【親子問題】子が「虐待されて育った」と言って暴力を正当化するときは?
子が就職や進学を機に家を出て、ようやくそれぞれの生活が始まったと思ったのに、毎日のように電話がかかってくる。出なければ何度も鳴り、出れば長時間の愚痴やお金の話になる。親として突き放したくはないものの、仕事や睡眠、体調にまで影響が出てきた――そうしたご相談は少なくありません。
この記事は、成人して親と別に暮らしている子からの連絡を想定しています。命の危険が差し迫っている場面では、記事の内容にかかわらず、まず110番・119番への連絡を優先してください。
この記事では、毎日の電話を法的にはどう考えるのか、親の側からどのように距離を整えていけばよいのか、第三者に入ってもらうのはどんな場面かを順に整理します。
毎日の電話が負担になっていくとき
- 子が独立してから、ほぼ毎日電話がかかってくる。
- 出られないと短時間に何度も着信があり、折り返すと責められる。
- 話の多くが愚痴や不満で、1回が1時間以上になる。
- 電話のたびに生活費や借金の話が出る。
- 深夜や早朝にもかかってきて、眠れない日が続いている。
- 「親なんだから聞くのが当たり前だ」と言われ、断れない。
どれか一つでも当てはまり、親御さんの生活に支障が出ているのであれば、連絡のあり方を見直してよい時期に来ていると考えられます。電話の回数そのものよりも、親御さんが無理なく続けられる関わり方になっているかどうかが大切です。
まず整理したいのは「回数」より「中身」
同じ「毎日の電話」でも、中身によって取るべき対応は変わります。次の表のように、電話の内容ごとに分けて考えると、何から手をつければよいかが見えやすくなります。
| 電話の主な内容 | 考え方の目安 |
|---|---|
| 近況報告や軽い相談 | 頻度や時間帯の枠を決めれば、関係を保ちながら負担を減らせることが多い場面です。 |
| 愚痴や不安の吐き出しが長時間続く | 親が受け止める範囲を決め、医療や相談機関など別の受け皿を一緒に探すことが考えられます。 |
| 生活費・借金などお金の要求 | 電話の場で決めないことを原則にし、援助するかどうかは別に検討します。 |
| 親を責める・脅すような言葉 | 記録を残し、内容によっては警察への相談や弁護士の介入を検討する場面です。 |
| 「死ぬ」など命に関わる言葉 | お金や連絡頻度の問題と切り分け、安全の確保を優先します。 |
お金の要求が中心になっている場合は、【親子問題】子への仕送りを止めたい|止め方と伝え方もあわせてご覧ください。また、命に関わる言葉が出ている場合の考え方は【親子問題】「金を出さないと死ぬ」と子に言われた|命の問題と金銭の問題を分けて考えるで整理しています。
親子の電話は法的にどう見られるのか
電話に出ないこと自体に法的な問題はない
民法877条1項は、直系血族の間に互いに扶養する義務を定めています。ただ、この扶養義務は経済的に困窮した場合の生活の援助に関するもので、電話に毎回出る義務や、話を聞き続ける義務を親に課すものではありません。成人した子との連絡の頻度や方法は、親子それぞれが自分の生活を踏まえて決めてよい事柄です。
内容によっては犯罪や不法行為にあたることがある
電話の中で「家に火をつける」など親や家族の生命・身体・財産に害を加えると告げれば、親子間であっても脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があります。脅して義務のないことをさせようとすれば強要罪(刑法223条)が問題になることもあります。なお、お金を脅し取る恐喝については、直系血族の間では刑が免除される特例(刑法251条・244条)があるため、刑事手続だけで解決を図るのは難しい場面もあります。詳しくは【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きをご覧ください。
また、断っているのに深夜に何度も電話をかけ続けるなど、平穏に生活する利益を害する程度に至った場合には、民事上の不法行為と評価される余地があります。さらに、裁判所に「電話をかけてはならない」という命令を求める架電禁止の仮処分(民事保全法23条2項)という手続もあります。もっとも、この手続は著しい損害や急迫の危険を避ける必要があるときに認められるもので、申し立てればすぐに出るものではありません。着信履歴や録音などの裏付けが求められる点にも注意が必要です。
ストーカー規制法が使える場面は限られる
つきまといを規制するストーカー規制法は、恋愛感情やそれが満たされなかったことへの恨みなどを動機とする行為を対象としています。そのため、親子間の電話にこの法律が適用される場面は限られると考えられます。法律の名前だけで判断せず、電話の内容や頻度を記録したうえで、どの手段が合うかを検討することが大切です。
距離を保つための段階的な進め方
多くの場合、いきなり着信拒否をするよりも、段階を踏んで連絡の形を整えていくほうが、子の反発を抑えながら親の生活を守りやすくなります。
連絡の「枠」を決めて伝える
「電話は週に2回、夜9時まで」「平日は短いメッセージだけ」のように、親が無理なく続けられる頻度と時間帯を決め、落ち着いているときに一度だけ伝えます。理由は「仕事と体調を保つため」など親自身の事情にとどめ、子の人格を責める言い方は避けたほうが受け入れられやすくなります。
出られないときの返し方を決めておく
枠の外の着信には出ず、決めた時間にこちらから折り返す、あるいは「今日は出られないので木曜日に話そう」と短く送るなど、対応を毎回そろえることが大切です。そのときどきで出たり出なかったりすると、子の側も「何度もかければ出てもらえる」と受け止めやすくなります。
