【親子問題】同居の子が家の修理や業者の立ち入りを拒むときは?
この記事は、2026年10月時点の法令と一般的な実務をもとに、子の一人暮らしにかかる初期費用の負担について解説しています。税金の扱いは個別の事情によって変わるため、具体的な判断は税務署や税理士にご確認ください。
子が一人暮らしを始めるときには、敷金・礼金・仲介手数料といった賃貸契約の費用に加え、引っ越し代や家具・家電の購入費など、まとまったお金が必要になります。「初期費用くらいは親が出すのが普通」と言われることもあれば、「社会人なら自分で用意するもの」という声もあり、どう判断すればよいか迷われる親御さんは少なくありません。
結論から言うと、一人暮らしの初期費用を誰が負担するかについて、法律が「普通はこうする」と定めているわけではありません。多くの場合は、家庭ごとの話し合いで決まるものです。ただ、親の扶養義務がどこまで及ぶのか、渡すお金が「あげたもの」なのか「貸したもの」なのか、部屋の契約や保証を誰が引き受けるのか、という点を整理しておくと、後から親子の間で行き違いが起きにくくなります。この記事では、これらの点を順に見ていきます。
一人暮らしの初期費用には何が含まれるのか
初期費用と一口に言っても、中身は大きく三つに分かれます。どこまでを「初期費用」として話し合うのかを最初に揃えておくと、負担の分け方も決めやすくなります。
| 区分 | 主な内容 | 親が関わるときの注意点 |
|---|---|---|
| 賃貸契約の費用 | 敷金、礼金、仲介手数料、前家賃、火災保険料、保証会社の利用料、鍵の交換費用など | 契約者や保証人を誰にするかで、親の責任の範囲が変わります |
| 引っ越しの費用 | 引っ越し業者の料金、転居に伴う交通費など | 時期や荷物の量で金額が大きく動きます |
| 生活を始める費用 | 家具・家電、カーテンや寝具、日用品、最初の数か月の生活費など | どこまで援助するかの線を引いておかないと、援助が続きやすくなります |
一般に、賃貸契約の費用だけでも家賃の数か月分になることが多く、家具・家電をすべて新しく揃えると、合計額はさらに膨らみます。まずは金額の目安を親子で一緒に確認しておくことが、話し合いの出発点になります。
法律上、親に初期費用を出す義務はあるのか
親が子を養う義務(扶養義務)は、直系血族は互いに扶養をする義務があるとする民法877条1項を基礎にしています。ただし、義務の重さは子の状況によって異なると考えられています。
経済的に自立していない子の場合
まだ自分で生活費を得ることが期待できない子(未成熟子)に対しては、親は自分と同じ程度の生活を保障する義務(生活保持義務)を負うとされています。未成熟子かどうかは年齢だけで決まるものではなく、成年年齢が18歳に引き下げられた後も、事情によっては大学生などが含まれることがあります。
もっとも、未成熟子に対する扶養義務があるからといって、「一人暮らしの初期費用」という特定の支出を親が必ず負担しなければならない、という形で決まるわけではありません。たとえば自宅から通える学校に進学するのに、子の希望で一人暮らしをする場合には、その費用をどう分担するかは家庭の判断に委ねられる部分が大きいといえます。成人した大学生への扶養料をめぐっては、進学の経緯や親の収入などを考慮して支払いを認めた審判例もあり、個別の事情によって結論が分かれる分野です。
成人して働ける子の場合
働くことのできる成人の子に対しては、親の義務は「生活扶助義務」と呼ばれる比較的軽いものになるとされています。子が自分の力では生活できない状態にあるときに、親が自分の生活を維持したうえで、余力の範囲で援助すれば足りるという考え方です。
収入のある子が自分の希望で一人暮らしを始める場合、その初期費用を親が負担しなければならない法的な義務があるとは考えにくいでしょう。一方で、親が「出してあげたい」と考えて負担することも、もちろん自由です。扶養義務の考え方は、【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで詳しく解説しています。
お金を渡す前に家庭で決めておきたい3つのこと
法律が決めていない以上、「よその家ではどうしているか」よりも、自分の家庭で何を決めておくかが大切になります。少なくとも次の3点は、お金を渡す前に親子で確認しておくと安心です。
- 誰がどの費用を負担するのか(全額か、一部か、子が自分で用意するのか)。
- 渡すお金は「あげる」のか「貸す」のか。
- 部屋の契約者と保証人を誰にするのか。
この3点は、いずれも後から「そんな約束はしていない」という行き違いが起きやすいところです。以下では、2点目と3点目を詳しく見ていきます。
「あげる」のか「貸す」のかを分けておく
親から子へ渡したお金は、返さなくてよい「贈与」なのか、返してもらう前提の「貸付」なのかによって、その後の扱いが変わります。どちらも口約束で成立しますが、書面がないと、後になって親は「貸した」、子は「もらった」と主張が食い違うことがあります。
貸すのであれば書面に残す
返してもらうつもりがあるなら、金額、返済を始める時期、毎月の返済額などを書面に残しておくのが望ましいでしょう。親子の間で借用書を作ることに抵抗を感じる方もいらっしゃいますが、返済が滞ったときに、話し合いの土台になるのは当初の約束の内容です。子に貸したお金を返してもらう場面の整理は、【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方で解説しています。
あげる場合の贈与税の考え方
親子などの扶養義務者の間で、生活費や教育費に充てるために渡したお金のうち、通常必要と認められるものには贈与税がかからないとされています(相続税法21条の3第1項2号)。ただし、国税庁は、非課税となるのは生活費などとして必要な都度、直接充てるためのものに限られ、生活費の名目で受け取っても預金や投資に回した場合には課税の対象になると説明しています。
