【親子問題】子が親の不動産の家賃収入を自分の口座で受け取っていたら?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

親が所有するアパートや貸家、駐車場の家賃が、いつの間にか子の口座に振り込まれている。管理を任せたつもりだったのに、受け取ったお金が親の手元に戻ってこない。こうしたご相談は、親が高齢になって物件の管理を子に頼った時期や、親が入院・施設入所をした後に表面化することが少なくありません。

 この記事では、子が親の不動産の家賃収入を自分の口座で受け取っていた場合に、そのお金が誰のものとして扱われるのか、子が受け取るようになった経緯ごとにどう整理されるのか、親が取り戻すために何から始めればよいのかを順に解説します。なお、相続が始まった後の遺産分割の問題は扱わず、親が存命のうちに親自身が対応する場面を中心にしています。

家賃収入は、原則として不動産の所有者である親のもの

 建物や土地を貸して受け取る家賃は、民法上「法定果実」と呼ばれ、物の使用の対価として受けるべき金銭と位置づけられています(民法88条2項)。家賃を受け取る権利は、原則として貸している不動産の所有者、つまり親にあります。

 所得税の面でも、家賃収入は原則として所有者の不動産所得として扱われます。子が代わりに入金を管理していたとしても、振込先の口座名義が子になっているというだけで、家賃が子のものに変わるわけではありません。

 出発点は、振込先の名義と、家賃を受け取る権利がある人は別のものという点です。そのうえで、子がどのような経緯で家賃を受け取るようになったのかによって、親が子に求められる内容や進め方が変わってきます。

子が受け取るようになった経緯で、整理の仕方が変わる


経緯法的な整理の入り口親が子に求めることの中心
親が管理を任せ、振込先の変更にも同意していた財産管理の委任収支の報告と、受け取ったお金の引渡し
親が知らないうちに振込先が変えられていた権限のない受領受け取ったお金の返還、損害の賠償
子が自分の名前で入居者と契約していた他人の不動産を貸している状態家賃相当額の返還、契約関係の整理


親が管理を任せていた場合

 親が子に物件の管理を頼んだ場合、その関係は委任(または準委任)として整理されることが多いと考えられます。委任を受けた人は、求めに応じて事務の状況を報告する義務を負い(民法645条)、受け取った金銭を委任した人に引き渡す義務を負います(同法646条)。受け取ったお金を自分のために使ってしまった場合には、使った日以後の利息を支払い、損害があればその賠償もしなければならないとされています(同法647条)。

 管理を任せたこと自体が問題になるわけではありません。親として確かめたいのは、入ってきた家賃が何に使われたのか、という説明です。子が修繕費や管理費、固定資産税などを立て替えていた場合には、その費用は清算の対象になります(同法650条)。

親が知らないうちに振込先が変えられていた場合

 親の承諾なく振込先が子の口座に変更され、家賃が子のものとして使われていた場合は、法律上の原因なく利益を得たものとして不当利得の返還(民法703条・704条)や、不法行為に基づく損害賠償(同法709条)を求める余地があります。

 この場面では、子の側から「管理を頼まれていた」「受け取ってよいと言われていた」と主張されることがあります。親の記憶だけでなく、当時のやり取りや書面が残っているかが、話し合いの行方を左右しやすくなります。

子が自分の名前で入居者と契約していた場合

 子が貸主として自分の名前で入居者と契約を結んでいた場合、契約そのものは子と入居者の間で成立していると扱われることがあります。それでも、物件の所有者は親ですので、子が受け取ってきた家賃に相当する額について、親から子に返還を求めることが考えられます。

 この場合は、今後の契約関係をどう整えるか(親が貸主として引き継ぐのか、改めて契約を結び直すのか)も課題になります。入居者の生活に関わることですので、入居者に負担をかけない順序で進めることが大切です。

返還を求めるときの考え方と期限

 返還を求める金額は、子の口座に入った家賃の合計がそのまま請求額になるとは限りません。入金の記録と照らし合わせて、固定資産税や修繕費、管理会社への手数料、親の生活費や医療費の支払いなど、親のために使われた支出を差し引いて整理することになるのが一般的です。

 期限にも注意が必要です。不当利得の返還を求める権利は、権利を行使できることを知った時から5年、行使できる時から10年で時効にかかるとされています(民法166条1項)。不法行為に基づく損害賠償は、損害と加害者を知った時から3年、不法行為の時から20年が期限です(同法724条)。何年にもわたって家賃が子の口座に入っていた場合、古い時期の分から時効が問題になることがあります。

 進め方としては、まず話し合いや書面での請求を行い、まとまらない場合は家庭裁判所や簡易裁判所の調停、さらに訴訟という順序が考えられます。

刑事事件として扱えるか|親族間の特例

 預かった家賃を自分のものにした場合、横領罪にあたる可能性があります。ただし、刑法には親族間の財産をめぐる罪について特例があり、親と子のような直系血族の間で横領罪などが成立した場合でも、刑が免除されるとされています(刑法244条1項・255条)。

