【親子問題】親の死後、ひきこもりの子に財産の管理を任せられないときは?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

令和8年(2026年)6月に、成年後見制度を見直す民法等の改正法が公布されました。改正法は施行前のため、本記事は現行の制度を前提に説明しています。


親が亡くなった後、ひきこもりの子が相続した財産を自分で管理できるのか。まとまったお金を短期間で使ってしまわないか、必要な手続を進められるか、誰かに言われるまま渡してしまわないか。こうした不安から、「子に財産の管理を任せられない」と悩む親御さんは少なくありません。

 ただ、親が何も準備しないまま亡くなると、財産は原則として相続人である子に渡り、その後の使い方に親の考えを反映させる手段はほとんど残りません。一方で、親が元気なうちであれば、遺言や信託などを組み合わせて「誰が管理し、子にどう渡すか」をある程度設計しておくことができます。

 この記事では、親の死後にひきこもりの子へ財産の管理を任せられないと感じたとき、生前に検討できる仕組みと、それぞれの限界を整理します。

何が心配なのかを先に分けておく

「任せられない」という不安の中身は、家庭によって異なります。中身によって向いている備えも変わるため、最初に整理しておくと検討を進めやすくなります。

心配の中身検討しやすい備えの例
まとまったお金を短期間で使ってしまう信託や負担付遺贈で、少しずつ渡す仕組みを作る
相続や役所の手続を自分で進められない遺言で遺言執行者を指定しておく
第三者の勧誘や働きかけに応じてしまう財産を管理する人と受け取る人を分ける信託
病気や障害で判断能力そのものに不安がある受診を前提に、成年後見制度の利用を検討する


 実際には複数の心配が重なっていることが多く、一つの仕組みですべてに対応できるとは限りません。どの不安を優先して手当てするかを家族の中で話し合っておくことが、検討の出発点になります。

準備がないと、財産は法定相続分どおりに子へ渡る

遺言がない場合、親の財産は法律で決められた相続人が、法定相続分に応じて受け継ぎます。配偶者がすでに亡くなっていて子が一人であれば、預貯金も自宅もすべてその子が相続することになります。

 子がほかにもいる場合は、きょうだいで遺産分割協議をする必要があります。ひきこもりの子が話し合いに応じない、書類に署名しないといった事情があると、預貯金の解約や不動産の名義変更が進まず、家庭裁判所の調停に移ることもあります。

 また、相続した後のお金の使い方について、ほかの家族が口を出す法的な権限は基本的にありません。子の生活を心配したきょうだいが代わりに預かろうとしても、子本人が応じなければ管理を引き受けることはできず、かえって家族間の対立につながるおそれもあります。親の死後に起きやすいことは、【親子問題】親が亡くなった後に子が孤立する|備えとして何ができるかでも取り上げています。

成年後見制度は「ひきこもり」だけでは使えない

子の財産管理と聞いて、成年後見制度を思い浮かべる方もいます。しかし法定後見(後見・保佐・補助)は、精神上の障害によって判断能力が不十分であることが利用の前提です(民法7条、11条、15条)。ひきこもりの状態にあること、働いていないこと、お金の使い方が荒いことだけでは、利用の要件を満たしません。

 精神疾患や発達障害、知的障害などがあり、日常の金銭管理に支障が出ている場合には、医師の診断書をもとに家庭裁判所へ申し立てる余地があります。ただし、補助の開始を本人以外が申し立てるときは本人の同意が必要とされるなど(民法15条2項)、子の意思を抜きにして進められる場面は限られます。浪費の問題と制度の関係は、【親子問題】浪費が止まらない子|保佐・補助を検討する場面で詳しく解説しています。

 任意後見は、本人が判断能力のあるうちに、将来の後見人と契約を結んでおく制度です。契約の当事者は子本人であり、成人した子のために親が代わりに契約することはできません。子が将来の備えに前向きであれば選択肢になりますが、親の側だけで決められる仕組みではない点に注意が必要です。

親が生前に用意できる主な仕組み

子に判断能力がある場合でも、親の側で財産の「渡し方」を工夫することはできます。代表的な仕組みを一覧にすると、次のとおりです。

仕組み財産を管理する人子の同意主な注意点
遺言(遺言執行者の指定)相続後は子自身不要受け取った後の使い方は決められない
負担付遺贈遺贈を受けた家族不要引き受ける家族が遺贈を放棄することもある
家族信託受託者となる親族不要受託者の担い手と、その負担
信託銀行の商品・生命保険信託信託銀行・信託会社など不要対象の財産や手数料、内容変更の可否
日常生活自立支援事業本人(支援員が出し入れを手伝う)必要本人が契約内容を理解できることが前提
法定後見家庭裁判所が選ぶ後見人など類型により必要判断能力の低下が要件


遺言で、渡す財産と手続を担う人を決めておく

遺言では、誰にどの財産を渡すかを指定できるほか、相続手続を進める遺言執行者を指定できます(民法1006条)。遺言執行者には遺言の内容を実現するための権限が認められているため(民法1012条)、子が預貯金の解約や名義変更を進められない場合の備えになります。弁護士などの専門職を遺言執行者に指定しておくことも可能です。

 形式の不備で無効になることを避けるため、公証役場で作成する公正証書遺言を選ぶ方が多くなっています。ただし、遺言でできるのは「財産を誰に渡すか」までで、受け取った後の子の使い方を縛ることはできません。

負担付きの遺贈で、ほかの家族に援助を託す

財産をきょうだいなど信頼できる家族に多めに渡し、その代わりにひきこもりの子へ毎月一定額を渡すよう求める方法があります。これを負担付遺贈といいます(民法1002条)。負担が守られないときは、相続人が期間を定めて履行を求め、それでも履行されなければ家庭裁判所に遺言の取消しを請求できる仕組みもあります(民法1027条)。

