【親子問題】子の主治医に、家庭での暴力を伝えてもいい?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

成人した子が精神科や心療内科に通院しているご家庭から、「家で暴力があることを主治医に話してもよいのか」「話したことが子に伝わって、かえって状況が悪くなるのではないか」というご相談をいただくことがあります。診察室には子だけが入り家族は待合室で待っている、あるいは通院の付き添いすらできていない、という状況も少なくありません。

 結論からいえば、家族が主治医に家庭での様子を伝えること自体を禁じる法律はなく、伝えることが治療に役立つ場面は多くあります。ただし、伝えた内容が子に知られる可能性はゼロではなく、主治医に伝えただけで家族の安全が確保されるわけでもありません。この記事では、主治医に伝える意味と、伝えるときに押さえておきたい点を整理します。

本記事は2026年10月時点の法令・指針をもとにした一般的な解説です。医療機関ごとの運用や個別の事情によって、実際の対応は異なることがあります。


家族が主治医に暴力のことを伝えるのは問題ないのか

 医師には、診療の中で知った患者の秘密を正当な理由なく漏らしてはならない守秘義務があります(刑法134条1項)。また医療機関は、個人情報保護法のもとで、患者本人の同意を得ずに第三者へ個人データを提供することが原則として制限されています(個人情報保護法27条1項)。

 ここで押さえておきたいのは、これらのルールが縛っているのは医師や医療機関が外へ情報を出すことであって、家族が医師に情報を伝えることではないという点です。家族が見聞きした家庭での出来事を主治医に伝えても、それだけで家族が法的な責任を問われることは通常考えにくいといえます。

 一方で、伝える内容が事実と異なっていたり、実際より大きく語られていたりすると、診断や治療の判断を誤らせるおそれがあります。実際に見聞きしたことと、家族の推測や気持ちとを分けて伝えることが大切です。

主治医に伝えることにどんな意味があるのか


診察室での様子と家庭での様子は違うことがある

 限られた診察時間の中で、子が家庭での暴力を自分から話すとは限りません。本人が問題として自覚していない場合や、話すと不利になると考えている場合もあります。主治医は基本的に本人の話と診察室での様子から判断するため、家庭で起きていることが十分に伝わっていないまま治療が続いていることがあります。

治療や支援の見直しにつながることがある

 家庭での様子が分かることで、薬の調整、訪問看護やデイケアなど他の支援の検討、生活リズムへの働きかけなど、治療の組み立てを見直すきっかけになることがあります。もちろん、どのような治療を選ぶかは主治医の判断であり、家族の情報によって必ず方針が変わるわけではありません。

入院の判断で家族の情報が求められることもある

 病状によっては、家族等の同意による医療保護入院(精神保健福祉法33条)が検討される場面もあります。その際、家庭での経過は判断材料のひとつになります。家族が同意することの意味については【親子問題】医療保護入院の同意を求められた|家族が同意することの意味で、入院後の流れについては【親子問題】子が措置入院になった|退院後の受け入れをどうするかで解説しています。

伝えたことは子に知られるのか


主治医が子との診察で話題にすることはある

 主治医は、治療の必要から、家族から聞いた内容を子との診察で取り上げることがあります。本人と向き合って話し合うことが治療上望ましいと判断される場合もあるためです。「家族から聞いた話は一切本人に伝えない」と約束してもらえるとは限らない、という前提で考えておくのが現実的です。

子がカルテの開示を求めた場合

 患者本人は、医療機関に対して自分の診療記録の開示を求めることができます(個人情報保護法33条1項)。家族からの情報がカルテに記録されていれば、その部分も開示の対象になり得ます。

 ただし、開示によって本人や第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合には、その全部または一部を開示しないことができるとされています(同条2項1号)。厚生労働省の「診療情報の提供等に関する指針」でも、家族などが医療従事者に提供した情報を、その人の同意なく患者本人に伝えることで人間関係が悪化するおそれがある場合が、提供を拒み得る例として挙げられています。とはいえ、最終的な判断は医療機関が行うため、確実に伏せられるとはいえません。

主治医から子の病状を聞けるとは限らない

 反対に、家族が主治医に子の病状を尋ねても、子の同意がなければ詳しく教えてもらえないことがあります。人の生命や身体の保護のために必要で、本人の同意を得ることが難しい場合などは例外とされていますが(個人情報保護法27条1項2号)、通常は家族からの情報提供が一方通行になりやすいと考えておいたほうがよいでしょう。どこまでなら家族に話せるかを、主治医に確認しておくことも一つの方法です。

