【親子問題】子に介護を頼みたくない、事前に何を決めておく?
この記事は、2026年11月時点の児童虐待防止法・児童福祉法、および2026年4月1日に施行された改正民法の内容をもとに書いています。
孫を預かったときに腕にあざがあった、電話の向こうで子が孫を強く怒鳴る声が聞こえた、孫が「家に帰りたくない」と小さな声で言った。祖父母の立場からのご相談では、こうした断片的な出来事から不安が始まることがほとんどです。一方で、「自分の子を通報するなど親として許されるのか」「勘違いだったら家族が壊れてしまう」と、動けないまま時間が過ぎてしまう方も少なくありません。
世間では「虐待かもと思ったら189へ」と案内されています。この案内そのものは正しいのですが、祖父母にとっては、通報する相手が自分の子やその配偶者であるという事情が重く、通報した後に家族の関係がどうなるのか、自分に何ができて何ができないのかまでは見えにくいのが実情です。
この記事では、祖父母が「子が孫に暴力をふるっているかもしれない」と感じたときに、通報(法律上は「通告」といいます)をしてよいのか、その前後で何を整理し、どこまで自分で動いてよいのかを、法律の仕組みに沿って説明します。子ども自身が受けている配偶者からの暴力への対応は、別の記事で詳しく扱っています。
祖父母は「虐待かもしれない」段階で通告してよい
結論からお伝えすると、祖父母が確信を持てない段階であっても、児童相談所などに通告することは法律が想定している行動です。
法律は「確信」を求めていない
児童虐待防止法は、虐待を受けたと「思われる」児童を発見した人は、速やかに市町村や児童相談所などに通告しなければならないと定めています(児童虐待防止法6条1項)。ここでいう「発見した人」に限定はなく、祖父母も当然に含まれます。虐待であると証明できる状態になるまで待つ必要はなく、そう疑われる事情があれば足りるという仕組みです。
虐待にあたるかどうかの判断は、通告を受けた児童相談所などの専門機関が調査を通じて行います。祖父母に求められているのは、判断を下すことではなく、気づいたことを専門機関に伝えることです。
結果的に虐待でなかった場合
調査の結果、虐待ではなかったと分かることもあります。そのような場合でも、根拠のある心配から通告した人が責任を問われることは通常ありません。多くの自治体も、間違っていても構わないので連絡してほしいと案内しています。ただし、事実と異なることを意図的に伝えることは別の問題になるため、見聞きしたことをそのまま伝えることが大切です。
通告した人の情報は守られる
通告を受けた児童相談所などの職員は、通告した人を特定させる情報を漏らしてはならないとされています(児童虐待防止法7条)。また、189への通告は匿名でも受け付けられています。もっとも、家族しか知り得ない出来事を伝えた場合には、状況から子の側が通告者を推測することはあり得ます。その点も含めて、通告の前に心の準備をしておくと落ち着いて対応しやすくなります。
どのような様子が虐待にあたるのか
法律上の児童虐待は、保護者が18歳未満の子どもに対して行う次の4つの類型に分けられています(児童虐待防止法2条)。
| 類型 | 具体的な様子の例 |
|---|---|
| 身体的虐待 | 叩く・蹴る・強く揺さぶる、あざややけどが繰り返し見られる |
| 性的虐待 | 子どもへの性的な行為、性的な場面や画像を見せる |
| ネグレクト | 食事を与えない、病気でも受診させない、同居人の暴力を放置する |
| 心理的虐待 | 暴言や脅し、無視、子どもの前で家族に暴力をふるう(面前DV) |
見落とされやすいのは、子の交際相手や再婚相手が孫に暴力をふるい、子がそれを止めずにいる場合です。このような放置は、子自身によるネグレクトとして扱われることがあります。また、孫の目の前で夫婦間の暴力が起きている場合は、孫への心理的虐待にあたる可能性があります。
どこに連絡すればよいのか
連絡先は、緊急性の高さによって変わります。
| 状況 | 主な連絡先 |
|---|---|
| 孫の命や身体に今まさに危険がある | 110番(警察) |
| 虐待が疑われ、早く対応してほしい | 189(児童相談所虐待対応ダイヤル・通話料無料) |
