【親子問題】ひきこもりの子の障害年金は、受け取れる可能性がある?

若井亮

若井亮

テーマ:親子問題

本記事の金額は令和8年度(2026年4月分から)の額です。障害年金を受け取れるかどうか、どの等級にあたるかは、提出された書類をもとに日本年金機構が判断します。本記事は一般的な仕組みの説明であり、個別の受給の可否をお約束するものではありません。


ひきこもりの状態が長く続き、親の収入や年金で子の生活を支えているご家庭では、「子が障害年金を受け取れる可能性はあるのか」というご相談が寄せられることがあります。障害年金は、病気やけがによって日常生活や仕事に支障が出ている人のための公的年金で、要件を満たせば、働けない時期の生活を支える収入になり得ます。
 一方で、「ひきこもりであること」そのものが障害年金の対象になるわけではありません。本記事では、受け取れる可能性を考えるうえでの要件と、親が家族として動ける範囲、公的な窓口の役割と限界を整理します。

「ひきこもり」という状態だけでは対象にならない

障害年金の対象になるのは、病気やけがによる障害の状態です。ひきこもりは、外出や人との交流が長期間ない「状態」を指す言葉であり、病名ではありません。そのため、ひきこもりの状態にあることだけを理由に障害年金を請求することはできません。
 ただし、ひきこもりの背景に、うつ病などの気分障害、統合失調症、発達障害、知的障害といった精神の病気や障害が隠れていることは珍しくありません。厚生労働省の研究班が精神保健福祉センターでひきこもりの相談に来た本人を調べた結果では、多くの人に何らかの精神科的な診断がついたと報告されています。
 つまり、受け取れる可能性があるかどうかは、「医師の診察を受けて、病気や障害の診断がついているか」「その病気や障害によって、日常生活にどの程度の支障が出ているか」にかかっています。まだ一度も受診していない場合は、受給の検討以前に、医療につながるかどうかが最初の分かれ目になります。

受け取るための3つの要件

障害年金を受け取るには、原則として次の3つの要件をすべて満たす必要があります。

  1. 初診日要件:障害の原因となった病気について、初めて医師の診療を受けた日(初診日)が特定できること。
  2. 保険料納付要件:初診日の前日の時点で、一定以上の年金保険料を納めていること(または免除・猶予を受けていること)。
  3. 障害状態要件:障害認定日(原則として初診日から1年6か月を経過した日)以降に、法令の定める障害の状態にあること。


初診日がどこにあるか

ひきこもりのケースで最初につまずきやすいのが初診日です。初診日は、いま通っている病院の受診日ではなく、その病気で最初に医師にかかった日を指します。たとえば、学生時代に心療内科を一度受診し、その後しばらく通院が途絶え、数年後に別の病院で診断を受けたという場合、最初の受診日が初診日になる可能性があります。
 初診日は、原則として最初の医療機関に「受診状況等証明書」を書いてもらって証明します。ところが、カルテの保存期間は法令上5年とされているため、受診から長い年月が経っていると記録が残っていないこともあります。その場合でも、診察券、お薬手帳、当時の学校や相談機関の記録などを組み合わせて初診日を明らかにする方法が検討されます。手がかりになりそうな資料は、捨てずに保管しておくことをおすすめします。

年金保険料の納付状況

保険料納付要件は、初診日の前日の時点で、初診日のある月の前々月までの被保険者期間のうち3分の2以上が納付済みまたは免除期間であることが原則です。これを満たさない場合でも、直近1年間に未納がなければよいとする特例が期限付きで設けられています。
 ここで注意したいのは、免除や納付猶予を受けていた期間は未納扱いにならない一方で、初診日より後にまとめて納めた分は要件の判断に含まれないという点です。親が保険料を代わりに納めていたつもりでも、初診日との前後関係によって結論が変わることがあるため、年金事務所で納付記録を確認してから見通しを立てることが大切です。

