【親子問題】20歳前後の子の家庭内暴力は、少年事件として扱われる?
ひきこもりの状態が続いていた子から、ある日「大学に入り直したい」「もう一度勉強したい」と打ち明けられることがあります。親としては前向きな変化に応えたい気持ちがある一方で、卒業までに数百万円かかることもある学費を出してよいのか、出したあとに通えなくなったらどうするのか、老後の資金は足りるのかと、迷いが重なるのは自然なことです。
この記事では、成人した子の学費について親に法律上の負担義務があるのかを整理したうえで、出すかどうかを決める前に確かめたいこと、出す場合の出し方、公的な支援制度との組み合わせ方、学び直しの話が金銭の要求と重なっている場合の考え方を解説します。
本記事は、成人したひきこもりの子を持つ親御さん向けに、2026年10月時点の法令と制度をもとに一般的な考え方をまとめたものです。奨学金や授業料減免の要件は年度ごとに見直されることがあるため、実際の申込みにあたっては日本学生支援機構(JASSO)や進学先の学校の最新の案内をご確認ください。
成人した子の学費を出す法律上の義務はあるのか
親は子に対して扶養義務を負います(民法877条1項)。ただし、その中身は子の年齢や状態によって変わると考えられています。経済的に自立していない未成熟の子に対しては、親と同じ程度の生活を保障する「生活保持義務」、成人して自立が期待される子に対しては、子が自力で生活できない状態にあるときに、親が自分の生活に余力のある範囲で援助する「生活扶助義務」が基本とされています。扶養義務の全体像は【親子問題】親の扶養義務はどこまでか|成人した子を養う義務はあるのかで解説しています。
大学生の学費をめぐる裁判例の考え方
成人した大学生が親に学費や生活費を求めた事案では、家庭裁判所の判断が分かれてきました。東京高裁平成22年7月30日決定は、成年に達した子の大学教育の費用を親が負担すべきとは直ちにはいえないとしつつ、話し合いがまとまらないときは、不足が生じた経緯、奨学金やアルバイト収入の有無、大学教育についての子自身と親それぞれの意向、親の資力などを考慮して定めるという枠組みを示しています。東京高裁平成12年12月5日決定も、健康な成人なのだから働けるはずだという一点だけで扶養の要否を決めるのは相当でないとして、原審の判断を取り消しました。
ひきこもりからの学び直しにそのまま当てはまるとは限らない
これらの裁判例は、親が大学進学を前提に子を育て、在学中に学費が途絶えた場面を扱ったものです。高校卒業から長い時間が経ち、ひきこもりの期間を経て改めて入学を目指す場面とは、前提となる事情が異なります。一般的には、成人して年数が経った子の再入学の学費を、親が当然に負担しなければならないと評価される場面は多くないと考えられます。もっとも、子に病気や障害があるなど、個別の事情によって評価が変わる余地はあります。
そのため、多くの家庭では、学費を出すかどうかは「義務」の問題というより、家計と子の状況を見て親が決める「選択」の問題になります。義務がないことは、出してはいけないという意味ではありません。出す場合も出さない場合も、親が納得して決められる材料をそろえておくことが大切です。
出すかどうかを決める前に確かめたいこと
「入り直したい」という言葉の中身は、子によってさまざまです。具体的な計画がある場合もあれば、今の状況を変えたいという気持ちを言葉にしたものである場合もあります。どちらであっても否定せずに受け止めたうえで、次のような点を急がずに確かめていくとよいでしょう。
- 何を学びたいのか、なぜ大学なのかという本人なりの理由。
- 入学までに必要な準備(高卒認定試験や受験勉強など)と、その期間の過ごし方。
- 決まった時間に起きて外出できる生活リズムの整い具合。
- 入学金・授業料・教材費・通学費など、卒業までにかかる費用の総額。
- 親の収入・貯蓄・年金の見通しと、老後や介護のために残しておくべき資金。
- 通えなくなった場合や中退した場合の取り決め。
とくに親の資金については、学費を出したことで親自身の生活が立ち行かなくなれば、結果として子の将来の支えも失われます。【親子問題】「あと何年この状態が続くのか」を数字で見積もるで紹介しているように、今後の収支を一度数字にしてみると、出せる金額の上限が見えやすくなります。
また、いきなり4年制大学への入学を目指すのではなく、負担の小さい学び方から始めて、続けられそうかを確かめる方法もあります。学び方ごとの特徴は、おおむね次のように整理できます。
| 学び方 | 特徴 | 検討しやすい場面 |
|---|---|---|
| 通信制大学・放送大学 | 自宅で学べ、科目単位で始められるものもある | 生活リズムや学習習慣を整えながら始めたいとき |
| 通学制の大学・専門学校 | 通学と対人関係が前提になり、費用も大きくなりやすい | 学びたい分野がはっきりし、外出の習慣がついているとき |
| 職業訓練・就労支援 | 就職に向けた技能の習得が中心で、受講料が原則無料のものもある | 学ぶ目的が仕事に就くことにあるとき |
学費を出すと決めた場合の出し方