| 虐待か判断がつかず、まず相談したい | 住んでいる区市町村の子ども家庭支援センターなど |
| 子育てや家族関係の悩みとして相談したい | 児童相談所相談専用ダイヤル(0120-189-783) |
危険が差し迫っているときは110番
孫が大けがをしている、刃物が持ち出されている、激しい暴力が続いているといった場面では、児童相談所への連絡より先に110番をためらわないでください。警察から児童相談所へ通告がなされる仕組みもあります。
通告の前に祖父母が整理しておきたいこと
通告に決まった書式はありませんが、伝える内容を整理しておくと、児童相談所が状況を把握しやすくなります。
見たこと・聞いたことを時系列で書き出す
次のような事項を、分かる範囲でメモにまとめておくと役に立ちます。
- 孫の氏名・年齢・住所、通っている保育園や学校。
- 気づいた日時と場所。
- 実際に見たあざや傷の位置と大きさ、可能であれば写真。
- 孫や子が話した言葉を、言い換えずにそのまま。
- 同居している家族や交際相手の有無。
推測と事実を分けて書くことが大切です。「叩かれているに違いない」ではなく、「左腕に手のひら大のあざがあった」「孫が『パパに怒られるから帰りたくない』と言った」というように、見聞きしたままを残しておきます。
孫から無理に聞き出さない
心配のあまり、孫に「誰に叩かれたの」と何度も問いただしたくなるかもしれません。しかし、大人からの繰り返しの質問は、子どもの記憶や話し方に影響を与えることがあります。後の調査で孫の話が正確に受け止められるよう、聞き出すことは専門機関に任せ、祖父母は孫が自分から話したことを受け止めるにとどめるのが望ましいとされています。
先に子を問いただすべきか
通告の前に子と話し合いたいと考える方もいます。親として自然な気持ちですが、問いただしたことで子が孫との接触を断ったり、傷が見えないように隠したりするおそれもあります。子に伝えるかどうか、伝えるならいつかについても、児童相談所や弁護士に相談しながら決めるほうが、孫の安全を確保しやすくなります。
通告した後に起きること
通告を受けた児童相談所などは、子どもの安全確認を行います。多くの自治体では、通告から48時間以内を目安に子どもの様子を直接確認する運用がとられています。
調査と一時保護
調査では、家庭訪問や保育園・学校への聞き取りが行われ、必要に応じて子(孫の親)との面談が重ねられます。孫の安全を確保する必要があると判断された場合には、一時保護が行われることがあります(児童福祉法33条)。2025年6月からは、保護者の同意がない一時保護について、裁判官が審査する手続も導入されています。
一方で、通告がそのまま孫と親を引き離すことにつながるわけではありません。多くの場合、児童相談所や市区町村は、家庭に助言や支援を行いながら様子を見守る方法をとります。通告は子を罰するための手続ではなく、孫と家庭を支援につなげるための入口と捉えると、行動しやすくなるかもしれません。
祖父母が孫を預かることになった場合
一時保護の際、親族の家に孫を委託することが検討される場合があります。祖父母が孫を受け入れる意思があるときは、そのことを児童相談所に伝えておくとよいでしょう。ただし、受け入れが認められるかどうかは、孫の安全や生活環境、子との関係などを踏まえて児童相談所が判断します。
祖父母が自分で動くときに気をつけたいこと
孫を守りたい一心で行動した結果、かえって祖父母が不利な立場に置かれてしまうことがあります。
孫を無断で連れ帰ることの危うさ
親権者である子の同意なく孫を自宅に連れ帰り、返さずにいると、事情によっては未成年者略取誘拐罪(刑法224条)の問題とされるおそれがあります。孫の身に危険が迫っている場面では、祖父母が自分で連れ出すのではなく、110番や児童相談所への連絡によって保護を求めることが基本になります。
祖父母の法律上の立場
祖父母には孫の親権がないため、孫をどこで誰が育てるかを祖父母の側から直接決めることはできません。最高裁判所は、父母以外の第三者は子の監護者を指定する審判を申し立てることができないと判断しています(最高裁判所令和3年3月29日決定)。2026年4月に施行された改正民法では、祖父母などの親族と子との交流について、ほかに適当な方法がない場合に家庭裁判所へ定めを求める道が設けられました(民法766条の2)。もっとも、これは交流に関する仕組みであり、孫を引き取る権利を祖父母に与えるものではありません。
