【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際
知的障害のある子が、高額な商品の購入やサービスの契約をしてきたと分かったとき、多くの親御さんがまず「障害があるのだから、取り消せるのではないか」と考えます。ただ、法律上は、知的障害があるという事実だけで契約がなかったことになるわけではありません。どの道が使えるかは、子の年齢、家庭裁判所の審判を受けているかどうか、契約したときの状況や勧誘のされ方によって分かれます。この記事では、親御さんが最初に確かめたい分かれ目と、取消しや無効を主張した後に起きること、次のトラブルを防ぐための手立てを順に整理します。
2026年6月に、成年後見制度を見直す民法の改正法が成立しました。後見・保佐・補助の3類型を「補助」に一本化する内容で、施行は公布から2年6か月以内とされています。この記事は、現在適用されている制度にもとづいて解説しています。
知的障害があるというだけでは、契約は取り消せない
療育手帳を持っていることや、医師から知的障害と診断されていることは、それだけでは契約を取り消す理由になりません。法律は、障害の有無ではなく「その契約をしたときに内容を理解して判断できたか」と「家庭裁判所の審判を受けているか」という視点で扱いを分けているためです。
まず確かめたいのは次の表の区分です。どこに当てはまるかで、使える根拠も、主張できる人も変わります。
| 子の状況 | 主な根拠 | 主張できる人 |
|---|---|---|
| 18歳未満 | 未成年者取消権(民法5条) | 本人・親権者 |
| 成年後見の審判を受けている | 日用品の購入など日常生活に関する行為を除き取消し(民法9条) | 本人・成年後見人 |
| 保佐の審判を受けている | 借金・保証・不動産など重要な行為を保佐人の同意なく行った場合の取消し(民法13条) | 本人・保佐人 |
| 補助の審判を受けている | 審判で同意が必要と定めた行為を同意なく行った場合の取消し(民法17条) | 本人・補助人 |
| 審判を受けていない成人 | 意思能力を欠いていたことによる無効、消費者契約法などによる取消し | 本人(本人が依頼した代理人を含む) |
審判を受けていれば、契約時の判断力を一から証明しなくても取消しを主張しやすくなります。一方、審判を受けていない成人の子の場合は、次に述べる道を一つずつ検討することになります。なお、審判の効力は審判が出た後の行為にしか及ばず、審判前に結んだ契約を後見などを理由に取り消すことはできません。
審判を受けていない成人の子の契約で検討する道
意思能力がなかったとして無効を主張する
契約をしたときに、その内容や結果を理解する力(意思能力)がなかった場合、その契約は無効とされます(民法3条の2)。判断にあたっては本人の状態だけでなく、契約の重さも考慮されます。日用品の買い物と、数十万円のローンや長期の定期購入とでは、求められる理解の水準が違うと考えられています。
ただし、知的障害の程度が比較的軽い場合、日常生活を自分で送れていることなどから、意思能力がなかったとまでは認められにくいこともあります。主張する側が裏付けを示す必要があるため、療育手帳の判定区分(名称は自治体により異なります)、知能検査の結果、主治医の意見書、契約時のやり取りの記録などを集めておくことが大切です。契約した日の前後に、普段と違う様子がなかったか、誰と一緒にいたかといった事情も、判断の手がかりになることがあります。「無効」と「取消し」の違いについては、脅されて署名した念書・示談書は有効か|「無効」と「取消し」の違いでも整理しています。
勧誘のしかたを理由に取り消す
意思能力が否定されない場合でも、事業者の勧誘に問題があれば、消費者契約法によって取り消せることがあります。たとえば、重要な事項について事実と違う説明をした、帰ってほしいと伝えたのに居座った、判断力が著しく低下していることにつけ込んで生活への不安をあおった、といった場面です。本人の生活に照らして通常の量を著しく超える購入をさせた場合も、取消しの対象になり得ます(消費者契約法4条)。
この取消しには期間があり、原則として、取り消せる状態になった時から1年、契約から5年を過ぎると主張できなくなります(同法7条)。
クーリング・オフや公序良俗違反を検討する
訪問販売や電話勧誘販売であれば、契約書面を受け取った日から8日以内、マルチ商法などは20日以内であれば、理由を問わず解除できるクーリング・オフ(特定商取引法)が使えます。書面の記載に不備があると期間が進まないとされることもあるため、日数が過ぎていても書面を確認する意味はあります。また、相手の弱みにつけ込んで著しく不当な利益を得る契約は、公序良俗に反して無効とされる場合があります(民法90条)。
成人した子の契約に、親はどこまで関われるのか