障害の状態にあたるか

国民年金に加入中の病気が原因であれば障害基礎年金(1級・2級)、初診日に会社勤めで厚生年金に加入していれば障害厚生年金(1級〜3級)が対象になります。精神の障害では、食事や身の回りの清潔、金銭管理、通院や服薬、人との意思疎通、身辺の安全保持といった日常生活の能力が、診断書の記載をもとに総合的に評価されます。
 障害年金の等級は、精神障害者保健福祉手帳など障害者手帳の等級とは別の基準で決まります。手帳を持っていれば受け取れる、持っていなければ受け取れない、というものではありません。

20歳より前に初診日がある場合

10代のうちに不登校や心の不調で受診していた場合など、初診日が20歳より前にあるときは、保険料を納める義務が生じる前の病気であるため、保険料納付要件は問われません。この場合、20歳に達した日(初診日から1年6か月が20歳より後になるときはその日)が障害認定日になります。
 その代わり、20歳前の病気による障害基礎年金には、本人の所得に応じて支給が一部または全部止まる仕組みがあります。ひきこもりの状態で本人に収入がない場合には影響しないことが多いものの、将来働き始めたときのために知っておきたい点です。

受け取れる額の目安

障害基礎年金の額は、保険料を納めた期間の長さにかかわらず等級ごとに定額です。令和8年度の額(昭和31年4月2日以後に生まれた方)は次のとおりです。

等級年額月あたりの目安
1級1,059,125円約8万8,000円
2級847,300円約7万円


 所得などの要件を満たす場合には、これとは別に障害年金生活者支援給付金が支給されます。障害厚生年金の場合は、加入中の給与の額に応じた報酬比例の年金が加わります。毎月の生活費をすべてまかなえる額ではないことが多いものの、本人名義の安定した収入があるかどうかは、親子の今後の暮らし方を考えるうえで大きな違いになり得ます。

家族だけで動ける範囲と、本人の意思

障害年金を請求するのは、あくまで本人です。親が本人に代わって年金事務所に相談することはできますが、本人の委任状を求められるのが一般的です。また、診断書を書いてもらうには本人が受診している必要があり、本人が受診も請求も拒んでいる状態で、家族だけで受給までたどり着くことは困難です。
 とはいえ、本人の同意が得られる前の段階でも、家族が進めておけることはあります。

  • 過去に受診した医療機関の名称や時期、相談機関に通った記録を書き出しておく。
  • 診察券、お薬手帳、学校からの通知など、初診日の手がかりになる資料を保管しておく。
  • 本人の年金保険料の納付状況を把握し、これから未納の期間を増やさないようにしておく。
  • 日常生活のどの場面で、どのような支障が出ているかを具体的にメモしておく。


 本人に話を持ちかける際には、伝え方にも注意が必要です。「障害」という言葉に強い抵抗を感じる人は少なくありません。いきなり「障害年金をもらいなさい」と迫るのではなく、「受け取れる可能性があるかどうか、一度相談してみないか」と、選択肢の一つとして示すほうが受け入れられやすい傾向があります。
 また、「年金を受け取ると働く意欲がなくなるのでは」と心配する親御さんもいます。障害年金を受け取りながら働くことは禁止されておらず、等級によっては一定の就労をしながら受給している人もいます。ただし、精神の障害では就労の状況が更新時の審査で考慮されることがあるため、働き方と受給の関係は主治医や専門家と相談しながら考えていくことになります。

公的な窓口の役割と、その限界

障害年金について相談できる主な窓口は次のとおりです。

  • 年金事務所、市区町村の国民年金窓口。
  • 本人の主治医、病院の医療ソーシャルワーカー。
  • 精神保健福祉センター、ひきこもり地域支援センター。
  • 障害年金の請求を扱う社会保険労務士。