親権の停止を求めるという方法
子による虐待が深刻で、孫の利益が害されている場合には、家庭裁判所に親権の停止や喪失を求める手続があります。この申立ては、子どもの親族もすることができるとされており、祖父母も申立人になり得ます(民法834条、834条の2)。親子の関係に大きな影響を与える手続であるため、児童相談所の対応状況も踏まえ、弁護士と相談しながら慎重に検討することになります。
子との関係をどう保つか
孫への暴力の背景には、仕事や家計の不安、夫婦間の問題、子自身の心身の不調など、子の追い詰められた状況があることも少なくありません。子が配偶者から暴力を受けている状況では、孫と子の両方を守る視点が必要になります。
通告した後も、祖父母が子を責め続けるのではなく、支援を受け入れるよう働きかける役割を担えることがあります。ただ、子が祖父母に対して激しく反発したり、祖父母自身に暴力が向いたりする場合には、家族だけで関係を立て直そうとせず、第三者を間に入れることを検討してください。
弁護士に相談する意味
児童相談所は孫の安全を守る機関であり、祖父母の代理人ではありません。そのため、祖父母が抱える次のような悩みについては、弁護士への相談が役立つことがあります。
- 子やその配偶者から、通告したことを責められたり、孫に会わせないと言われたりしている。
- 孫を預かっているが、子から返すよう強く求められている。
- 親権の停止や、孫との交流を求める手続を検討したい。
- 子が逮捕されるなど、刑事手続に発展しそうな状況にある。
当事務所では、親の代理人として子と向き合い、必要に応じて自立支援の担い手と役割を分けながら、家族それぞれの生活を立て直すお手伝いをしています。孫をめぐる問題も、子との関係を含めて整理することから始められます。
よくあるご質問
孫が遠方に住んでいて、様子を直接見られません。それでも通告できますか
通告できます。電話で聞こえた声や孫の話、子の言動など、祖父母が実際に見聞きした事情を伝えれば足ります。孫の住所や通っている保育園・学校が分かれば、児童相談所が確認を進めやすくなります。
通告したことは子に知られてしまいますか
児童相談所などは、通告した人を特定させる情報を明かしてはならないとされており、匿名での通告も受け付けられています。ただし、伝えた内容から子が推測する可能性は残るため、知られた場合にどう対応するかを事前に考えておくと安心です。
しつけの範囲かどうか迷っています
しつけを理由にした体罰は、法律で禁止されています(児童虐待防止法14条1項、民法821条)。しつけか虐待かを祖父母が判断する必要はなく、迷う段階で子ども家庭支援センターや189に相談して構いません。
まとめ
- 虐待を受けたと思われる児童を発見した人は、祖父母を含め、通告することが求められています(児童虐待防止法6条1項)。
- 確信は必要なく、根拠のある心配から通告した人が責任を問われることは通常ありません。
- 通告した人の情報は守られ、189には匿名でも連絡できます(同法7条)。
- 命や身体に差し迫った危険があるときは、まず110番に連絡します。
- 孫から無理に聞き出さず、見聞きしたことを時系列で記録しておきます。
- 孫を無断で連れ帰ると、未成年者略取誘拐罪(刑法224条)の問題とされるおそれがあります。
- 深刻な場合には、祖父母も親権の停止を家庭裁判所に申し立てることができます(民法834条の2)。
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孫と子の様子に不安を抱えている方へ
孫のために動くことと、子との関係を大切にすることは、必ずしも対立するものではありません。通告をするかどうか迷っている段階でも、その後の子との関係に悩んでいる段階でも、祖父母としてできることを一緒に整理していきましょう。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


