【親子問題】独立した子から「親のせいだ」と金銭を請求された|応じる前に分けて考えること

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

この記事は、2026年10月時点の民法・刑法・民事訴訟法に基づいています。不法行為の時効は2020年4月施行の改正後の規定(民法724条・724条の2)、親の監護教育については2022年12月施行の改正後の規定(民法821条)を前提にしています。


独立して家を出た子から、ある日「自分がこうなったのは親のせいだ」「慰謝料として〇〇万円を払ってほしい」と連絡が来る。ご相談の場では、こうしたお話をされる親御さんが少なくありません。手紙やメッセージで繰り返し求められる場合もあれば、子が依頼した弁護士から書面が届く場合もあります。一方で、子の側にも、長年言葉にできなかったつらさをようやく形にした、という事情があることも多いものです。

 インターネット上には「精神的苦痛を理由に親を訴えることはできる」という解説が多く見られます。それ自体は誤りではありません。ただ、その多くは請求する子の側から書かれており、請求を受けた親が何を確認し、どう応じればよいのかは見えにくくなっています。

 この記事では、請求を受けた親の立場から、「親のせい」という言葉の中身を分けて考える方法、法的に請求が成り立つ場面と成り立ちにくい場面、時間の経過による影響、そして応じる場合・応じない場合の進め方を整理します。子が警察や行政に「虐待を受けた」と訴えた場合の対応や、親子間で合意書を作る際の注意点は、それぞれ別の記事で扱います。

「親のせい」という請求を、中身ごとに分ける

請求の根拠は大きく三つに分かれる

 子からの請求は「慰謝料」という言葉でひとまとめにされがちですが、法的には性質の異なるものが混ざっていることがあります。最初にしておきたいのは、相手の言い分を次の三つに分けてみることです。

請求の中身典型的な言い分法的な位置づけ
過去の具体的な行為叩かれた、食事を与えられなかった、人格を否定する言葉を繰り返し浴びせられた不法行為(民法709条・710条)として損害賠償が認められる余地がある
育て方や家庭の事情希望する進学をさせてもらえなかった、両親の離婚や転居で生活が変わった、きょうだいと扱いが違った親の監護教育の範囲での判断として、それだけで違法と評価されることは多くない
今の生活への援助生活費を出してほしい、借金を肩代わりしてほしい、相続分を先に渡してほしい慰謝料ではなく扶養や贈与の問題。将来の相続分を生前に請求する権利はない


言葉が「慰謝料」でも、中身は生活費のことがある

 実際のご相談では、「慰謝料」と言いながら、求めている中身は今月の家賃や借金の返済であることが少なくありません。この場合に問題となるのは過去の評価ではなく、成人した子をどこまで支える義務があるかという扶養の問題です。成人した子に対する親の扶養義務は、親自身の生活を維持したうえで余力がある範囲にとどまると考えられています(民法877条)。詳しくは【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。

 三つを分けないまま「払う・払わない」を決めると、本来は応じる必要のない部分まで一緒に認めてしまうおそれがあります。反対に、過去の具体的な行為に関する部分まで一律に退けると、話し合いがかえってこじれることもあります。

過去の行為を理由とする請求が成り立つ場面

不法行為と認められるために必要なこと

 親子の間であっても、暴力や著しい暴言によって子の身体や心に損害を与えた場合には、不法行為として損害賠償の対象になり得ます(民法709条・710条)。親子だからという理由で民事上の責任が免除される仕組みはありません。

 もっとも、請求が認められるには、違法と評価される行為があったこと、損害が生じたこと、行為と損害の間に因果関係があることを、請求する側が示す必要があります。何十年も前の家庭内の出来事は記録が残っていないことが多く、子の記憶と親の記憶が食い違うことも珍しくありません。精神的な不調について「親の言動が原因だ」と主張される場合も、他の事情との関係で因果関係が争点になります。

当時「しつけ」とされていた行為の評価

 2022年12月施行の民法改正で、親の懲戒権の規定が削除され、体罰や子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならないことが明記されました(民法821条)。それより前の出来事に、この改正後の規定がそのまま当てはめられるわけではありません。ただし、暴行や傷害が当時から許されていなかったことに変わりはなく、「昔はしつけとして当たり前だった」という説明だけで責任が否定されるとは限りません。

子のつらさを否定するところから始めない

 法的に請求が認められにくい場合でも、子が感じているつらさそのものが偽りだとは限りません。法的に支払義務があるかどうかと、子の気持ちを受け止めるかどうかは、分けて考えることができます。ただ、謝罪の言葉が後に証拠として扱われることもあります。書面やメッセージで気持ちを伝える場合は、送る前に言い回しを弁護士と確認しておくと安心です。

