【親子問題】生活保護を受ける子に、親から仕送りをしてもいい?
本記事は2026年10月時点の法令にもとづいています。成年後見制度については、2026年6月に成立・公布された民法等の改正法(令和8年法律第45号)により「後見」「保佐」を廃止して「補助」に一元化する見直しが決まっていますが、施行は公布から2年6か月以内の政令で定める日とされており、現時点では「後見・保佐・補助」の3つの類型が使われています。
子が気分の波の大きい時期に高額な買い物をした、勧誘を受けて内容をよく理解しないまま契約してしまった、というご相談は少なくありません。親としては「あの状態で結んだ契約なのだから、取り消してほしい」と考えるのが自然です。ただ、成人した子の契約を親の判断だけで取り消すことは、法律上はできないのが原則です。この記事では、子が精神的に不安定だった時期の契約について、どのような場面なら効力を争う余地があるのか、そのとき親は何をすればよいのかを整理します。
前提として、成人した子の契約は親が取り消せるものではない
成年年齢は18歳です。18歳になると親権は終わり、親は子の法定代理人ではなくなります。成人した子が結んだ契約の当事者はあくまで子本人であり、契約の無効を主張したり取消しの意思表示をしたりするのも、原則として子本人(またはその代理人や、家庭裁判所に選任された保佐人などの支援者)です。
18歳未満の子であれば、親の同意を得ずにした契約は「未成年者取消権」(民法5条2項)によって取り消せる場合があります。これに対して成人した子の場合、「精神的に不安定だったから」という事情だけで、親が代わりに契約を取り消すことはできません。
もっとも、親に何もできないわけではありません。子が取消しや無効の主張をするための材料をそろえる、子から委任を受けて手続を手伝う、今後に備えて家庭裁判所に保佐・補助の申立てをする、といった形で関わることは可能です。以下では、効力を争う道を3つに分けて見ていきます。
精神的に不安定だったことを理由に契約の効力を争う3つの道
意思能力がなかった場合は「無効」になる
民法3条の2は、意思表示をした時に意思能力を有しなかった場合、その法律行為は無効になると定めています。意思能力とは、自分の行為の結果を判断できるだけの精神的な能力のことで、一般には7歳から10歳程度の判断能力が目安と説明されます。
ただし、意思能力の有無は契約ごとに、契約した時点の状態で判断されます。病名がついていることや通院していることだけで、ただちに無効になるわけではありません。弁護士ドットコムでも、双極性障害の方が躁状態でネットオークションの高額商品を購入したという相談について、診断を受けていることだけで無効と言うのは難しく、購入時の病状や生活状況、購入に至る経緯などから具体的に示していく必要があるという趣旨の解説がされています。また、日用品の買い物はできても、自動車や不動産のような高額な契約には足りない、というように、契約の重さによって求められる判断能力の水準が変わる点も指摘されています。
無効を主張する場合に手がかりになるのは、たとえば次のような資料です。
- 契約の前後の受診記録、診断書、主治医の意見。
- 入院や措置の記録があれば、その時期。
- 契約の前後の子の言動を記録したメモやメッセージ。
- 短期間に契約が重なっているなど、契約の経緯そのものが不自然であることを示す資料。
保佐・補助などの審判を受けた後の契約は「取消し」の対象になる
家庭裁判所で後見・保佐・補助の審判を受けている場合、その後に本人が結んだ一定の契約は、取り消すことができます。現在の制度の概要は次のとおりです。
| 類型 | 対象となる方 | 取り消せる主な契約 |
|---|---|---|
| 後見 | 判断能力を欠く常況にある方 | 日用品の購入など日常生活に関する行為を除く契約(民法9条) |
| 保佐 | 判断能力が著しく不十分な方 | 借金、保証、不動産その他重要な財産の売買など、民法13条1項に定める行為を保佐人の同意なくした場合 |
| 補助 | 判断能力が不十分な方 | 家庭裁判所が同意を要すると定めた特定の行為を、補助人の同意なくした場合(民法17条) |
注意したいのは、審判を受ける前に結んだ契約は、この取消しの対象にならないという点です。すでに結んでしまった契約については、前の項目の意思能力の問題として争うか、次に述べる勧誘の問題として争うことになります。審判の制度は、主に「これから先」の被害を防ぐための仕組みと考えておくのがよいでしょう。
事業者の勧誘に問題があった場合は「取消し」を検討する
契約の相手が事業者で、勧誘のしかたに問題があった場合は、消費者契約法や民法、特定商取引法による取消しや解除を検討します。子の精神状態と関係が深いものとして、次のような規定があります。
- 消費者契約法4条3項7号(加齢または心身の故障により判断力が著しく低下していることを事業者が知りながら、不安をあおって契約させた場合の取消し)。
- 消費者契約法4条3項5号・6号(社会生活上の経験が乏しいことによる不安や、恋愛感情などにつけ込んだ勧誘による取消し)。
- 民法95条・96条(錯誤、詐欺、強迫による取消し)。
- 特定商取引法のクーリング・オフ(訪問販売や電話勧誘販売は書面を受け取った日から8日以内など)。