お金の話は電話で決めない
金銭の要求には、その場で応じる・断るを決めず、「書面かメッセージで内容を送ってほしい。考えてから返事をする」と伝える方法があります。時間を置くことで、親御さんが冷静に判断できるだけでなく、要求の内容が記録として残ります。独立した子からの金銭の請求については、【親子問題】独立した子から「親のせいだ」と金銭を請求された|応じる前に分けて考えることもご参照ください。
記録を残しておく
着信履歴の画面、留守番電話、メッセージのほか、日付・時間帯・回数・話の内容を簡単にメモしておきます。後に第三者へ相談するときや、法的な手続を検討するときの土台になります。
家族で対応をそろえる
父親には出ないのに母親にだけ電話が集中する、きょうだいに連絡が回るといった形は珍しくありません。家族のうち誰がどの範囲で対応するのかを話し合い、同じ方針で臨むことが、特定の一人に負担が偏るのを防ぎます。
着信拒否や番号変更を考えるとき
枠を伝えても状況が変わらず、親御さんの生活が保てない場合には、着信拒否や電話番号の変更も選択肢になります。ただし、連絡手段を急に断つと、子が自宅に来る、勤務先や親族に連絡するなど、別の形で接触が強まるおそれもあります。
そのため、着信拒否に踏み切る前に、「緊急のときはこの方法で連絡する」「安否は月に1回、決まった方法で確認する」といった最低限の連絡の道を残しておくことが考えられます。連絡が途絶えた場合の考え方は、【親子問題】独立した後に連絡が来なくなったら|安否確認の順序と「報告の枠組み」で紹介しています。また、電話の頻度が増えた背景に「家に戻りたい」という気持ちがある場合は、【親子問題】独立した子が家に戻りたいと言ってきた|再同居を断るときも参考になります。
第三者に間に入ってもらう場面
親子の間だけでは話が進まない、伝えた枠がすぐに崩れてしまうという場合には、第三者に入ってもらうことで関係が落ち着くことがあります。
弁護士が親御さんの代理人になると、子に対して「今後の連絡は代理人を通してほしい」と通知し、お金の要求や話し合いの窓口を親から弁護士に移すことができます。親御さんが直接責められる場面が減り、要求の内容も書面で整理されていきます。通知の中身については【親子問題】弁護士から子に最初の連絡が入るとき|通知で伝えること、窓口を代える意味については【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。
ただ、窓口を代えるだけでは、子の側の孤立や生活の不安は解消されません。当事務所では、弁護士が親御さんの側に立って連絡や要求への対応を引き受け、自立支援カウンセラーが子の日常の相談や生活の立て直しを支える形で、親子それぞれの生活を整えていく取り組みをしています。子が話を聞いてもらえる相手を親以外にも持てるようになると、親への電話が自然に減っていくこともあります。連絡の頻度や方法について親子で合意できた場合には、【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で触れているように、書面に残すことも考えられます。
親御さん自身の生活を守ることも大切
毎日の電話への対応が続くと、着信音を聞くだけで気持ちが沈む、仕事に集中できないといった状態になることがあります。親御さんが先に疲れ切ってしまうと、子に向き合う余力も失われていきます。かかりつけ医や地域の相談窓口を利用し、親御さんご自身が休むための手配をすることも、子との関係を続けていくうえで欠かせない準備です。【親子問題】子の問題で親自身が限界|親が先に休むための手配もあわせてご覧ください。
よくあるご質問
電話の回数を減らしてほしいと伝えたら、子が怒り出しました。どうすればよいですか
枠を伝えた直後に反発が出るのは珍しいことではありません。その場で言い争わず、決めた枠をそのまま続けることが大切です。暴言が強まる、脅すような言葉が出るといった変化があれば、記録を残したうえでご相談ください。
子の電話が親の勤務先にまでかかってくる場合はどうすればよいですか
勤務先に迷惑が及ぶ場合は、職場にどこまで事情を伝えるかを事前に整理し、取り次ぎの方法を相談しておくことが考えられます。業務に支障が出るほど続く場合には、弁護士が窓口となって子に連絡の中止を求めることも検討します。
子に知られずに相談することはできますか
弁護士には守秘義務があり、ご相談いただいた内容が親御さんの了解なく子に伝わることはありません。子への連絡を行うかどうか、いつ行うかは、ご相談のうえで親御さんと一緒に決めていきます。
まとめ
- 親が子からの電話に毎回出る法的な義務はなく、連絡の頻度や方法は親の生活を踏まえて決めてよいものです。
- 電話の回数よりも中身に注目し、お金の要求や脅すような言葉は分けて対応します。
- いきなり断つより、連絡の枠を決めて伝え、対応をそろえるほうが関係を保ちやすくなります。
- 着信履歴やメモなどの記録は、後で第三者に相談するときの土台になります。
- 親子だけで難しい場合は、弁護士やカウンセラーなど第三者に間に入ってもらう方法があります。
子からの毎日の電話に悩む親御さんの多くは、「突き放したら子がどうなるか」という心配と、自分の生活が保てない苦しさの間で迷っています。距離を整えることは、子を見捨てることではなく、親子がそれぞれの生活を続けていくための準備でもあります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