 一方で、遺贈を受ける側は遺贈を放棄することもできるため(民法986条)、引き受ける家族と事前に話し合い、内容に納得してもらっておくことが欠かせません。援助が長期にわたることを考えると、引き受ける側の負担や、その家族自身が先に亡くなった場合のことも検討しておく必要があります。

家族信託で、管理する人と受け取る人を分ける

家族信託(民事信託)は、親が委託者となって信頼できる親族を受託者とし、ひきこもりの子を受益者として財産を託す仕組みです。財産の管理は受託者が担い、子は信託契約で定めた範囲で生活費などを受け取ります。毎月の生活費として一定額を渡す、住まいの費用は受託者が直接支払うといった形で、渡し方を細かく決められる点が特徴です。

 親が元気なうちに契約して始めることができ、親の判断能力が低下した後や亡くなった後も、契約に沿った管理を続けられます。受託者の管理を見守る信託監督人や、子に代わって受益者としての権利を行使する受益者代理人を置くこともできます(信託法131条、138条)。

 ただし、受託者を引き受けてくれる親族がいることが前提で、帳簿の管理や子とのやり取りなど、受託者には相応の負担がかかります。また、信託の引受けを業として行うには免許や登録が必要とされているため、親族以外の第三者に受託者を頼むことは簡単ではありません。

信託銀行の商品や生命保険信託を使う

親族に受託者を頼めない場合には、信託銀行などが扱う遺言代用信託や、生命保険の保険金を信託会社などが受け取って子へ分割で渡す生命保険信託といった商品が選択肢になります。まとまったお金を一度に渡さずに済む点は家族信託と共通していますが、預けられる財産の種類や手数料、途中で内容を変えられるかどうかは商品ごとに異なるため、契約前の確認が必要です。

日々の金銭管理は福祉の仕組みと組み合わせる

財産を少しずつ渡す仕組みを作っても、受け取ったお金を毎月やりくりできるかは別の問題です。社会福祉協議会が実施する日常生活自立支援事業では、預金の出し入れや公共料金の支払いなどを手伝ってもらうことができます。ただし、利用には子本人の契約が必要です。仕組みの違いは、【親子問題】金銭管理を第三者が担う仕組み|日常生活自立支援事業と民間の支援者の違いで解説しています。

どの備えにも残る限界

渡し方を工夫しても、子の暮らしそのものを親の思いどおりに管理できるわけではありません。検討の際には、次の点も押さえておく必要があります。

  • 子がほかにもいる場合、財産の大半をほかの子に渡すと、ひきこもりの子から遺留分侵害額請求を受けることがあります(民法1042条、1046条)。
  • 子が受け取る財産が手元に残っていると、生活保護を申請する際に資産として扱われ、まずその活用を求められることがあります。
  • 受託者や負担を引き受けた家族と子の関係が悪化すると、仕組みが計画どおりに動かなくなるおそれがあります。
  • 子の生活状況や親の財産は時間とともに変わるため、作った仕組みも定期的に見直す必要があります。


 財産を渡さない方向で考える方もいますが、相続人から外す相続廃除が認められるのは、親への虐待や重大な侮辱、著しい非行がある場合に限られ、家庭裁判所の判断を経る必要があります(民法892条)。要件は【親子問題】暴力を続ける子に財産を渡したくない|相続廃除の要件で解説しています。生活保護や年金との関係については、【親子問題】ひきこもりの子に生活保護は使えるのか|世帯分離の考え方や【親子問題】親の年金で生活している子|年金が止まった後の設計も参考にしてください。

親が元気なうちに整理しておきたいこと

どの仕組みを選ぶ場合でも、検討の前提となる情報を整理しておくと、専門家との相談が具体的になります。

  1. 預貯金・不動産・保険・年金など、親の財産の一覧づくり。
  2. 子の現在の収入と、毎月の生活費の見込みの把握。
  3. 管理を引き受けてくれそうな家族の有無と、その家族の意向の確認。
  4. 子が仕組みの内容をどこまで理解し、受け入れられそうかの見極め。
  5. 決めた内容を、公正証書など後から確認できる形で残すこと。


 子に仕組みを伝えるかどうか、伝えるならいつ誰から伝えるかも大切な検討事項です。何も知らされないまま親の死後に遺言や信託の内容を知ると、子が強く反発し、受託者や家族との関係がこじれることもあります。親亡き後に向けた全体の考え方は、【親子問題】親亡き後問題|子の生活をどう設計しておくかでもまとめています。

弁護士に相談するとできること

財産の管理を任せられないという悩みは、法律の仕組みだけでなく、子の生活の立て直しや家族間の調整と切り離せないことが多くあります。弁護士にご相談いただくと、財産の状況と家族の事情を踏まえて、遺言、負担付遺贈、家族信託などのうちどれを組み合わせるのが現実的かを一緒に検討し、遺言書や信託契約書の作成、遺言執行者としての手続を担うことができます。

 当事務所では、ひきこもりや家庭内暴力、お金の無心などに悩む親御さんの代理人として、自立支援カウンセラーとチームを組み、子の自立に向けた支援にも取り組んでいます。財産の備えと並行して、子が親の援助に頼らずに暮らせる道を探ることも、親亡き後の不安を小さくする方法の一つです。サービスの内容は、【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応をご覧ください。

 親の死後の財産管理は、亡くなった後では手を打てる範囲が大きく狭まります。子に任せられるかどうか迷っている段階から、少しずつ準備を始めておくことが大切です。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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