消費者契約法による取消しには期間の制限があり、原則として、追認できる時から1年、契約から5年を過ぎると行使できなくなります(同法7条1項)。気づいた時点で早めに動くことが大切です。なお、通信販売にはクーリング・オフの制度がなく、返品できるかどうかは販売サイトの返品特約によります。
脅されたり急かされたりして書いた書面の扱いについては、脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いでも整理しています。
よくある場面ごとの整理
| 場面 | 検討する手段 | 主に動く人 |
|---|---|---|
| 気分の高ぶった時期にネット通販で高額な買い物をした | 意思能力の有無、返品特約 | 子本人 |
| 訪問や電話の勧誘で高額な契約をした | クーリング・オフ、消費者契約法による取消し | 子本人 |
| 保佐開始後に、保佐人の同意なく高額な契約をした | 民法13条による取消し | 子本人または保佐人 |
| 子が親のカードやアカウントを使って支払った | 子の契約の取消しではなく、親名義の利用としての整理 | 親 |
最後の場面は、子の契約を取り消す話ではなく、親の名義が無断で使われた問題として考えることになります。詳しくは【親子問題】子が親のカードで課金・通販をしている|成人した子の無断利用と、支払い・返還の整理や【親子問題】子が親名義で契約した|追認しないという選択をご覧ください。
親が実際に動くときの順序
契約に気づいたとき、親がとりうる行動の順序はおおむね次のとおりです。
- 契約書、領収書、申込画面、事業者とのメッセージなどを保存し、契約日・金額・相手方を確認します。
- 契約した時期の子の様子を、受診歴や言動とあわせて記録しておきます。
- 子本人と落ち着いて話せる状態かどうかを見極め、本人の意思で取消しや解約を申し出る形を整えます。
- 判断に迷うときは、消費者ホットライン「188」から消費生活センターに相談します。
- 同じことが繰り返されるおそれがあるときは、保佐・補助の申立てを検討します。
このとき気をつけたいのは、親が子の名前で勝手に取消しの通知を出したり、代わりに代金を支払ってしまったりすることです。本人の意思にもとづかない通知は効力をめぐって争いになりやすく、親が支払えば問題が表に出ないまま繰り返されることもあります。成人した子の借金や代金を親が支払う法的な義務は、原則としてありません。この点は【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかでも解説しています。
症状が強いときは、契約の話より医療を先に
子の状態が不安定で、話し合いそのものが難しい時期もあります。そのような時期に契約の話を急いで迫ると、かえって関係がこじれたり、症状が悪化したりすることがあります。取消しの期限を意識しつつも、まずは主治医や医療機関に相談し、本人が落ち着いて判断できる状態を整えることを優先したほうがよい場面もあります。医療につなぐ判断については、【親子問題】ひきこもりと精神疾患の切り分け|医療につなぐ判断もあわせてご覧ください。
同じことが続きそうなときの備え
一度の契約を取り消せたとしても、同じような契約が繰り返されるのであれば、仕組みとして備えておくことが考えられます。
家庭裁判所の保佐・補助の制度は、親などの4親等内の親族が申し立てることができます。ただし、補助の開始や、保佐人に代理権を与える審判には、本人の同意が必要です。本人の意思を尊重しながら使う制度であることを前提に、どの範囲の行為に支援が必要かを考えることになります。検討の目安については【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面で解説しています。
審判まではためらわれる場合でも、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業など、第三者が金銭管理を手伝う仕組みがあります。違いについては【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いをご参照ください。
冒頭でふれたとおり、成年後見制度は今後「補助」に一元化される予定です。施行後は、必要な行為に限って支援の範囲を定める形が基本になるとされていますので、申立てを考える際には、その時点の制度を確認することをおすすめします。
弁護士に相談するとできること
子が精神的に不安定な時期の契約は、無効を主張するのか、取消しを求めるのか、事業者と返金の交渉をするのかによって、集めるべき資料も動き方も変わります。弁護士は、どの手段が使えそうかを整理したうえで、子本人の依頼を受けて事業者との交渉や通知を担ったり、保佐・補助の申立てを支援したりすることができます。親が窓口を一人で抱え込まないための選択肢として、【親子問題】弁護士に頼むと何が変わるのか|窓口を代えるという選択もあわせてご覧ください。
子の契約の問題は、子の体調や親子の関係とも切り離せません。契約の効力を争うことと、子がこれ以上不利益を受けないように支えることの両方を見据えて、できるところから整えていくことが大切です。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