時間の経過は請求にどう影響するのか

不法行為の消滅時効

 不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害と加害者を知った時から3年、行為の時から20年で時効により消滅します(民法724条)。暴力によるけがなど、人の生命や身体を害する不法行為の場合は、3年が5年に延ばされています(同法724条の2)。

区分期間根拠
損害と加害者を知った時から3年(生命・身体の侵害は5年)民法724条1号・724条の2
不法行為の時から20年民法724条2号


 20年の期間は、2020年4月の改正前は時効とは異なる「除斥期間」と解されていましたが、改正後は消滅時効として扱われています。

起算点が後ろにずれることがある

 子どもの頃の出来事による精神的な不調が、大人になってから表れることがあります。幼少期に親族から受けた被害をめぐる裁判では、20年の期間の起算点を、行為の時ではなく後に精神疾患を発症した時点とした高等裁判所の判断があります(札幌高裁平成26年9月25日判決)。「何十年も前のことだから、もう請求されることはない」と一律には言えない点に注意が必要です。

時効は「援用」しなければ効果が生じない

 時効の期間が過ぎていても、請求を受けた側が時効を主張(援用)しなければ、請求権は消滅しません(民法145条)。また、期間が過ぎた後に一部でも支払ったり、支払う約束をしたりすると、その後に時効を主張することが難しくなる場合があります。時効が問題になりそうな場合は、何かを支払う前、約束する前に確認しておくことが大切です。親子の間で時効を主張することにためらいを感じる方もいますが、主張するかどうか、どの範囲で主張するかは、親御さん自身が判断できます。

請求の伝え方に問題がある場合

正当な請求でも、伝え方によっては別の問題になる

 損害賠償を求めること自体は正当な権利の行使でも、「払わなければ危害を加える」といった言葉を伴う場合は、脅迫罪(刑法222条)にあたる可能性があります。脅して金銭を払わせれば、恐喝罪(同法249条)の問題にもなります。どのような言葉が脅迫にあたるかは、【親子問題】「殺す」と言われた|脅迫罪として扱われる線引きで解説しています。

親子間の金銭トラブルで警察が動きにくい理由

 親子のような直系血族の間で起きた恐喝や詐欺には、刑法244条の親族相盗例が準用され、刑が免除されます(刑法251条)。子が独立して別に暮らしていても、親子の間であればこの扱いは変わりません。警察に相談しても「家族間のお金の問題」として扱われやすいのは、このためです。一方で、脅迫罪や暴行罪・傷害罪には、こうした親族間の特例はありません。この仕組みについては、【親子問題】「家庭の問題」と言われて警察が動かないのはなぜかで詳しく解説しています。

親族や勤務先に伝えると言われた場合

 「払わないなら親戚や職場に全部話す」と告げられることもあります。事実を伝えると予告するだけで直ちに違法になるとは限りませんが、金銭の支払いと結びつけて告げられる場合や、事実と異なる内容を広める場合には、脅迫罪や名誉毀損(刑法230条、民法709条)の問題になり得ます。こうした言葉があった場合は、日時と内容をそのまま記録しておくことが、後の対応の土台になります。

請求を受けた親が取れる対応

その場で認めない、その場で払わない

 電話や対面で強く迫られると、早く終わらせたい一心で「分かった、払う」と答えてしまうことがあります。しかし、口頭の約束でも合意として扱われる可能性があり、後から撤回するのは容易ではありません。まずは「内容を確認したうえで返事をする」と伝え、即答しないことが大切です。

手元の記録を整える

 次のようなものは捨てずに、まとめて保管しておきます。

  • 子から届いた手紙、メッセージ、メールなど、請求の内容が分かるもの。
  • これまでに子へ渡したお金や、肩代わりした借金の記録。
  • 学費の支払いや写真、通知表など、当時の生活の様子が分かる資料。
  • 請求を受けた際の言動を、日時とともに書き留めたメモ。


 これまで応じてきた金銭要求の記録がどのような意味を持つかは、【親子問題】金銭要求に応じ続けた記録は、後で意味を持つかで解説しています。

話し合いの場を家庭裁判所に移す

 当事者同士では感情的になって話が進まない場合、家庭裁判所の親族関係調整調停を利用する方法があります。親族の間で円満な関係を回復するための話し合いを、調停委員を交えて行う手続で、親の側から申し立てることもできます。申立先は原則として相手方の住所地の家庭裁判所です。合意に至らなければ調停は不成立となり、結論を強制されることはありません。

窓口を弁護士に代える

 子と直接やり取りを続けることが負担になっている場合は、弁護士が親の代理人として窓口になる方法があります。弁護士が請求の中身を仕分け、法的に応じる必要のある部分とそうでない部分を整理したうえで、子や子の代理人と話し合います。親御さんが直接言葉を交わさずに済むことで、やり取りが落ち着くこともあります。詳しくは【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択をご覧ください。