 そのため、警察に相談しても、親子間の家賃の問題は民事の話し合いで解決を目指すよう案内されることが多いと考えられます。一方で、振込先の変更にあたって親の名前で書類を作成していたような場合には、親族間の特例が及ばない罪が問題になることもあります。刑事と民事の関係については、【親子問題】親の預貯金を勝手に引き出された|刑事と民事の分かれ道で詳しく解説しています。

まず親が確かめておきたいこと


  1. 物件の登記名義(所有者が誰になっているか)。
  2. 入居者との賃貸借契約書の貸主名義。
  3. 振込先が変わった時期と、変更の手続を誰がどのように行ったか。
  4. 管理会社が入っている場合の管理委託契約の内容と、管理会社からの送金先。
  5. 子の口座に入った家賃の額と、そこから親のために支払われた費用の有無。
  6. 管理を頼んだ覚えや、受け取ってよいと伝えた覚えの有無と、それを示す書面やメッセージ。


 登記事項証明書は法務局で取得できます。管理会社が入っている物件であれば、所有者として送金の明細を確認できることがあります。子が通帳や契約書、印鑑を手元に置いている場合は、無理に取り返そうとせず、まず手元で分かる範囲の記録を集めておくことをおすすめします。

振込先を親の口座に戻すまでの順序

 振込先を親の口座に戻すときは、管理会社が入っている場合は管理会社に、入っていない場合は入居者に、所有者である親の名前で書面により振込先の変更を伝えるのが基本です。子から別の内容の連絡が入居者に届くと、入居者はどこに払えばよいのか分からなくなります。通知の文面と送るタイミングは、事前に整えておくと混乱を避けやすくなります。

 すでに入居者が子の口座に払った家賃について、入居者に改めて支払いを求めるのは慎重に考える必要があります。入居者が事情を知らずに払っていた場合、その支払いが有効と扱われることがあり(民法478条)、入居者との関係を損なうおそれもあります。過去の分の清算は、基本的に親と子の間で行うものと考えるのがよいでしょう。

 子が親の実印や権利証を持ち出している場合は、不動産そのものの処分につながらないよう、あわせて備えておく必要があります。詳しくは【親子問題】子が親の実印や権利証を持ち出した|悪用を止める手続の順序と、使われていた場合の対応をご覧ください。

税金の扱いにも目を向けておく

 家賃が子の口座に入っていても、所有者である親の不動産所得として確定申告が必要になることがあります。また、親が「受け取った家賃はそのまま子に渡す」と決めた場合には、親から子への贈与として贈与税の問題が生じることがあります(贈与税の基礎控除は年110万円です)。

 過去の申告がどうなっていたか、今後どう申告するかは、個別の事情によって判断が分かれます。税務の具体的な判断については、税理士にご確認ください。

判断能力に不安がある場合と、これからの備え

 親が認知症などで、自分で物件を管理したり子に返還を求めたりすることが難しくなっている場合には、家庭裁判所に成年後見等の開始を申し立てる方法があります。後見人等が選ばれると、親の財産の管理や、必要に応じた子への返還の求めを、後見人等が担うことになります。

 親に十分な判断能力があるうちであれば、任意後見契約を結んでおく、管理を第三者の専門家に委託する、といった備えも考えられます。子に管理を任せる場合でも、毎月の収支の報告や通帳の写しの共有など、任せたお金の流れを親が確認できる仕組みを最初に決めておくと、後のトラブルを防ぎやすくなります。

弁護士が親の代理人として入る意味

 親子の間でお金の話をすると、「親のために使った」「もらってよい約束だった」と言い分がぶつかり、感情的な対立に発展しやすくなります。子と同居している場合や、話を切り出すと子が強く反発しそうな場合には、親が一人で直接向き合うことに不安を感じる方も少なくありません。

 弁護士が親の代理人として窓口になると、入金の記録から金額を整理したうえで、子に書面で説明と返還を求めることができます。管理会社や入居者への通知の手順を整え、話し合いがまとまった場合には、返還の方法や今後の管理について合意書を作成することも考えられます。

 当事務所では、家賃収入に頼って生活している子の自立が課題になっているご家庭について、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら、親の財産を守ることと子の生活の立て直しを並行して進める取り組みも行っています。

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 子が親の家賃を受け取っていた場合でも、管理を任せた経緯があったのか、どのような支出に使われていたのかによって、親が取れる手段や求められる金額は変わります。まずは記録を集め、事実を整理するところから始めることが、親子関係をこれ以上こじらせずに解決を目指すための土台になります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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