主治医への伝え方


診察の前に書面で渡す

 口頭で伝えようとすると、診察時間が足りなかったり、子の前では話せなかったりします。家庭での様子を書面にまとめ、受付や看護師を通じて診察前に主治医へ渡してもらえないか、医療機関に相談してみるとよいでしょう。医療機関によっては、家族だけで相談できる枠を設けていることもあります。

書面にまとめておきたいこと


  • 暴力や暴言があった日時と、その前後の状況。
  • 誰に対して、どのような行為があったか(たたく、物を投げる、物を壊すなど)。
  • けがの有無と、受診した場合はその記録。
  • 服薬の様子や、睡眠・食事など生活リズムの変化。
  • 家族が困っていることと、主治医に尋ねたいこと。
  • 子に伝えないでほしい内容がある場合は、その旨と理由。


 書いた書面は控えを手元に残しておくと、その後に警察や弁護士へ相談するときにも経過を説明しやすくなります。

子に知られたくない事情があるときは、そのことも書いておく

 伝えたことが子に知られると暴力が強まるおそれがある場合は、その心配も含めて書面に記しておくことをおすすめします。主治医がそれを踏まえて話題の出し方を工夫してくれることがあります。ただし、先に述べたとおり、伏せてもらえることが保証されるわけではありません。知られた場合の備えも並行して考えておくことが大切です。

主治医に伝えるだけでは足りない場面

 主治医は治療を担う立場であり、家族の安全を守る役割を負っているわけではありません。夜間や休日にすぐ動けるわけでもありません。状況に応じて、次のような窓口と使い分けることが必要です。

場面主な相談先
今まさに暴力を受けている、刃物を持ち出した110番
暴力が繰り返され、相談の記録を残しておきたい警察署の相談窓口、警察相談専用電話(#9110)
65歳以上の親が暴力を受けている市区町村の高齢者虐待の担当窓口、地域包括支援センター
病状の悪化が疑われるが受診につながらない保健所、精神保健福祉センター
子への対応や、家を出てもらうことも含めて考えたい弁護士


 高齢の親が同居の子から暴力を受けている場合には、高齢者虐待防止法の枠組みが関係することがあります。同法では、虐待を受けたと思われる高齢者を見つけた人による市町村への通報が定められており、医師などの守秘義務がその通報を妨げるものではないとされています(同法7条)。詳しくは【親子問題】高齢の親が被害者の場合|行政が動く仕組みをご覧ください。

 まずは身の安全を確保し、記録を残すことが出発点になります。【親子問題】子から暴力を受けている|まず確保すべき安全と記録や【親子問題】警察に相談した記録を残す意味|相談票と後の手続もあわせてご参照ください。親自身がけがをして受診する場合の伝え方は【親子問題】子の暴力でけがをした|病院で何をどう伝えるかで解説しています。

伝えた後に子の態度が変わったとき

 主治医との話の中で家族からの情報が話題になり、子が家族に強い不満を向けることがあります。暴力が強まる兆しがあるときは、一時的に離れて過ごせる場所や、すぐに助けを求められる連絡先を確認しておくと安心です。その日の受診後に子がどのような様子で帰宅しそうか、あらかじめ想定しておくことも役に立ちます。

 第三者が関わった後に子が逆上した場合の備えについては、【親子問題】介入の後に子が逆上した|再度の暴力への備えで整理しています。

弁護士に相談する意味

 主治医に伝えることは、治療を通じて子の状態に働きかける一つの道です。ただ、治療が功を奏するまでには時間がかかることも多く、その間も家庭での暴力や金銭の要求が続く場合があります。

 当事務所では、家庭内暴力やひきこもりに悩む親御さんの代理人として子と向き合い、民間の自立支援カウンセラーとチームを組んで対応しています。弁護士が親への攻撃や要求を受け止める窓口となり、カウンセラーが仕事探しや住まい探し、通院のサポートなど日々の生活面を支えるという役割分担です。主治医との連携が必要な場面でも、家族だけで抱え込まずに進め方を一緒に考えることができます。サービスの内容は【親子問題】弁護士が「親の代理人」として親子問題に介入するサービス|家庭内暴力・ひきこもりに悩むご家庭へ、自立支援カウンセラーとチームで対応でご紹介しています。

 家庭での暴力を主治医に伝えることは、治療のための大切な情報提供になり得ます。一方で、伝えた内容の扱いには限界があり、家族の安全は別の手立てで守る必要があります。主治医への情報提供と、警察や行政、弁護士への相談とを組み合わせて考えていくことが、家族全体を守ることにつながります。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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