり抜け落ちたりするのを防げます。
弁護士が親の代理人として子と向き合う
子本人の問題について、弁護士が親御さんの代理人として子と向き合う方法もあります。弁護士が親御さんへの金銭要求や攻撃を受け止める窓口となり、自立支援カウンセラーが子の住まい探しや仕事探し、金銭管理などの生活面を支えることで、子の生活が落ち着き、孫の家庭環境の改善につながることがあります。
この場合、弁護士が代理するのは親御さんであり、孫の安全そのものは児童相談所などの公的機関と並行して守っていくことになります。祖父母が子の問題に正面から取り組むことは、孫の生活環境を整えることにもつながります。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応、ご相談から自立までの流れと費用は【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご紹介しています。
よくあるご質問
児童相談所に相談したことは、子に知られてしまいますか?
通告を受けた児童相談所などの職員は、通告した人を特定させる情報を漏らしてはならないとされています(児童虐待防止法7条)。ただ、相談の内容によっては、家族であれば誰が伝えたのかを子が推測することもあり得ます。ご自身の安全が心配な場合は、相談の際にその事情も伝え、連絡の取り方や時期について窓口と相談しておくと安心です。
心配して口を出したら、孫に会わせないと言われました。会う権利はありますか?
父母が婚姻中で、そろって祖父母との交流を望まない場合、祖父母が法律上の権利として孫との面会を求めるのは難しいのが現状です。父母の離婚や別居に伴って家庭裁判所が子の監護について定める場面では、子の利益のため特に必要があるときに、祖父母と孫の交流が定められる可能性があります(民法766条の2)。孫の安全が心配な場合は、会えるかどうかとは別に、児童相談所などへの相談を検討してください。
孫の家が遠方でも、対応を相談できますか?
児童相談所への相談は、孫が住む地域を管轄する児童相談所が窓口になります。子本人の問題についての弁護士への相談や依頼は、オンラインや電話も組み合わせて遠方から進めることができます。詳しくは【親子問題】遠方でも依頼できるのか|全国対応の実際をご覧ください。
まとめ
- 未成年の孫の親権は父母にあり、祖父母は自分を監護者に指定するよう家庭裁判所に申し立てることはできない(最高裁2021年3月29日決定)。
- 父母の離婚などの場面では、子の利益のため特に必要があるとき、家庭裁判所が祖父母と孫の交流を定めることができる(民法766条の2)。
- 虐待を受けたと思われる孫に気づいたときは、祖父母も児童相談所などに通告できる(児童虐待防止法6条1項)。孫の前での配偶者への暴力も心理的虐待にあたる(同法2条4号)。
- 孫を親権者に無断で連れ帰ることは、刑事責任を問われるおそれがあるため慎重に考える(刑法224条)。
- 祖父母は親族として、親権の停止・喪失や未成年後見人の選任を家庭裁判所に申し立てることができる(民法834条、834条の2、840条)。
- 「孫のため」と求められた援助は、学校などへの直接払いも選択肢になる。祖父母と孫は互いに扶養義務を負うが、子にお金を渡す義務があるわけではない(民法877条1項)。
- 孫の安全は児童相談所などの公的機関、子本人の問題は弁護士などに、窓口を分けて相談する。
弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子の暴力やお金の無心、ひきこもりなど、親子問題に関するご相談を池袋と新橋の事務所でお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として子と向き合い、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、北海道から沖縄まで全国のご家庭に対応してきました。
子の問題に孫が巻き込まれているのではないかと心配されている方、どこから手をつけてよいか分からない方は、状況が整理できていない段階でも一度ご相談ください。