子が18歳以上であれば、親であっても子の契約を代わりに取り消す権限はありません。取消しの通知は本人の名前で出すか、本人が依頼した弁護士を通じて出すのが原則です。そのため、まずは子本人と「この契約を続けたいか」を落ち着いて話し合うことが出発点になります。親が関われる範囲の全体像は、【親子問題】成人した子の問題に親が介入できる法的な範囲で解説しています。
また、親が保証人になっていない限り、子の契約の支払いを親が代わりに負う義務は通常ありません。請求の窓口が親に向いてきたときの考え方は、【親子問題】子の借金を親が返す義務はあるのかをご覧ください。
同じようなトラブルが繰り返される場合、親は4親等内の親族として、家庭裁判所に後見・保佐・補助の開始を申し立てることができます(民法7条など)。申立てから審判までは、医師の診断書や鑑定などの手続を経て、数か月程度かかることが多いとされています。どの類型が子の状態に合うかを考える際は、【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面も参考になります。
取消しや無効が認められた後に起きること
取消しや無効が認められると、契約は初めからなかったものとして扱われ、事業者は受け取った代金を返し、子は受け取った商品などを返すのが原則です。このとき、意思能力がなかった人や後見などの審判を受けている人は、手元に残っている利益の範囲で返せばよいとされています(民法121条の2第3項)。受け取ったお金を生活費に充てた場合は利益が残っていると評価されやすく、使い道によって返す範囲が変わる点に注意が必要です。
あわせて、次の点も押さえておくと安心です。
- 取り消せる契約の代金を払い続けると、状況によっては契約を認めた(追認した)とみなされるおそれがあるため、支払いを続けるかどうかは早めに判断します。
- 審判を受けている人が、審判を受けていないと信じさせるために積極的に嘘をついた場合は、取り消せなくなることがあります(民法21条)。単に黙っていただけでは、通常これには当たらないと考えられています。
- 民法上の取消権は、追認できる時から5年、契約から20年で消滅します(民法126条)。
次の契約トラブルを防ぐために
取消しが認められても、同じ状況が続けば、また別の契約が生じるおそれがあります。後見などの審判のほかにも、社会福祉協議会の日常生活自立支援事業のように、本人と契約を結んで日常の金銭管理を手伝う仕組みがあります。違いは、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで整理しています。
このほか、スマートフォンの決済やクレジットカードの利用上限を本人と相談して設定する、消費者ホットライン(188)や地域の障害者相談支援事業所に早めに相談するといった手立ても考えられます。いずれも、本人の意思をできるだけ尊重しながら進めることが、長く続けられる支援につながります。親が亡くなった後の生活まで見据えるなら、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかもあわせてご覧ください。
よくあるご質問
療育手帳を見せれば、業者は解約に応じてくれますか
任意に解約や返金に応じる業者もありますが、手帳を示すだけで法的に取消しが決まるわけではありません。応じてもらえない場合は、意思能力や勧誘の状況を具体的に示して交渉することになります。
本人が「自分で決めた契約だから続けたい」と言っています
成人した本人が続けたいと考えている場合、親がその意思に反して取り消すことはできません。ただし、支払いが生活を圧迫している、同じ業者から次々と勧誘されているといった事情があれば、本人の納得を得ながら、第三者を交えて見直す方法を検討する余地があります。
弁護士に相談するとき、何を持っていけばよいですか
契約書や申込書の控え、請求書、支払いの記録、業者とのメッセージ、療育手帳の写しや診断書があれば、状況を把握しやすくなります。そろっていなくても、手元にあるものから一緒に確認していくことができます。
ご相談の窓口
知的障害のある子の契約トラブルは、取消しや無効を主張できるかどうかだけでなく、その後の金銭管理や家族の関わり方まで含めて考える必要があります。当事務所では、親御さんの代理人として相手方との交渉を担うほか、自立支援カウンセラーと連携して子の生活の立て直しを支える取り組みも行っています。詳しくは、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
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早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