一人暮らしの初期費用であれば、年間110万円の基礎控除の範囲に収まることも多いと思われますが、同じ年に他の援助が重なる場合や、家具・家電の購入額が大きい場合には、合計額に注意が必要です。不動産会社などの支払先へ親が直接支払うなど、お金の流れを分かりやすくしておくと、後から説明しやすくなります。
きょうだいとの公平にも目を向ける
ある子には初期費用を援助し、別の子には援助しなかったということもあるでしょう。通常の生活の援助の範囲であれば、相続の場面で大きな問題になることは多くありませんが、金額が大きい場合には、相続分の計算で考慮すべき「特別受益」にあたるかが話題になることがあります。誰にいつ、いくら渡したかを簡単に記録しておくと、将来の話し合いの助けになります。
部屋の契約と保証を誰が引き受けるか
初期費用を出すことと、部屋の契約上の責任を負うことは別の問題です。お金を出すついでに契約まで親が引き受けると、その後の責任が長く残ることがあります。
親が契約者になる場合
子に収入がない、入居審査が通りにくいといった理由で、親の名義で部屋を借りることがあります。この場合、家賃を支払う義務を負うのは契約者である親です。子が家賃を滞納したり、近隣とトラブルを起こしたりしたときには、親が貸主とのやり取りの当事者になります。後から解約したくなった場面については、【親子問題】子が親名義で借りた部屋を解約したい|契約者としてできることと退去までの順序もご参照ください。
親が連帯保証人になる場合
子が契約者となり、親が連帯保証人になる場合も、子が家賃を払わなければ親が支払いを求められます。2020年4月に施行された改正民法では、個人が賃貸借の保証人になるときは、保証の上限額(極度額)を書面などで定めなければ保証契約は効力を生じないとされました(民法465条の2)。契約書に記載された極度額がいくらなのか、署名する前に確認しておくことが大切です。
最近は保証会社の利用を求められることも多く、親が連帯保証人になれる場合でも、保証会社との契約が別に必要になることがあります。保証人を引き受けるかどうかの考え方は、【親子問題】家を借りる際の保証人・保証会社の問題|無職の子のために親が引き受ける前にで詳しく扱っています。
家庭内の問題を抱えた子の独立で初期費用を出すとき
暴力やお金の無心、長いひきこもりなど、家庭内の問題を抱えた子に家を出てもらう場面では、「初期費用を誰が出すか」の意味合いが少し変わってきます。子にまとまった収入や蓄えがないことが多く、親が初期費用を負担しなければ独立そのものが進まない、という状況になりやすいためです。
当事務所では、こうしたご家庭からのご相談を受け、自立支援カウンセラーと役割を分担しながら子の独立を支える取り組みをしています。その際、親御さんには必要最小限の経済的なサポートをお願いし、カウンセラーが家探しや生活の立て直しを手伝う、という形をとることがあります。親が初期費用を負担する場合には、次のような点を意識しておくとよいでしょう。
- 現金を子に渡すのではなく、不動産会社や引っ越し業者などの支払先へ直接支払うようにします。
- 援助する範囲(初期費用だけか、最初の数か月の家賃までか)と期間を、あらかじめ決めておきます。
- 援助の内容を親子で確認し、可能であれば書面にしておきます。
- 契約者や保証人を親が引き受けるかどうかは、初期費用とは切り離して判断します。
なお、親子の間で「これで最後の援助にする」と取り決めても、将来扶養を求める権利そのものを放棄させることはできないとされています(民法881条)。合意書には約束の内容を確かめ合う意味がありますが、限界もあることを踏まえておく必要があります。合意書の位置づけは【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界で、独立までの進め方は【親子問題】子を家から独立させる具体的な手順で解説しています。
また、子が働くことが難しく、生活保護の利用を検討している場合には、転居にかかる費用の扱いについても福祉事務所に相談する余地があります。生活保護と世帯の考え方は、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方をご覧ください。
よくあるご質問
子に「初期費用は親が出すのが普通だ」と強く言われたら、出さなければいけませんか
働くことのできる成人の子であれば、親に初期費用を負担する法的な義務があるとは考えにくく、援助を断ること自体が通常問題になるとはいえません。もっとも、要求が強く繰り返される場合や、暴言・暴力を伴う場合には、お金の問題というより親子関係の問題として、第三者を交えて考えることをおすすめします。
初期費用を出した後、子がすぐに実家へ戻ってきたらどうなりますか
援助したお金を返してもらえるかどうかは、贈与だったのか貸付だったのか、どのような約束をしていたのかによります。また、再び同居を受け入れるかどうかは、家の所有者や同居する家族の事情も踏まえて判断することになります。再同居を断る場面については、【親子問題】独立した子が家に戻りたいと言ってきた|再同居を断るときで解説しています。
独立した後も家賃の援助を続けるべきか迷っています
初期費用の援助と、その後の家賃や生活費の援助は、分けて考えることができます。初期費用は出しても、毎月の援助は期限を区切る、あるいは行わないという選択もあり得ます。援助をいつまで続けるか、どう終えるかについては、【親子問題】独立した子の家賃を払い続けている|いつまで払うのかと【親子問題】子への仕送りを止めたい|止め方と伝え方もあわせてご覧ください。
まとめ
一人暮らしの初期費用は、「普通はどうか」で決めるよりも、家庭の事情に合わせて、援助する範囲、お金の性質、契約上の責任を一つずつ決めていくことが大切です。家庭内の問題が絡んでいて親子だけでは話し合いが難しい場合には、第三者が間に入ることで進めやすくなることもあります。当事務所の親子問題への取り組みは、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