学校へ直接、必要な時期に支払う
学費をまとめて子に渡すと、ほかの用途に使われてしまうおそれがあります。入学金や授業料は、学校から届く納付書にもとづいて親が直接振り込む形にしておくと、お金の流れがはっきりします。
税金の面でも、扶養義務者どうしで教育費に充てるために必要な都度直接支払うものは、通常必要と認められる範囲で贈与税がかからないとされています(相続税法21条の3)。一方で、数年分をまとめて渡し、子の預金として置いておくような場合は、課税の対象となることがあります。具体的な扱いは、税務署や税理士にご確認ください。
年度ごとに区切って、続けるかを決める
卒業まで全額を約束するのではなく、まず1年目の学費を出し、通学の状況を見ながら次の年度を決めるというように、区切って考える方法があります。このとき、どのような状況なら翌年度も続けるのかを、あらかじめ親子で共有しておくことが大切です。成績の数字だけで判断するのではなく、本人が学びを続けようとしているかを見るという姿勢で臨むと、話し合いがこじれにくくなります。
贈与か貸付かを決め、書面にしておく
出したお金が「あげたもの」なのか「貸したもの」なのかが曖昧なままだと、のちに返済を求めたいときに「もらったものだ」と言われ、争いになることがあります。貸付とするなら、金額や返済の開始時期を書面にしておくことが考えられます。ただ、収入のない状態から学び始める子に返済を求める計画は、実際には機能しにくいこともあります。返済を期待しない前提で贈与と整理し、その代わりに通学の条件を取り決めておくほうが、親子双方の負担が少ない場合もあります。書面の作り方は【親子問題】親子間で合意書を作る|約束を書面にする意味と限界、返済をめぐる考え方は【親子問題】子に貸したお金を返してもらいたい|「もらった」と言われたときの整理と請求の進め方で解説しています。
公的な支援制度と組み合わせる
国の「高等教育の修学支援新制度」は、給付型の奨学金と授業料等の減免を組み合わせた制度で、世帯の収入などの要件を満たす学生が対象です。ただし、原則として、高校などを初めて卒業した年度の翌年度の末日から大学等への入学までが2年を経過していないことが要件とされており、ひきこもりの期間が長い場合は対象にならないことが少なくありません。高卒認定試験の合格者には別の扱いがあるため、該当するかどうかはJASSOの案内で確認が必要です。
給付型の要件に当てはまらない場合でも、返還が必要な貸与型の奨学金や、学校独自の減免制度を利用できることがあります。貸与型の奨学金は子自身が返していくものなので、卒業後の返済の見通しも含めて本人と話し合っておくことが大切です。学ぶ目的が仕事に就くことにあるなら、【親子問題】就労支援の選択肢|サポステ・就労準備支援事業の実際で紹介している支援も、大学と並ぶ選択肢になります。
学び直しの話が金銭の要求と重なっているとき
「大学に行くから金を出せ」と求められて応じたものの、入学の手続がされていなかった、あるいは通っていなかったと後から分かることもあります。次のような様子が見られる場合は、学び直しの希望と金銭の要求を分けて考える必要があります。
- 学費として渡したお金が、別の用途に使われています。
- 学校名や入学の時期を尋ねても、具体的な答えが返ってきません。
- 支払いを断ると、暴言や物を壊すといった行動が出ます。
- 求められる金額が少しずつ増えている、または繰り返し求められています。
前提が確かめられない段階で支払いに応じる義務は、親にはありません。断ることも選択肢の一つです。断ることの法的な位置づけは【親子問題】子から金銭を要求され続けている|断ることの法的な位置づけで整理しています。断ったことで暴力に及ぶおそれがある場合は、学費の話し合いよりも先に、親御さんご自身の安全を確保することを優先してください。
親だけで判断がつかないときの相談先
学費の話は、親子だけで向き合うと感情的になりやすいテーマです。ひきこもりの子の進路や家族の関わり方については、各地のひきこもり地域支援センターや家族会でも相談を受け付けています。窓口の役割は【親子問題】ひきこもり地域支援センターでできること・できないことで紹介しています。
当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との話し合いの窓口に立ち、自立支援カウンセラーが進路や生活の立て直しを日常的に支える体制で親子の問題に取り組んでいます。カウンセラーが就学について助言し、進学に向けて歩み始めたケースもあります。サービスの内容は【親子問題】弁護士とカウンセラーはどう介入するのか|4つの事例で見るサービスの実際でご紹介しています。
子が「学び直したい」と口にしたことは、状況が動き始めるきっかけになり得ます。その気持ちを大切にしながらも、学費を出すかどうか、出すならどのような形にするかは、親の生活を守ることと両立する形で決めていくことが大切です。第三者が間に入ることで、条件や見通しを落ち着いて確かめられる場面もあります。
同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。