 これらの窓口は、制度の案内や請求手続の支援には力を発揮します。一方で、本人がそもそも受診や相談を拒んでいる、親に金銭を強く要求している、家庭内で暴力がある、といった家族関係そのものの問題に踏み込むことは、多くの窓口の役割の外にあります。
 受給が決まった後に問題が生じることもあります。障害年金は本人名義の収入であり、本人の生活のために使われるものです。親が本人の意思に反して年金を管理し続けると、かえって衝突の種になることがあります。反対に、本人が年金を得たことをきっかけに親への金銭要求が強まるケースも考えられます。また、生活保護を受けている場合には、障害年金は収入として扱われ、保護費が調整されます。金銭管理を第三者に委ねる仕組みや、生活保護との関係も、あわせて整理しておくとよいでしょう。

障害年金は「親子の距離」を考える材料にもなる

本人名義の収入の見通しが立つと、親の収入や年金だけに頼らない生活を組み立てやすくなります。障害年金に加えて、必要に応じて生活保護や就労支援を組み合わせ、子が実家を出て暮らす道を検討できる場合もあります。親が高齢になるほど、「親が元気なうちに、子の生活の土台をどう用意しておくか」という視点が重要になります。
 当事務所では、弁護士が親御さんの代理人として子との話し合いや金銭要求への対応を担い、提携する自立支援カウンセラーが住まい探しや仕事探し、生活保護の申請サポート、日々の金銭管理などを支える形で、親子それぞれの自立に取り組んでいます。障害年金の請求手続そのものは、社会保険労務士など年金の専門家と役割を分けながら進めることになります。

よくあるご質問


一度不支給になったら、もう請求できませんか

不支給の決定に納得できない場合は、決定を知った日の翌日から3か月以内に審査請求をすることができます。また、症状が重くなった場合などには、あらためて請求し直すことも可能です。不支給の理由を確認したうえで、どちらの道をとるかを検討します。

過去にさかのぼって受け取ることはできますか

障害認定日の時点で障害の状態にあったと認められれば、その翌月分から受け取れる場合があります。ただし、年金を受け取る権利には時効があるため、さかのぼって支給されるのは原則として過去5年分までです。障害認定日の状態が認められない場合でも、現在の状態で請求する方法(事後重症による請求)があり、この場合は請求した月の翌月分からの支給になります。

子が40代・50代でも請求できますか

年齢だけで請求できなくなるわけではありません。ただし、事後重症による請求は65歳の誕生日の前々日までにする必要があります。また、初診日が古いほど証明の資料を集めにくくなるため、可能性を感じた段階で早めに確認を始めることをおすすめします。

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まとめ

ひきこもりの状態そのものは障害年金の対象ではありませんが、背景に病気や障害があり、初診日、保険料の納付状況、障害の状態という要件を満たせば、受け取れる可能性があります。家族が進められるのは、初診日の手がかりを残し、納付状況を確かめ、本人に選択肢として示すところまでです。本人が動けない、親子の関係がこじれて話し合いにならないといった場合には、家族関係そのものへの手当てが先に必要になることもあります。
 障害年金は、本人の生活を支える選択肢の一つにすぎず、それだけで親子の問題が解決するわけではありません。それでも、本人名義の収入の見通しは、親子が無理のない距離で暮らしていくための土台になり得ます。年金の手続とあわせて、家族の関わり方そのものを見直したいとお考えの際は、ご相談ください。

同じような状況でも、経緯や残っている記録によって取れる手段は変わります。どこから手をつければよいか判断がつかない段階でも、事実を整理するところからご一緒できます。
当事務所では、電話・メール・LINEのうちご希望の方法でご相談をお受けしています。ご都合のよい手段をお選びください。
早い段階でご相談いただくほど、選べる手立ては多く残ります。迷っている段階でも、まずはお気軽にお声がけください。

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若井亮
専門家

若井亮(弁護士)

弁護士法人若井綜合法律事務所

風俗トラブルや男女トラブル、それに伴う刑事事件まで一貫して対応。累計相談件数は男女トラブル約23,000件、風俗トラブル約8,000件。全国からの相談を24時間受け付け、迅速な対応を心がけています。

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