支払うと決めた場合に押さえておくこと

名目・金額・清算の範囲を書面にする

 話し合いの結果、一定の金額を支払うと決めることもあります。その場合は、何の名目で、いくらを、いつ、どのように支払うのかを書面にしておくことが基本です。「この合意で親子間の金銭の問題はすべて解決した」という清算条項がないと、別の名目で再び請求される余地が残ります。

一度払うと要求が続くのではという不安

 「一度払えば、また求められるのではないか」という不安から、支払いをためらう親御さんもいます。書面で清算の範囲を確定させても、子の生活が立ち行かなくなれば、別の形で援助を求められることはあり得ます。金銭の解決と並行して、子が自分で生活を維持できる状態をどう作るかを考えておくことが、結果として要求の繰り返しを防ぐことにつながります。継続的な金銭要求への向き合い方は、【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで解説しています。

税金や相続との関係

 損害賠償として支払われるお金と、親から子への贈与とでは、税務上の扱いが異なります。名目を「慰謝料」としても、実態が生活費の援助や財産の分与であれば、贈与と判断される可能性があります。また、生前にまとまった金額を渡すことが、将来の相続で他のきょうだいとの公平の問題になることもあります。金額が大きい場合は、税理士にも確認しておくと安心です。

よくあるご質問

子の弁護士から請求の書面が届きました。返事をしなくてもよいですか。

 返事をしないことで直ちに支払義務が生じるわけではありませんが、話し合いでの解決が難しいと判断されれば、訴訟を起こされる可能性があります。訴状が届いた後に答弁書を出さず、期日にも出頭しないと、子の主張を認めたものとして扱われるおそれがあります(民事訴訟法159条3項)。書面に記載された回答期限を確認し、早めにご相談ください。

子の言い分に心当たりがある部分もあります。それでも弁護士に頼んでよいのでしょうか。

 はい。弁護士に依頼することは、子と争うことだけを意味するわけではありません。認めるべき部分は認め、法的な根拠に乏しい部分とは分けて整理することで、かえって話し合いがまとまりやすくなることもあります。

請求してくる子が精神的に不安定に見えます。どう接すればよいですか。

 精神的な不調が背景にある場合、金銭の話し合いだけでは解決しないことがあります。医療や公的な相談窓口につなぐことも並行して考える必要があります。判断の目安は【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断で解説しています。身の危険を感じる場合は、ためらわずに警察へ相談してください。

まとめ


  1. 「親のせい」という請求は、過去の具体的な行為、育て方や家庭の事情、今の生活への援助の三つに分けて考える。
  2. 暴力や著しい暴言などの具体的な行為は、親子間でも不法行為として損害賠償の対象になり得る(民法709条・710条)。
  3. 育て方や進路の判断はそれだけで違法と評価されることは多くなく、生活費の要求は扶養の問題として整理する(民法877条)。
  4. 不法行為の時効は知った時から3年(生命・身体の侵害は5年)、行為の時から20年。症状が後から表れた場合は起算点がずれることがある(民法724条・724条の2)。
  5. 時効は援用しなければ効果が生じず、期間経過後に支払いや約束をすると主張が難しくなることがある(民法145条)。
  6. 親子間の恐喝は刑が免除されるが、脅迫や暴行・傷害には親族間の特例がない(刑法244条・251条・222条)。
  7. 支払う場合は名目・金額・方法を書面にし、清算条項を入れる。


弁護士法人若井綜合法律事務所では、成人した子からの金銭要求や暴力、ひきこもりなど、親子の問題に関するご相談をお受けしています。弁護士が親御さんの代理人として子との窓口になり、自立支援カウンセラーとチームを組んで、子の生活の立て直しまで支援します。池袋と新橋の事務所のほか、北海道から沖縄まで全国のご家庭からのご相談に対応してきました。

「親のせいだ」と金銭を求められ、どう返事をすればよいか迷っている方、子との話し合いに疲れてしまった方は、お一人で抱え込まずにご相談ください。ご相談から自立までの流れと費用は、【親子問題】子の暴力・ひきこもり・お金の無心・犯罪行為に悩む親御さんへ|ご相談から自立までの流れと費用、よくあるご質問でご案内しています。

リンクをコピーしました

Mybestpro Members

若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

関連するコラム

プロのおすすめするコラム

コラムテーマ

コラム一覧に戻る

プロのインタビューを読む

風俗・男女トラブルの不当要求から依頼者を守る弁護士

  1. マイベストプロ TOP
  2. マイベストプロ東京
  3. 東京の法律関連
  4. 東京の男女・夫婦問題
  5. 若井亮
  6. コラム一覧
  7. 【親子問題】独立した子から「親のせいだ」と金銭を請求された|応じる前に分けて考えること

若井亮プロへの仕事の相談・依頼

仕事の相談・依頼